第8話 クラッシュアース

 まるで平和そのものだった世界が、ある日を、いや、ある瞬間を境に大激変した。

 文明は最高度に発達し、医学は究極的なまでに進歩していた。人々は平均寿命150年を超える永い人生を大いに謳歌、満喫していた。その瞬間までは。

 それは突然始まった。

 全地球一斉に巨大地震が起きた。世界各国のあらゆるところにいくつもの長大な地割れが起こり、無数の人、クルマ、建物までもがそのパックリと開いた大口の亀裂の中に飲み込まれていった。大地が物凄い怒号のような唸りを上げ、ドス黒い天からの嵐を呼び込んだ。

 超高層ビル群タワー群が瓦礫のように崩れ落ち、その周囲にあったレールウェイ、ハイスピードハイウェイ、低、中階層ビルなどを巻き添えにして破壊していった。栄華を誇った大都市が、うねる紅蓮の業火の中で狂い踊っていた。猛風で火煙砂煙がウズ巻き舞い上がり二メートル先の視界も奪った。

 人々の悲鳴と叫びがこだまする中、血と肉の焼ける臭いがいたる所に充満していた。

 暗闇が覆う天上には輝く太陽の居場所はなくなり、北極、南極の大陸氷は溶けて蒸発し、雷鳴が轟きわたる中、海洋は大荒れに荒れ狂い、海岸付近の街を襲い来るケタ違いの大津波は限度という言葉を知らなかった。集中豪雨が幾日も、サハラ、アラビア等の大砂漠地帯に降り続いた。さらには、大雪が嵐となって降り積もっていった。

 狂ってしまった。

 地球に、極ジャンプが起きたのだ。 

 本来、北極と南極を中心軸として、地球は自転している。それが、突如、何らかを原因とし、地軸が場所を変え、その新しい軸を中心に回転運動をし始めることを極ジャンプポールシフトという。地球の自転はまったく違うものになり、当然、天候をはじめとする自然環境は激変してしまう。

 その、いきなりのお出ましに、人類の英知はなすすべを知らなかった。それも大した極ジャンプではなかったのだが。

 八十億近くあった人口はあっという間に四分の一に減った。生き残った人類にしたところで、ただ、この世の地獄を彷徨っているようなものだった。

 猛火と洪水、飢えと渇き。人間としてのモラルも秩序も粉々になって、どこかへケシ飛んでいた。

 大国の政財界の大物たちだけが、何とか安泰に包まれていた。各国が秘密裏のうちに建造していた広大な超強堅地下シェルターにいち早く避難していたからだ。もともと、核戦争を想定してのものであったのだが、この期に及び、大いに役に立ったという訳だ。

 だが、それも長くは続かないものであることを彼ら全員が承知していた。

 更にもう一度、本格的な極ジャンプが来ることを世界最高水準の量子コンピュータAIが予測したのである。

 このことは各国トップしか知らされていなかった。他の全世界の全人類がトカゲのしっぽとされた。

 

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