第10話 解体

パークセントラル郊外の草原に聳え立つ、巨大なロボットのような化身「フランケンシュタイン」

その見るからに物々しい顔立ちと出で立ちをまえに、探検隊の隊長が啖呵を切って叫んだ。

果たしてこの戦いの運命は…。


「やってやろーじゃねーかよ!アンタの野望をここで叩き潰してやる!」

「野望?!なんですかそれ!?」


多少の誤解があるような言い方から始まった隊長の“げき”は、伝播する恐怖と威圧を一番先で食い止めようとする努力だった。

あれを落とすためには協力が不可欠だし、協力するのに恐怖は邪魔なものとなるのだ。


「相手がデカくたってやることは変わらない」

「それが、探検隊だよ」

「…はい!」

「ちょちょちょ、いくらなんでもあれはデカすぎるって!?どう倒すつもりなの!」


流れを見守っていたナナが、本気で慌てたように隊長に声をかけた。

全くもってその通りな疑問を隊長が頭に入れていないはずもなく、自信のある顔を皆に向けた。

そこには確かな年季と経験が裏打ちする笑みがあった。


「あたしに良い考えがある。ギンギツネ!ハクトウワシ!それとみんなも集まって」

「あの、隊長さん…!」

「瑠奈ちゃんのお父さんお母さん…安心してください。娘さんは必ず取り戻します」

「お願いします…!」


この場の状況が、あくまでも“訓練”の体を持っていることは瑠奈の両親も承知していた。

問題はその規模であり、あまりにも本気がうかがえる空気が流れている。そんな状況では万が一のことを心配してしまうのも無理はない。何より心配が仕事の親の立場なら尚のことだ。

それを宥めるように力強く叫んだ隊長の元に、呼ばれた順から集まっていく探検隊たち、巨大セルリアン“アレックス”以来の巨大な敵に対する策を練ろうというのだ。

その様子を遥か遠くからモニター越しにモスマンは見つめてから、後ろに振り向く。


「さて二人とも!準備はしっかりしてあるかね」


さて、そんな問題の人質役の瑠奈とミナだが、彼女たちがいるフランケンシュタイン頭部の、玉座の間に似た管制室のど真ん中で敬礼をかけていた。

二人の装備は元々持っていたカバンに加えて、背中に大きなバックパックが着せられていた。


「パラシュート、ヨシ!準備完了でありますっ!」

「こ、こっちも準備完了!」

「よろしい。危なくなったらそれを使って逃げたまえ。時には人質自らが抜け出すこともあるからな」


パラシュートを装備したことでやろうと思えばこの場から逃げ出すことも可能と言うわけだ。だが部屋の周りを見渡しても、どこかに別の場所へとつながりそうな通路は見当たらない。

