第13話
少し前のこと。
どういうことだ。あいつが光のことであんなに取り乱すなんて。あんな苦しそうな声を出すだなんて。
隣の教室で聞いていた僕は当然混乱した。おかしくなりそうだった。
堪らず僕は、ドアのそばを離れた。
でもそのせいで、余計頭に浮かんできてしまう。振り払うように頭を振る。何度も、何度も。
僕は耳を塞ぎ目を閉じて何も考えないように膝を抱えた。
…コン、コン、コン。
ドアをノックしている奴がいるみたいだ。
「静永」どうやら思原のようだ。
「…何」僕は一瞬遅れて返事をした。
「黒崎は帰った。次はお前の番だ」ドアは開けずに会話を続ける。
「今から、大丈夫か」
まるで、僕がどんな状態かわかっているかのようだ。
「大丈夫だよ」僕は答えて立ち上がる。
ドアを開けて、理科室に踏み込む。思原は、夕日の差し込む窓を背にしていた。そして僕は思原に対峙した。
「これから猫間のことについて話す」
「うん」
「まずは猫間の死因…というかその理由についてだ」
「だからそれは」
「違う。自殺では決してない。猫間らしい、と言えるのだろう」
「お前が光らしいなんてわかるわけが」
「それは後だ。まず聞いてほしい」
「でも。前も言っていたけどさ、自殺じゃないって。責任逃れしているだけじゃないのかっ」また心が煮えたぎる。
「だからまず、聞いてくれ。…猫間はその日、忘れ物…ファイルなどを取りに学校に戻って来ていた。そこで帰ればよかったんだが…猫間は雨が好きだったのだろう?折角だからとその当時は施錠されていなかったドアを開け、屋上へ出た」
そこで思原は一息ついた。思原の話す様子は、差し込む夕日による陰影、安定して冷たい声の響き、落ち着きが相まって、微かな憂いと神々しさを醸し出していた。
そしてため息を吐く。深く吸って、吐いてまた話し出した。
「猫間はそこで何か動くものを見つけた。それは猫だった。雨の中にいたのだから、猫は濡れて、震えていた。猫を室内へ入れて温めなければ、と思った猫間は、滑らないように慎重に足を進めた。…だが猫が逃げ、端まで辿り着いてしまい、猫間は立ち止まった。けれど、手すりの奥で猫が震えているのを見て、急いで手すりを乗り越えた。案の定猫は足を滑らせて落ちそうになった。だが猫間が捕まえ、事なきを得た。それに安堵した猫間は、ひとまずファイルなどの下に猫を隠し、立ち上がった」
また思原は、疲れたように息を吐く。
「正確には、立ち上がろうとした、なのか。なんにせよ、うまくいったのはそこまでだった。安心して気が抜けていたのもある。雨で滑りやすかったのもある。そして立ち上がろうとしたところで、猫間は風に吹かれた。だからバランスを崩してしまった。踏み止まれず、手は宙をかき、そして…落ちて、死んでしまった」
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