第7話 意外 な 人
「 柳 瑛 瑶 」と 応 逸 明 は、 血痕 に 用い られた 法 陣 の 傍ら に立っていた。
さらに 中心 部には 半尺 ほどの裂け目が 法 陣 全体 を二 分 しており、 槍 と、 執事 長老 の 服装 をした 修道 士の 死体 が落ちていた。
「 姉 さん、もしあなたの言うような魔気があるとしたら、きっとあの 老体 から出ているに 違い ありません。しばらくお待ちください」
応 逸 明 はその裂け目の 中 へとびこんだが、わずか 数 呼吸 の 間 に、すばやく出てきた。「あの 死体 には、 確か に魔気があった」
「 長老 の 死骸 を連れてこようとしたんだけど、触れようとしたら、あの魔気が 活性 化したみたいに 俺 に向かってきた」
「では、 宗門 の 来院 を待つよりほかはない」 柳 瑛 瑶 は、なぜ 昨夜 、 私 が 法 陣 に 近づい た 時 、こんなことが起こらなかったのか、と 訝っ た。
「じゃあ、もう 一 度、 霊 石 を置いてみようか」と 逸 明 に 答え て、まるで 店 の 小二 が 客 を 誘う ような 仕草 をした。
「ご 親切 に」 眉 をひそめ、 冷たい 目で見ると、 柳 瑛 瑶 は 先 に 昨夜 争っ た 谷 に向かって 歩い ていった。
応 逸 明 は 昨夜 一 度来ていたが、 暗かっ た 上 に 人命 救助 のために 周囲 の 様子 をよく見たことはなかった。
それを見ていると、 十 丈 ほどの 谷間 が 沈みこん で 穴 になっていて、 戦闘 の 激し さがよくわかる。
二人 が 霊 石 を 采 掘 する 洞窟 の 外 に出ると、 洞窟 の 入り口 は 大小 の 石 でふさがれていた。
ちょうど 柳 瑛 瑶 が 右手 を上げて、 両指 を 揃え て 准 備 して 剣気 で 乱 石 を 破壊 する 時 、しかし 突然 法力 の 運行 が 停滞 することを 感じ て 体 がよろけそうになった。
応 逸 明 はあわてて手をかけ、「 姉 さん、どうしたの?」
「いや、 体内 の 法力 が 枯渇 しただけだ」
「 顔色 が 悪い から、診てやろう」
「いや」 柳 瑛 瑶 の目には 寒々 とした 穂先 が 光っ ていた。そばに向かって 数 歩出て、 穴 の 入り口 を 指差し 、 冷たい 声 で言った。
「 姉 さんは・・・、わかったよ」
応 逸 明 は 溜め息 をついて 石 の 近く まで行くと、 両掌 を 外 に向け、 法力 をこめて 穴 に向かって、 洗面 器ほどの 大き さの 火の玉 を打った。
破裂 音 がして, 石 は散り散りになって 烟 尘となった。
「 姉 さんは 私 の 後 をついていく」
洞窟 の 中 は 湿気 が 多く 、 何 もかもが濡れていて、 窪ん だ 地面 には 水たまり ができている。
三 人 が 並び立つ だけの 通路 の 両側 には、 霊 石 を 運ぶ ワゴン 車 が 並ん でいて、 二人 で 食事 をしているうちに、 通路 の突き当たりにある 巨大 な 石室 にたどりついた。
石室 の 中央 には 人工 的 に 作ら れた 垣根 があり、 空間 を二 分 している。
左側 にはまだ 加工 されていない 霊 石 の 原鉱 が積まれていて、その 壁 には 同じ 大き さの部屋がいくつも掘られていて、そこには 各種 の 鍛練 器具が 取り揃え られていて、 霊 石 の 原鉱 を 加工 する 場所 であることは 明らか だった。
右側 には 荷担ぎ のような 形 をした 竹 が 百 個ほど 並ん でいるが、そのほとんどはからっぽである。わずか 数 個の 籠 の 中 に 低 階 霊 石 と 中 階 霊 石 がわずかに 残っ ていた。
「ここにあった 霊 石 は、あの 謎 の 男 に 奪わ れたものらしい」 応 逸 明 はあたりを 見回し て 不審 に 思っ た。
「 法 陣 、 血祭 、 晶 石 砕屑 」 応 逸 明 の 言葉 を聞いて、 柳 瑛 瑶 は 昨夜 見た 法 陣 のことを 思い出し た。「あの 法 陣 に 使っ たのかもしれない」
「この 邪 修 は 実 に 悪い 」と、 応 逸 明 は 竹籠 に目をやったが、しばらくして 物置 袋 を取り出し、 残り の 霊 石 を 片付け た。そして 柳 瑛 瑶 の 前 に差し出した。「 島内 の 人々 をもって 血祭り を 行う ことだけでなく、 霊 石 を かき集め て 空 にすることだ」。
「どういう意味だ」 突然 のことに「 柳 瑛 瑶 」は 一瞬 絶句 した。
「 先輩 の 使っ ていた 法 剣 が切れてしまった」 応 逸 明 は二歩 前 へ出て、 口 の 端 を 少し にやにやさせた。「この 任務 は 本来 、 私 の師 尊 は 私 たちの 脈 を 自分 で 解決 させるつもりだったのだが、なぜか 突然 、 掌 門 の 伝令 を受けて、あなたに 処理 するようにと言われた」
「そのように 私腹 を割いて、 貴殿 の御 訊問 を 恐れ ぬか」
