第13話
バキュームカータンクそばにいた俺っちは爆破の衝撃をもろに浴び、瀕死の重傷を負うこともなく一撃即死であの世への架け橋を華麗に渡った。
黄金に埋もれる感触を味わうことなく。黄金の掛け布団に包まることもなく。一撃で自分という存在が消滅した。俺っちの自我は消滅し、ただあるのは暗黒の世界。深い深淵の向こう側、ただただ闇夜が連なる途方もない空間。
俺っちは黄金に埋もれることを望んだだけだ。魂の抜けた筋肉細胞の塊は確かに黄金に塗れることは叶ったが、俺っち自身がそれを認識できていない。己の感触となって黄金と戯れたかった。それができないと分かった今、俺っちは酷く落ち込み、深い深淵の中で静かに首を垂れた。
目元を落ちる涙。あんなに憧れていた黄金に塗れる行為に一歩近づけなかった。志し半ば虚しく命は散り、黄金のおの字も見ないで虚しく死んでいった。
他の四人は黄金に無事塗れることはできたのだろうか。警官二人と探偵と助手があの場には居たはずだが。彼らは無事黄金に塗れることができたのだろうか。素直に羨ましい。羨ましいという感情が俺っちの心を縦横無尽に支配する。あれは俺っちの黄金だったはず、誰にも渡したくない輝かしい黄金だった。
拳銃を構えた警官を挑発したのは他ならぬ俺っち自身。人は誰しも糞を漏らしたことがある。大人でさえ糞を漏らすのだ、小さい子供なら尚更。
あの警官を一目見た時に直感的に思った。これは糞を漏らしたことのある人間の顔つきだと。
慈愛に満ちた寛容な心を持つ糞漏らしの経験のある者たち。彼らは人の痛みが痛い程分かる性質を持っている。そちら側を知っているかが故、あちら側も分かろうとする。糞漏らしは顔つきに顕著に現れる、偽ることのできない染みとなって深く刻まれることになる。
糞を漏らして一人前と言われる世界があるのならば、それはきっと恥じることのない生き様に映る。人間は入れて出す生き物である。粗相という名の言葉が全てをがんじがらめにしている。それは悪いことなのか。どうしよもなく悪いことなのか。
人体の器官として存在している肛門部分。人は糞を出す生き物である。糞を出さない人間は存在しない。腹にずっと溜め込むというそんな芸当誰も披露できない。やはり人は糞をする生き物である。
黄金が忌み嫌われる原因に、臭いが挙げられるだろう。あれは臭い匂いだ。とんでもなく臭い。潜在意識的に良くないモノという刷り込みが脳内でなされている。事実あれにはバイ菌が沢山含まれており人体には有害となる場合もある。
そんな黄金を体内に取り込むことで人は神に近しい存在へとなることができる。そう信じられている。
俺っちは断言できる。俺っちは神に近しい人間だった。崇高な趣味人である俺っちはあれを体内に取り込んで神に近しい存在へとなった。
そんな神に近しい俺っちが命を落とした。あんな爆発の衝撃で簡単に命を落とした。やはり完全な神との融合を果たさなければ命など簡単に失うということが分かり。輪廻転生したあとの、他人の人生を歩む時にはもう一度完全な神になることを強く誓う。
あれを黄金色に見えない人がいるとはにわかには信じられない。大多数の人間には茶色系の色味として認識しているらしい。どう見ても俺っちには黄金色にしか見えない。
あの芳しい匂いを毛嫌いする人間がいることも事実。大多数の人間にはマイナス方向の匂いとして脳内にインプットされている。生命を脅かす危険な匂いとして太古の人類から受け継がれてきた人の生存本能。黄金を体内に取り入れた俺っちは常に腹を壊し、出しては取り入れるという永久機関の構築に成功していた。
人の趣味にとやかく言う筋合いはないと俺っちは思う。その人の人生だ好きにさせろ。その人の人生全ての面倒を見れるのならばとやかく言う筋合いはあると思うが、そんな人はこの地球上に一人として存在はしない。
同じアパート内に同じフェチズムを有する人間が住んでいた。世間から見れば非常に稀なフェチズムだったらしい。彼は同時にペドフェリアという俺っちには到底理解し難いフェチズムも有していた。そんな俺っちは同時にロリコンというフェチズムを開花させた。
魔が刺しただけで人はフェチズムを容易に一つ増やすことができる。小学一年生の市子にイケないことをした。青い果実を喰らいさった。
今でも市子には申し訳ないことをしたとは微塵も思わない。きっと時間の経過がそんな記憶を綺麗に抹消してくれる。やがて大人になった市子は大人の男の匂いを覚え可憐な女性へと成長してゆく。
沙也加にしたってそうだ。スクールバス車内で糞を漏らした記憶は、やはり時間の経過が抹消してくれる。そちら側を知れた沙也加はきっと心の優しい女性へと成長を遂げる。あちら側への手の差し伸べ方が綺麗な所作となり相手の心をほんわかとさせてくれる。
沙也加の弟である隆史。これもやはり時間の経過が正常な精神へと戻る一番の近道でもある。多様性に富んだ現在の世の中において、関口という男と一時的に一体となり、一種の性癖を垣間見れたことは彼にとって人生の財産となり得るであろう。
市子。沙也加。隆史。なあ。俺っちと楽しいことしようよ。この田舎町で健全な心を育んでいけばいいよ。この田舎町で俺っちは形成された。この限界集落の田舎町でだ。なあ楽しいことしようよ。
市子も沙也加も隆史も将来的に多彩なフェチズムを有することになるぞ。大人への階段を登っていくんだ。SMプレイなんて生優しいものじゃない、他人が嫌悪感を覚える性癖を将来的に獲得していくことになる。この田舎町がそうさせる、抑圧された都会への憧れを変態プレイとして他者や自分にぶつけてゆく。
怖いなあ田舎は。
怖いなあ。この青空や澄み切った空気、自然豊かな大自然、多種多様な動植物。怖いなあ、怖いなあ、人を化け物に変えちまう、この大自然が怖いなあ。
俺っちの魂はこの田舎町を彷徨い続ける。やっぱり俺っちはたとえ怖くてもこの田舎町が好きなんだなあと自身で悟った。
小学校校舎が今日から俺っちの住処だ。
胸のときめきが抑えきれない。多彩なフェチズムを有するこの俺っちが。校舎内で秘密の遊びに興じる。
まるで神様にでもなった気分だ。
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