火、私たちはひょっとしたら。
銀世界はやはりどこまでも続いています。一年歩き続けたとしても、果ては見えそうにありません。正攻法ではどうしようもないので、魔女は、うまく頭を使います。
その日、魔女は火に命令をして、林を焼かせました。獲物をとらえてお腹をいっぱいにすると、近くの別の林に隠れました。
最初のときと同じように、一日もすると、二人組の追手が焼けた林の跡にやってきました。二時間ほど魔女を探したあと、追手は引き返していきます。
魔女はこのときを寝ずに待っていました。追手はどこかから歩いてやってくるのですから、彼らはいずれ、待機するためにそのどこかに戻るのです。それを追跡することにしました。
銃を持った相手を直接追いかけるのは危険なので、魔女は少しの間待ちました。たとえ相手が見えなくなっても、雪の道には足跡が残ります。魔女は火とともに追手の足跡をたどりました。
足跡は銀世界の外ではなく、むしろ中心に近い、雪深い谷へと向かっていました。そして、岩肌に向かうようにして突然途切れていました。
「ここを、登ったのでしょうか……?」
岩肌はネズミ返しのようになっていて、到底登れるようには見えません。登りきったところで、足跡を追って先ほどまで下ってきた道です。
魔女が立ち止まって謎を解こうとしていたとき、火は奇妙に揺れました。辺りはほとんど風がなく、何もなければ火は真上に燃えるはずです。しかし枝に乗った火は、その時かすかに岩肌を避けるように傾いたのです。魔女はそれに気が付いて、岩肌のあちこちに火を近づけてみます。すると一面の岩壁の中で、見た目は塞がれているのに、通り抜けられる隙間があるのを発見しました。
驚くと同時に、魔女の緊張感は増していました。魔法でなければこのような隠し方はできません。ほかの魔女がいて、魔女をこの銀世界に閉じ込めるのに加担している可能性があるのです。
お尻がつかえそうなくらい狭い隙間を抜けると、その先は延々地下へと続く、石の階段でした。弧を描くように続くその階段を下り続けると、大きな建物が見えてきます。外からは山にしか見えない空間の内側には、巨大な空洞と要塞があったのです。
要塞には見張りはいなかったので、正面から侵入することができました。その先の扉は、最初はツタが絡まっていて開きませんでしたが、火がツタを容易に燃やせるので、魔女にとっては障害になりません。
扉の向こうは、真っ暗な廊下でした。火が辺りを照らします。驚いたコウモリたちが暴れだしたので、魔女は走って廊下を抜けました。
廊下の奥は行き止まりの部屋でした。奥は窓で左右は壁になっており、先へ続く道はないように見えましたが、奥の光景に近づくにつれて、違和感が大きくなっていきます。外に繋がっているように見えたのはただの絵で、火が触るとたちまち燃え上がり、道が開きました。
大きなフロアの正面に階段があります。それを登りきると、木製のかんぬきで留められた、見上げるほど大きくて、豪華な装飾の扉が待っていました。誰かが待ち受けているとしたら、この先以外にはないでしょう。
魔女はここまでの道のりを、驚くほどすんなりと通過できました。居るはずの追手も見当たらず、まるで、わざと侵入を許しているかのようです。
「うまくいきすぎている気がします。火、私たちはひょっとしたら……いえ、たとえそうだとしても、立ち止まる選択肢はありませんね」
火がかんぬきを燃やすと、扉は魔女を迎えるように、ひとりでに開いていきました。
魔女を待っていたのは、玉座でした。
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