抜け出すにしても、かなり高い全高を持つこの城砦の中で迷わずに外へと脱出する必要がある。

それを踏まえると、直接この部屋を破壊できない以上救助を待つほかに二人のできることはなかった。


「さあ、支配の行進を刻め。城自らが進み、軌跡を刻もう!」


モスマンの身体が赤く光ると、フランケンシュタインと呼ばれた巨大な城の目もまた一際明るく輝き、歩き始める。

その様子を見た探検隊たちが、一斉に身構える。

ビルほどの大きさの城が歩いてこちらに迫ってくるというのは、なかなかの迫力であった。初めて見てしまったとすれば、きっと身がすくみ上がったに違いない。


「じゃあいいね、作戦開始!」

「人質二人を救助するんだ!」

「おー!」


甲高いホイッスルの音が鳴り響くと同時に、いつものメンバーにイヌネコ、それにサイといった、アフリカを代表する陸の獣たちが一斉に走り出す。

隊長もまた自らスタッフカーに乗り、前方の巨大な、恐竜よりも大きい化け物に立ち向かっていった。

誰もが同じ方向を向いていた。全ては子供を助け出し、馬鹿げた様な威容と共にある試練を乗り越えるために。

しかして目の前に聳える巨大な建物が自ら歩いて近づいているという光景も、異常という他なかった。


「んっ、なんか音が聞こえる!」

「何!?あのデカブツの足音以外のやつ!?」

「ほら見て!あの空!」


異常だらけの状況にさらなる変化が訪れる。

黒塗りのユンカースJu-87gを再現したプロペラ機が、胴体にコウモリのマークを掲げて空に独特の音を奏でていった。

翼の上には人狼のフレンズが、堂々たるいでたちで仁王立ちをしているため少しだけ姿勢制御が難しそうであった。

一体何が起きているのか、どういうことだ全く訳がわからないぞ。──大地からそれを見上げるものたちの思考は一様に同じ色だった。

しかし分かることは、それは自分たちと同じくあの黒い巨人に立ち向かおうとしていることだ。


『あんなデカブツ、どうやって倒すつもりかもう決めてるのだわ?』

「私は探検隊と合流する。事情も伝えなければならない」

『じゃあ陸地が真下に来るまで待ってるのだわ』

『こちらトウゾクカモメ、ワタシは投下されるまでこのカプセルの中に待機してます』

『んでステップ2はラビが挑発して』

『ステップ3は私がスキを見て飛び込みます。狭いし寒いんでちゃっちゃとあの城に落としてくださいね』

『責任重大だウサ…!』


サイレンのような音を混じらせ、戦闘機がパークの上にやってくる。

それはフランケンシュタインと同じ様な黒であり、まとわりつき挑発するようにその周囲を周回していた。


『おーい!良い都庁ロボなのだわー!』

『これからその城をぶっ壊すから覚悟するのだわ!!』


駆動音を空に響かせ、城砦の顔が大きく飛行機に向けられる。

その風景はいささか異常だろう、攻略される立場の城が挑戦者をぬるりと一瞥しているのだから。


「招待を出したのはボクなら、それを貸し出したのもボク…カノーネンフォーゲルがボクのレプリカだと忘れているな?」

「まあいい、飛び入り参加者は大歓迎だ」


自信満々で赤いモニターを押しまくり、操作するモスマン。その後方で子供二人はカバンの中身を確認しているようだった。


「悪いけど、これしか使えそうなのがなかったわ」

「レーザーガン?」

「ええ。コレだけ。モスマンは危険物の扱いをよーく分かってるみたい」

「やっぱり瑠奈たちで抜け出すのは難しそうかも…」


「あんたのその青い石は…何に使うの?」

「分かんない、多分アルゲンタヴィスからのご褒美的な物だから」

「金メダルってわけね」


カバンをしっかりと閉じて、二人はこの状況を見守ることにする。

自分でできることが限られてしまっている以上は、それが唯一の仕事だったのだ。

出発前にミナが事前に物色を試みた成果が光線銃二丁だというのだから、戦況はいまだモスマンが優位を持っていた。


「そういえば、これ動くってことは私たちも危なくない?!」

「ボクが何も地震対策をしていないと思うか?」

「こっちみて!重力制御システム稼働中って書いてあるわ」

「いかなる事態になろうと内部の重力は常に保たれるのだよ」


戦いが行われる最中、二人は見学気分で近くから操縦端末を眺めていく。

あまり使われていないようだが複数のボタンがあり、それぞれにご丁寧に用途が書かれたシールがはっつけてあるあたり、それらは最終手段としてのアナログ操縦用のものであることが窺える。


「ボタン多すぎていやになる」

「ルナはボタン苦手?」

「あれ全部1人で制御するのかと思うとゾッとするもん」

「モスマンを見なさいよ、アイツは専用のインターフェイスで操作してる」

「あれどういうことなの…?

