第11話
そして放課後。
「じゃあ静永。よろしくな」
「うん。わかってる」僕は理科準備室へと向かう。
[「黒崎。話がある。理科室にきてほしい」
「今なのか?」
「ああ、帰る準備とか、終わったのなら」
黒崎は、覚悟を決めたように、わかった、と言った。
理科室では、思原と黒崎が向かいあっているようだ。
「黒崎、これから猫間のことを話す。だがまずは、ここへ来てくれてありがとう」
「あ、ああ。うん」黒崎は、突然の礼に驚いたように返事をする。
「じゃあまずは、確認からだ。当時、猫間はいじめられていた。他ならぬお前と、他数名によって」
少し間があって黒崎は頷いた。
「何故、お前はいじめをしたのだろう」
「それは、…。きっと、楽しかったからだろう」苦しそうに言った。
「きっと、ということは、今はそう思っていない」
「そう、だな。何で楽しかったんだろうな。もうわからないよ」黒崎は、何かへの怒りを溜め込んだ表情で言う。
「俺こそ、死んだほうがいい」
何か、もしかしたら自分自身への、怒り。
「そう、安易に死んだほうがいい、なんて言うな。どちらにしろ猫間は死んでしまった。何故だろうな」
「それはきっと、俺が傷つけたからだ。体に傷をつけることで、心まで、傷をつけて。遂に…遂に自殺にまで追い込んで」黒崎は勢いよく頭を振った。
「俺が殺したっ。お前もそう思うだろう?そうだろっ?」取り乱したように叫ぶ。
「そうだと言ったら?」睨みつけるような黒崎の視線も気にせず、黒崎に答えを促す思原。
「そうだと言ったら…どうすればよかったんだ?どうしていればっ…そんなの、当たり前だな。いじめなんてしなければよかった。そこまで追い詰めていたなんて思いもせず、自分だけ楽しんで。俺は、優しさの欠片も無い非道な奴だ」
「…非道、か。猫間は、そうは思っていなかったようだが」
「っどういうことだ」
「あいつが死んだのは、自殺ではない」思原は強い口調で言った。
「じゃあ、何なんだ?」
「簡単に言うなら。猫間は放課後、猫を見つけた。そして猫を助けようとした。助けることはできたのだが、万事上手くは、いかなかったようだ。悪天候なのもあってその結果…死んでしまった」
「…猫か。あいつらしいが。本当に優しい奴だ。…だがっ。だからって俺はどうしたらいいんだ。俺は最低な」一度落ち着いた黒崎の心が再燃する。
だが、その高ぶる声を思原が遮った。
「確かに、お前は以前、最低な奴だったかもしれない。だが、今はどうだろうか」その声は、黒崎のものと反対に、静かで冷えて響く。
「お前が今も非道な人間なら、お前はそんなに怒ることはなかっただろう。ヘラヘラ笑って流したんじゃないのか?」
「でも…」
「それにお前は、初めのうちは楽しんでいたが、ずっと変わらなかったわけではない。途中からは興味があったんだろう?」
「そうだ。どうすればよかった」
「どうしたかったんだ」
思原の絶妙なタイミングでの合いの手が、黒崎の本心を引き出してゆく。
「友達に、なりたかったんだ、俺は」
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