画竜転生

ヒロセカズマ

画竜転生



 目が覚めると俺は闇の中にいた。



「目が覚めましたか?」



 美しい女性の声が聞こえると、足下が光り出す……俺は立っていたのか? 目の前にいるのが声の主?



 今まで見た事も無い美しい女性だ。肌が見える色気のある格好なはずなのに不思議と邪な気分が沸いてこない。



「ここは生と死の狭間……あなたは元の世界『地球で』命を落としました」



 俺は死んだのか? でも実感がわかない……確かに信号無視のトラックに轢かれそうになった子供を助けた……記憶が曖昧でよく思い出せない。



「混乱するのも無理はありません。ですがあなたの尊い犠牲で子供の命は救われました」



 そうなのか……俺の行動が無駄では無かったのか。



「それにしてもずいぶん落ち着いていらっしゃいますね? このような状況、取り乱してしまっておおかしくはありませんのに」



 きっと、少し記憶が混乱して現実感が無いからだろう。それに何というか、自分が立っている感覚が無い。



「そうでしょうね、ここにいるあなたは魂だけの存在です。遅れてしまいましたがわたくしは女神アルテナと申します……あなたのこれからについての案内をいたします」



 ここまで来れば俺にもどういう状況か分かってくる……これはアレだろう、アレしか無い!!



「どうかされましたか? 何やら嬉しそうな顔をされていますが?」



 い、いや、何でもありません……というか、今まで俺は喋っていないのに心の声が聞こえてしまっているのだろうか?



「その通りです、今のあなたには肉体がありません。でも全て頭で考えた事が伝わりますから問題はありませんよ」



 それは……良かったのか? いや、まずは女神様の話を聞こう。



「それではあなたの今後についてお話ししましょう。あなたは本来死んでしまう予定の子供を助けて、身代わりとなり命を落としました……その尊い行動を評価されて、あなたを今一度生まれ変わらせる……転生をする事が出来るように計らいます」 



 おっしゃ!! 転生キター!!



「え? どうされました? 急にテンションがあがりましたね?」



 い、いえ、何でも無いです……生まれ変われる事に喜びを感じました。



「そうですか……それではもう一度地球に生を受け……」



 ええっ!? 地球なのかっ!? 異世界では無いのか!?



「ええ? どうしたのですか? 大概の人間は同じ地球に生まれ変わるものですし、それを喜ぶはずなのですが?」



 い、いや、もしかしたら違う世界に転生とかあるのかと思っただけです、はい。



「……確かに地球とは違う世界への転生も可能ではありますが……」



 おおっ!! やっぱりあるのか異世界!! やったぜ!!



「何やら感情が高ぶっておりますね? 地球よりも異世界への転生を望んでいらっしゃるのですか?」



 え、ええ、地球も良いですが、昔からファンタジーな世界に憧れを持っていました。



「でも、文明レベルが低い所では命の危険もありますしおすすめは出来ませんよ」



 ほら、そこはチートな魔法とかスキルとか授けて貰ったりとか出来ませんか?



「はぁ、確かにそういう加護を与える事は可能ですが、余程の理由が無いと難しいです」



 なに!? チートを貰うのは無理ですか……じゃあ、せめて前世の記憶を持ち越すとかは出来ませんか?



「そうですね、それくらいなら過剰な力を与えるよりは大丈夫でしょう」



 よっしゃーー!! これなら知識チートが出来る!! この為にガッツリ勉強もしてきた甲斐があったぜ!!



「このため? 勉強されていた? どういうことでしょう?」



 あ、いえ、なんでもないです。



「ちょっとお待ちください……あなたは生前、現在の地球では全く不要な事柄を調べていらっしゃいますね……農業、工業、医学……ずいぶんな時間をかけて勉強をされていらっしゃるようですね」



 い、いや、興味本位です、色々な漫画や小説を読んで気になったというか何というか……。



「あと、事故当初に持っていた物も何でしょう? ソーラーパネル、ポータブル電源、ノートパソコン、ドローン、サバイバルグッズなどリュックに沢山入っていますね」



 いや、転生では無くて転移だった時……ではなくて、いつ何時震災のようなトラブルが起きても生き残りたいなぁなんて考えていまして。


「……今回の件以外もずいぶんと人助けをされていますね? 同じように交通事故以外にも海で溺れた方の救助や火災現場での人助け、ずいぶん表彰もされているようです」



 あはは、困っている人を放っておけないというか…… 



「まさかと思いますが、この状況になる事を狙っていましたか?」



 !? とととととと、とんでもない!! ただの知識欲と人助けをしたいと心から思っていただけです!!



「女神の前では嘘はつけませんよ?」



 ………………。



「急に無心になりましたね? まさかこれも訓練したのですか?」



 いえ、決して異世界で心を読むようなスキルを使われても大丈夫なようにとか考えていません……しまった、今考えてしまった!!



「………………」



 ………………。



「もしも、私利私欲でこのような事態になった場合は……」



 ご、ごめんなさい!! 俺は異世界転生でチーレムチートハーレムしたかっただけなんです!! 私利私欲ではありますが、決して今までの人生で悪い事もしてきませんでしたし、良い人間となるように生きてきたつもりです。どうか異世界転生お願いします!!



「………………」



 女神様……転生がしたいですぅ…………



「わかりました……あなたの欲望はともかく、生前に行った善なる行為を元に神々で審議をし、あなたの行く末を決めましょう」



 !? これは期待していいのか!?



「………………審議が出ました」



 ドキドキ……



「今までのあなたの行動、あなたに助けられた人達の感謝の気持ち等を考慮して」



 ………………



「もう一度地球に生まれ変わり、身体能力、頭脳も最高レベル、容姿も最高のルックスで異性の引く手あまた、両親の財力も世界の5指にはいる家の子供に生まれ変わらせます」



 のおおおおおおおおおおおおっ!! 俺のチートでハーレムで金持ちの夢があああああっっ!!







 ……ここに俺の人生の全てをかけた夢が潰えたのだった……これが画竜転生に欠くと言う事なのだろう。




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異世界以外の夢は叶っています。

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