「説明しよう。ボクの力で独自のネットワークを構築することにより、多角的なアプローチからの制御が可能になるのだ」

「あんたからしたら、自分の思うように直接動かせるってこと?」

「その通り!」


「今のボクは巨人となってしまった、なってしまったのだよ!」


そう叫びながら遠隔攻撃を用いて探検隊を迎撃にかかる姿は、一種の狂気かあるいはヤケクソの感情さえ感じられる。

だが猛然として進む探検隊のグループにも二人は驚嘆する。

彼女たちを止めるには、これでは多分足りないのだろう。

これからこの城という怪物は、果たして何をしでかすのか。

身体から現れたレーザー砲で探検隊を牽制するフランケン。だが彼に、空からの攻撃が直撃する。


『こうも的が大きいと当てやすいのだわ!』

「そろそろ降りるわ。上手くやって」

『了解!』

「トウゾクカモメをよろしく」


機体が陸上に達したところで人狼が満を辞して降下する。いささか規模と危険の大きいヘリボーンを見送ったラビは視界を再び正面へと向けた。


『ちゃんと無事に送り届けるのだわ!ラビの目が赤いうちは──うわうわうわうわああ!!?」

『レーザー!?マジですか!?』


古めかしいコックピットの窓越しに見える多数のレーザーの柱。それを回避するために、ロール機動をかけていく。


『くそっ、こんなとこに生身で飛んだら自殺行為ですよ!』

『ふんぎぎぎぎー!!』


奇跡的ながらまだ飛行を保っている攻撃機が弾丸を放つ。

大きな爆炎を怪物の胸に咲かせたのちに脇をすり抜けて、たかだか攻撃機一つに向けるものではない弾幕の雨から離脱していく。

城砦の顔がそれを追いかけようとしたその時、自身の足元に攻撃がぶつかる衝撃を感じた。

探検隊のヒグマがその武器で地面を抉り、投石にて攻撃しているのだ。


「おっとっと、君だちももちろん忘れていないとも」


モスマンが徐に探検隊に向けて右の拳を突き出すと、城砦も同じ動きを取った。

そのわかりやすい動きから、何をしてくるのかは戸惑いとともに明白であった。


「武装解除、ロケットパンチ!」

≪Rocket Punch engage≫

「喰らえっ!」


すると右腕の肘から先が飛翔し、驚くべきことに拳を握ったまま巨大なロケットとして探検隊にまっすぐ突っ込んでくるではないか!