応 逸 明 は 柳 瑛 瑶 の 直言 を気にする 様子 もなく、手に持っていた 物入れ をはかりに載せていた。「 先輩 が 将来 、 宗門 の 十 大 弟子の 一人 になって、 自分 の 事業 を持つようになったら、目の 前 にあるのは 九牛 の 一 毛 にすぎないことがわかるだろう」
「どうして 私 が 十 大 弟子になると 思っ たの?」 柳 瑛 瑶 は 瞬き もせず、その 顔 から 何 かを読み取ろうとした。
応 逸 明 は、「 法 、 侶 、 財 、地は 修 真 界 に 亘る 不変 の 法則 であり、師 姐 の 資質 をもってすれば、 将来 十 大 弟子の 一人 になるにちがいない」と 断言 した。
「それはお借りします」 柳 瑛 瑶 もぐずぐずせず、 物置 袋 を受け取るとくるりと向きを変えて 洞窟 の 外 に向かって 歩き 出した。
洞窟 から出てくると、 洞窟 のすぐ 前 に 赤い 顔 をした 老人 が立っていました。 老人 は 両手 を 後ろ に背負って、 洞窟 から出てくる 二人 を 淡々 と見ていました。
柳 瑛 瑶 は、 宗門 から 人 が 島 のことを 処理 するために 派遣 されていることは知っていたが、それが 戚 長老 で、しかもこんなに 早く 来るとは 思っ ていなかった。
応 逸 明 は 驚い て、 自分 の師 尊 にここの 事情 を 説明 したが、まさか 手の平 の 長老 がここへ来るとは、不思議なことであった。
「 昨夜 のことを、もう 一 度 話し てくれ」
柳 瑛 瑶 は気持ちを落ち着かせ、 戚 長老 に 軽く 一礼 して 口 を 開い た。「 戚 長老 、これまでの 状況 は 私 が 説明 しましょう・・・」
戚 長老 は 島内 の 霊 石 の 様子 や 人 の死などは意にもかけず、 少し 尋ね ただけで 暴露 した。むしろ、あの 血祭り のような 法 陣 や、 謎 の 修道 士について、 特別 に 詳しい ことを聞いた。
姿形 外見 から 法 の 形 、 功法 の 特徴 にいたるまで、 再三 質問 した。
しかし 柳 瑛 瑶 は、 自分 の 秘法 を 相手 に 悟ら れた 時 に 発する 言葉 を無 意識 に無視していた。
額 の 一糸 を 耳 の 後ろ に 回す と、 柳 瑛 瑶 は 渋い 表情 を浮かべた。「そして、魔気を 含ん だ 執事 長老 の 死体 は、 今 、 地面 の裂け目の 下 に 沈ん でいる。しかし、魔気のせいで 私 と 応 逸 明 はそれを持ち込むことができない」
「魔気?」 戚 長老 の 顔 に 妙 な 色 が 走っ た。 法 陣 は 私 がよく見てくるはずだ。
彼 はしばらく 柳 瑛 瑶 の 顔 を見てから、二 寸 ほどの 玉 瓶 を取り出して差し出した。「 瓶 の 中 に 三 元 帰一 丹 が 一 粒 入っ ています。気と 法力 を 回復 させることができます」
「ありがとうございました」
『まだ 五 日ある。 戚 長老 が 法 陣 のところに行った 時 、 一言 の 伝言 を 伝え て、 柳 瑛 瑶 に 心 の 中 で 一 凛と させた: 時間 はあまり 多く なくて、 私 は 急い で 回復 しなければならない。
それから 島内 の 人里 離れ た 場所 を 探し 、 三 元 帰一 丹 を 利用 して 回復 を 急ぎ 、 翌日 の 正午 にようやく 息 を 整え た。
「 瑛 瑶 ・・・」 殺意 が 凝縮 しつつあるのを 感じ た 応 逸 明 は、「 先輩 、 今日 はだいぶ良くなったようですね」と 言い直し た。
「 三 元 帰一 丹 の 効果 は 確か にある」「 柳 瑛 瑶 」は 昨日 より 少し 血の気が増しているように見えた。これからは 何 とかして、 傷 を 癒す 薬 を身につけなくてはいけないと 心 の 中 でつぶやいた。
「 戚 長老 がここまで来たのだから、すぐに 宗門 へ 戻っ て 復命 しよう」
「 応召 し、 先 に 宗門 へ 帰っ て 復命 せよ。わしにはまだやることがある」
「それだから、 先輩 は気をつけて」
柳 瑛 瑶 はうなずくと、ひらめきながら 天 を衝き、 仙 隕 絶 地に向かって 遁走 した。
今 、 仙 隕地地の 内部 に 近い 地区の 粗末 な 石室 の 中 で 一人 が 小さな 法 陣 の 中 にあぐらをかいて 座っ ている。
それは、 頭 のてっぺんがつるつるになっていて、それこそが、ゆうべ 百 脈 島 で、 張子 良 や 応 逸 明 と 戦っ た 謎 の 男 であった。
その 下 にある 法 陣 は、 小さな 聚 霊 陣 法 であったが、その 中 には 霊力 ではなく魔気が 凝縮 されていた。その 修為 は 筑 基 中期 に 達し たばかりか、魔気を 注ぎ込ん で 徐々 に 後期 に向かっていたのである。
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