第8話
物語の中に謎は眠っているのではない。謎に内包されているものこそ物語の本質。
突き抜けて何か――。
突き破り何か――。
赤黒く血塗られた筋組織表皮から這い出るようにしてズルンとこぼれ落ちる何か。明かに血に塗れていると分かる。
赤子のように身体を縮こまらせ微動する頭部。
平均体温を常時三十八度前後で保っているこの物体。
やはり突き抜ける何か。突き破り何か。謎の内側に物語の本質は眠っており、断じて物語の内側に謎が眠っているわけではない。
這い出たソレは微動する小鹿のような足元でヨロヨロと立ち上がり前方へと進む。祈るような格好で胸の前で手を合わせる。
眼前に映るのは大きな大きな少女の横たわった姿。
こちらもやはり血塗れ状態で微かに息をしている状態。
屋根部分割れ目からの土砂降り雨が両者の赤色を次第に落としてゆく。雷鳴が轟き稲光が天地を駆け抜ける。一瞬の光の束。煌々と光り輝く両者の姿に。安堵の表情を互いに浮かべる盾と太刀。
追われる者の消滅したこの世界。跡形もなく消え去り平穏が訪れた歪な光景。
盾が息も絶え絶えにこう呟いた。
「未来予知は本当にあったんだね」
太刀の方も息を切らしこう呟く。
「僕は先見の明を持っている、あの時君を拾い上げておいて正解だった、やはり僕の直感力は素晴らしい」
雨は勢いを増し両者を叩きつけるように雨粒が弾けた。
バケツからひっくり返したかのような豪雨がこの村を襲い、ぬかるんだ田んぼの畦道は泥水でいっぱいになり溢れ、黒い長靴を履いた国家権力の末端が右往左往するこの現場。
赤く血塗られた――赤く。
形容し難い何かという名の赤色。
赤に塗れて赤に埋もれて。
色の識別は個人の自由。人それぞれに色の見え方は違う。赤に見える青が存在するならば――赤に見える金色が存在していてもおかしくはない。
赤色に塗れて染まった現在の太刀と盾の両者。
視覚情報だけが人体の持つ五感ではない。触覚。味覚。聴覚。それと嗅覚。
――臭いモノには蓋をしよう。匂いは漏れ出すものだ。
溢れ出るという次元ではない強大な何か。
何か臭う――酷く臭う。
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