「えぇ!?」

「隊長さん!!パンチが飛んできます!」

「ドール!ライオン、ヒグマ!打ち返せ!」

「よぉし!」


怯む事なく出された号令に伴い、三人が飛び出す。

赤い狼の牙、獅子の雄叫び、熊の剛腕。だがそこに折よく、大きな狼の爪も重なった。

遥かに巨大な拳も堪らず跳ね飛び、横合いに吹っ飛んで墜落していく。

突如現れた乱入者に、全員の注目が集まる。それは驚きと同時にこの戦況を勝利へと導く存在かもしれないと、期待も十二分にこもっていたのだろう。

事実それをみた隊長の声は、喜ぶべきか迷ったような声色を纏っていた。


「ウェアウルフ!」

「事情は私たちも知ってる。長い話は無しよ」


上空からサイレンが鳴る。それは鉄の鳥の風切り音だった。

翼に備わる大型の砲が、大袈裟な音を立てて弾を放ち、城砦に大きな爆発を持って攻撃していく。

それは肩、足、太もも、そして胸部ど真ん中へと命中し、当てるだけ当てて離脱し高度を上げていった。


『うまくやるのだわ!トウゾク!』


ぐるりと旋回しながら高度を上げ離脱を試みるスツーカに待ったがかけられた。

巨大なゴーレムの顔面を通り過ぎた次の瞬間、煉瓦造りのような顔が口を開く。

そして翼をアギトの牙のもと叩き潰したのだ。


『ちょっっ!!うそでしょ!?』


落下する直前にラビの身体が飛び降り、そのまま地面に転がり込む。

奇跡的にダメージが少なかったのか、そのまま探検隊がいる方へと走り去っていく姿を見て、城砦がガッツポーズを取った。


「ハッハッハ!これで目の上のたんこぶは全て死に絶えた!」

「口開くんだそれ」

「後でそこ狙われても知らないわよ」

「怖いことを言うんじゃないよお前たちは。お黙り!」


遥か上空城砦の中で小芝居をする三人を遠目に、探検隊に二人が合流し始めるのを見ているものがいた。

ふらついて少し疲れた様子のトウゾクカモメであった。


「ってて…い、生きてる、生きてる!衝撃凄かったけど生きてるので儲けもんですね」

「さあ早いとこ中に入らないと…」


* * *



戦いの緊張は尚も続く。

城砦との戦闘で激しい戦地と化した郊外の草むらには、ただの試練とは思えぬ一触即発の空気が漂っていた。


「ウルフ〜〜〜〜っ」

「ラビ!こっちよ、早く」


先程撃墜された飛行機から降りてきたフレンズも探検隊に合流する。

二人の間には関係がありそうだったが、今はそれを訪ねている時間も惜しい。

隊長は簡潔に尋ねた。


「細かいことは言いっこなしだ。まず名前教えて」

「キラーラビット、ラビで大丈夫」

「了解、助力に感謝する」

「…これからどうするつもり?」

「あたし達でまずあいつをすっころばす。アイツを横倒しにしないと話にならない」

「その上、転倒させる前にあの二人を助けないと危険だ、ネコの子達に戦いの隙をぬって侵入させようと考えてるけど」

「待って」


自分の考えに待ったをかけた人狼に、隊長が興味ありげに目を向ける。


「あの二人なら私の友達が助けに行ってる。トウゾクカモメよ」

「あの子が入ったカプセルはもう投下済み、城の中に侵入してるはずなのだわ!」


この二人、いや三人と言うべきだろうか。彼女たちを繋ぐ連携を見て、隊長は目を丸くしながら頷いた。話す時の様子からして出会ってそこまで日が立っていないにもかかわらず、三人の動きは統率された物を感じた。

