第12話
「どうすれば、あいつは死ななかった」その声には後悔が含まれていた。
思原はどこか優しい表情をしていた。
「そうだな。過去のことは、どれだけ悔やんでも変えられない。俺たちは過去では生きられないから。それでも、忘れられないのだろう。いつまでも。後悔は心に傷として残っていくのだろう」経験がある、というような言い方だった。
「そっか。苦しいのも俺への罰なのかな」黒崎は無理矢理笑うような表情をしていた。
「過去を引きずって歩くのが、生きるということでもある。でもそれだけではなく、得たものもあるだろう」
「得たもの…」
「猫間との会話で、教えられたんだろう?それは忘れてはいけないはずだ。いつの日か、同じ過ちを繰り返してしまわぬように」
その言葉には、いつしか重い響きがあった。なにか大きな存在が宿っているような。まるで神託かのような言葉だった。
「忘れない、か…」黒崎が呟く。
「そうだ。今すぐ割り切って呑み込むのは無理かもしれない。でも、いつか思い出してくれ」
「そうだな。…忘れない。とても、大切なことだな」取り憑いていたものを受け入れ、そして心の糧にしたような清々しい表情だった。
「そして、頼みがある。実は」言いかけた思原の言葉を遮るように黒崎は言う。
「奇遇だな。俺もしたいことがある。きっと同じことだろう。…静永と、話がしたい。猫間のことを謝りたい。そして猫間との思い出を、話したい。決して忘れないために。それに今度は、いなくなってしまう前に友達になりたい」黒崎は、そう言い切って笑う。
「俺も、それを頼もうと思っていた。よかった」
張り詰めたようだった空気も消え去り、少しぎこちなく、でも暖かいものへと変わっている。
「まあ、静永がどう思うかわからないし、玉砕したらしょうがない、と思うしかないな。ま、その可能性のが高いな。ははっ」
「そうだな。まあ、素直に話すしかないだろうな」
「ああ。今日は本当にありがとう。思原に誘われたけど、俺ばっかごちゃごちゃした悩みを聞いてもらって」少し照れたように早口で言う。
「いや、いい。その思いこそが、俺の聞こうとしたことだ。こちらこそ、ありがとう」
「そっか。そのおかげで心の中が透き通ったみたいだ。なあ、思原もなんかあったら言えよ。何か背負いすぎな気がする。気のせいならいいけどな。じゃ、今日はありがとう。また明日な」黒崎は手を振って歩き出した。
「…ああ、また明日」思原は、つられたように返事を返した。
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