彼女たちの力を借りることができれば…と、希望を確信した覚悟の顔になる。

そしてドールたちと目を合わせたのち、口を開いた。


「分かった、ニュープランだ。トウゾクカモメと人質の離脱を確認次第、ここにいる子達の全てをやつの片足にぶつけて転倒させる」

「歩行中、あるいは足による攻撃を誘発を手伝って!」

「了解」

「おまかせなのだわ!」

「よし!二人とも乗り込んで」


二人を乗せ走り出したスタッフカーを取り囲むように、足の速いフレンズたちが走っていく。


「!隊長さん!フランケンの様子が…!」

『どうした!ボクをカイオウだと思え。巨大セルリアンに取り巻きはつきものだ!』


フランケンシュタインの城壁があちこちミサイルハッチの様に開き、そこから無数の無人機が大挙して空から探検隊達に向かっていく。

その形状はどこかセルリアンにも似た形状であり、無機的なものがプロペラもジェットも持たずにフレンズ達に立ちはだかった。


「迎撃だ!」


スタッフカーに差し向けられた追手。だがそれに構っている暇はない。フレンズたちが最低限を迎撃し、その道を切り開いていく。

窓越しにドールが車両に向かう個体を破壊し、マイルカがジャンプと共に撃ち漏らしを叩き落とす様子が見える。

ここにいる全員が、その経験則を持って対応していることが伝わってくる。つくづく味方で助かったと、ウェアウルフは思考した。


「問題は、転ばせたあとどうするの!?」

「ここでは言えない、アイツが聞いてるとも限らない」

「だけど、あたし達にも切り札はある!」


城砦が地面を抉り、上空から複数の落石が襲ってくる。

それでもスタッフカーとフレンズは止まる事なく、岩を避けながら道をそれて迂回していく。


「アイツが提示した成功条件はモスマンの無力化と人質の安全圏確保だ、どちらも満たすまでは戦いは続く」

「救出はそのトウゾクカモメに託して、探検隊でこの城砦を攻略する!」

「ならば僅かでも確率を上げるため、私たちも手を貸すわ」

「ありがとう!」

「呉越同舟、一蓮托生っ!力を合わせて巨人退治なのだわ!」


再び怪物が地面を殴り、破片となった大地のかけらが降り注ぐ。

滑るようにカーブしていく車両を掠める岩を持ってしても、探検隊はあっという間に脚部付近までたどり着いたのだ。


「脚部が近づいてきた!総員アタックあるのみ!」

「力でねじ伏せろってか。りょーかい!」


計画通り、この場にはいない鳥のフレンズを除いた探検隊の全てがフランケンの足元にぶつけられる。

相手がいかに凄まじいスペックを持っていようと関係ない。図太く大地を踏みしめるフランケンの足が揺さぶられる。


「きゃあ?!」

「うお!」

≪脚部衝撃確認。フレンズからの一斉攻撃≫

「クソ、なんて早さだ!倒れる確率は!?」

≪93%の確率で、この機体は安定が保証されます≫



「ねえほんとに大丈夫なの」

「運を天に任せるのみよ」

「運転してんのはモスマンなんだけど!?」

「ちょっと黙っててくれ!いま集中してるから!」


フランケンが右足を上げて、攻撃を仕掛ける探検隊の元に影が指す。

そのまま巨大な無機物の塊が逃げる暇を与えず集団を踏みつけにしその姿を隠した。

大きな衝撃とともに、モスマンは脚部付近の様子を確認した。


「うおっ!?」


モスマンが面食らったのも無理はない。

間も無くして映し出される様子は、その足を突っ張って圧壊を済んでのところで防いでいる探検隊たちだった。

ヒグマ、ライオン、ホワイトライオンに続いて、大勢のフレンズがその足を全開の力で受け止めているではないか。


≪多数のフレンズの野生解放を確認≫

「マジかよ…やるじゃないか!」


自分の想像していた以上に粘り強い探検隊の姿を見て、モスマンの顔に冷や汗が垂れる。

探検隊が受け止めている最中、一際大きな気迫を持つフレンズが、その拳を打ち付ける。


「無駄よッ!」


次に襲いくるは連打、連打、連打。

他のフレンズも続いて一斉に足を攻撃し、フランケンがかける体重とマシンパワーをあっという間に飛び越えてみせた。

再び衝撃が走り、モスマンが右足を打ち上げられたような姿勢になる。


「うおおっ!」


それを指し示すように、コックピット内に嫌な浮遊感が襲ったその時だった。赤い窓ガラスが叩き割られ、光が差し込む。光に照らされた大きな影が、モスマンの視界に大写しになった。


「これはラビさんからの土産ですよっと!」

「っち!」

≪自動操縦、起動≫


侵入者は十字架のついた爆弾をモスマンに投げ込む。

近くで爆発したそれに吹っ飛ばされたモスマンの制御を失い、猛威を振るった不動の城砦がその快進撃を止める。


「さあ早く手を!」

「ちょ、アレ大丈夫なの!?」

「ラビの話を信じるなら殺傷能力はないモノです、急いで脱出ですよ!」


瑠奈とミナの二人を両脇にしっかり抱き抱え、倒れゆく城砦から飛び去る。

直接攻撃による無力化と救出を同時に済ませたフレンズが、手際良く二人を「頂いた」のだ。

空に解放された二人が、後方でゆっくり後頭部から倒れる城砦を見守る。

あれだけ大きなものが、あんなにあっけなく転倒してしまうだなんて。


「いやった…!!転倒確認!!」

「空にトウゾクカモメも居る!二人は無事よ!」

「いえーい!!」


「この機を逃すな!セルリアン破壊爆弾MarkII全弾投入!」


ウルフとラビは、その言葉とともに上空を飛来する鳥のフレンズの一団を見た。


『こちらトール01!これより爆撃を敢行する!』


高速で飛翔する鳥のフレンズ部隊が倒れたフランケンシュタインへと向かって飛んでいく。先陣を切るのはハヤブサとオオタカ。

その後ろから、ハクトウワシとハシブトガラスが、両手に大きなバリア貫通爆弾『セルリアン破壊爆弾MarkII』を吊り下げ、飛翔していく。


『ギンギツネ!キタキツネ!レーザー誘導!』

『レーザー感度だいじょーぶ!しっかり狙えるよ!』


爆弾下部からカメラが顔を出し、機械の瞳がしっかりとフランケンの胸部ど真ん中を睨んだ。


『キャプチャー!いける!』

『投下!』


投下されたセルリアン破壊爆弾がフランケンの胸部に直撃する。先の攻撃で脆くなった部位を破壊して内部に入り、そのまま爆発し煙が破裂的に成長していく。

その様子すから間も無くして、第二波がスタッフカーの真上を通り過ぎた。


『弾着確認!第二波急げ!』

『こちらトール02、目標地点まで後少しよ!』


ハクトウワシたちが速度を上げて向かう。

勝利まであともう少しだ!

流行る気持ちが彼女たちの背中を押していく。


『ギンギツネ!レーザー誘導は!?』

『大丈夫!バッチリ捉えてる!』


勝利まで目前というところで、異変がギンギツネから叫ばれた。


『!?映像にノイズ有り!これじゃレーザー誘導が出来ないわ!』

『ジャミングか!』


最悪の事態は重なる。

フランケンの身体のあちこちから伸びる対空レーザーが、先程の攻撃機に差し向けるように二人に襲い掛かったのだ。


『対空攻撃です!離脱しますか?!』

『いいえ!このまま奴にぶつける!』


レーザーの隙間をぬって徹底的に二人は避け、爆撃ポイントに近づいていく。

身体中から対空攻撃を放ちながら、フランケンシュタインが両腕を地面に踏ん張り、起きあがろうとしている。

その様子はハクトウワシたちに焦りをもたらす。だが手を離してはいけない。彼女たちの目元が、真剣極まったモノになる。


『まずい、動き出してる!?』

『ボクが誘導する!方角を教えて!』

『了解です!ギリギリまで近づきます!』


翼を動かして、近づくことができる限界寸前まで狙いを合わせる。

数秒して視界がレンガでいっぱいになる。もう限界であった。


『投下するわ!!ターゲット上方に移動!』

『bomb’s away! bomb’s away!』


ハクトウワシとハシブトガラスの二人が離した爆弾がレーザー照射を隙間を通り抜け、そのままフランケンに開いた穴をもくぐった。


『ィよし!!』

『みんな下がってください!早く!フランケンシュタインが爆発する!』


二人の鳥が高度をあげ、戦線を離脱する。

その時身体を持ち上げかけていたフランケンに異変が走り、ふたたび身体が倒れる。その大きなレンガのボディが全て陥没するように沈んだかと思えば、吹き上がる間欠泉のように虹色の爆炎が、一気に咲き誇った。

凄まじい規模の爆発音とともに、空へと立ち上っていく。

その様子を目の当たりに、効果抜群を確信したハクトウワシが声をあげる。


『Bull's eye Bull's eye Bull's eye!』

『フランケンシュタイン沈黙!中枢部大破確認!』


離脱している最中だった探検隊がその効果を見上げて、皆一様に驚きの声をあげていた。

ギンギツネが新造していたあの爆弾の威力は、彼女が込めた本気を伺えるほどの威力を持って守護の怪物にとどめを刺したのだから。


「うわーえげつねえ…!」

「前のセルリアン破壊爆弾が女王に効かなかったからってあそこまで火力増やす!?」


その威力を称賛するかのような大きな爆煙が、フランケンの胸から大樹のように聳え立っていた。

その様子を見ていたトウゾクカモメたちもまた、驚きの声をあげる。


「ひえーー…やりすぎでしょういくらなんでも」

「モスマン大丈夫なのかな…?」

「…心配だけれど、同時に思うの。アイツがあれで大人しく負けて、引き下がるはずがないって」


大の字になって中枢部が爆発した現場を見下ろして、モスマンと親しいミナだけが怪訝そうな顔を浮かべていた。

兎にも角にも、今現在は戦いは終わって、全てのフレンズが離脱しようとしていた。


「みなさん!まだモスマンがコックピットにいるはずです。彼女の安全確認を!」

『ラジャー!すぐに調べ───!?』


元気よく答えたのはハクトウワシ。だがそんな彼女の視界に、光を伴って飛んでくる物体が見えた。


『あれは…ミサイル!ミサイルよ!回避!』

『何ですって?!』


沸き立つ勝利も束の間、黒く濁りゆく爆炎から、煙が触手のように多数伸びていく。

その先端には、小型の飛翔物───ミサイルそのものだった。

それらが鳥のように群れをなして、爆弾を差し込んだスカイインパルスたちに殺到した。


『何だこれは!?どうなってる!?』

『最後の足掻きって訳ね!数は?!』

『124!小さいやつだけだ!』

『数が多いです!各自散開を!』


追いかける多数のミサイルはフレンズたちの近くで爆発し、その恐怖をより間近で伝えようとしている。

まるで天高く舞い上がったフレンズたちを抑え、地面に押し付けるように、弾幕は広がった。


「隊長さん!」

「全員退避ーっ!!全員死ぬ気で陣地まで戻れーっ!!」


その最後のミサイルの群れに対し、探検隊の全員が撤退していく。

ここで生き残れば、少なくとも勝つことができる。

モスマンが身を賭して伝えたいことは、こうやって倒したからといって油断してはならない、ということ。


『トール01!状況は!?』

『ミサイルが掠めていった!まだ後ろにもいる!』


無線は叫びに包まれ、一気に混沌とした空気となった。

それを耳にするものたちも、ただただ口を閉ざして無事の帰還を祈るだけだった。

爆炎の元、空を覆うように乱立する爆破の花が、探検隊に大きくプレッシャーをかけていく。

それがたったの数分、長く続いた。


「飛び込めーっ!!」


ハクトウワシたちがスタッフカーに飛び込み、速度を増していく車両の中に入り込んだ。


「全員無事!?」

「ええ!」


ウルフの声を受けてそのまま隊長はアクセルを踏み、元の陣地まで一走りしていった。

後ろの惨状を見る暇は、その時にはなかった。

だがスタッフたちが集まっている陣地の前で止まって改めて、その爆発の跡たちを見ることになる。

試練にしてはいささか荒々しい情景は、モスマンという生物の気性の荒さを示しているようだった。


「…よし!予定外の攻撃はあったけれど、欠員なしよ!」

「良かった…!」


ハクトウワシの声で、周りが一気に安堵のムードへとなる。


「これで探検隊の勝ちだね!」

「うん、後はトウゾクカモメが二人をヘリに乗せれば…」


隊長が言葉の途中で詰まって、空を見上げた。


探検隊の航空戦力は、みな先のミサイル迎撃を交わし、最終的にバスに乗り込む形で地上に全員降りている。

空には無防備もいいところのトウゾクカモメと子供たちの三人だけ。

彼女たちを守れる存在は、近くにいない。


───そこで、真の目的を悟った。



「ラッキー!瑠奈ちゃんに通信開いて!!」



上空を飛ぶ瑠奈のカバンが一際大きく揺れる。

そこから、三人にも聞こえる音量で声がつんざいた。



『避けろぉぉぉぉぉっっ!!!』


それが聞こえた瞬間には、トウゾクカモメは動き出していた。

そして、あってはならない光景が飛び込む。


自分の背後を何か鋭いものが掠めていく感覚の刹那、眼前のヘリの尾が断ち切られ───トウゾクカモメの中に、大きな焦りが生じる。

試練の成功条件の場所が一つ潰され、そして背後には、恐るべき存在が追跡しているのだと。

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