第4話

 また最初からですか? はぁ、わかりました。

 お仕事大変ですね。ええ、私も、だいぶ疲れました。


 あの日あの時、私は確かに学食にいました。南館三階の。一人です。友人誘ったんですが、レポートの提出期限が押してて学食に行く時間も惜しいって言うんで。彼女には後で惣菜パンを差し入れました。コロッケパンです。

 私が食べたメニューは焼き鯖定食です。付け合せは……あ、それはいいんですか。

 それで、十二時半ごろですね。焼き鯖をつついてたら、少し離れた席がワッと盛り上がりまして。

 知らない女子学生が知らない男子学生に、ピンク色の箱を渡してました。

 十四日ですから、そういうことでしょう。男性に贈るのに、ピンク色はどうかと思いましたけどね。

 はい、どちらの顔も、知りません。

 その後も会ったことはありません。

 学科が違うんじゃないですかね。

 だから、何故私ばかりこう何度も同じ話を聞かれるのか、正直よくわからないんですけど……。

 そうですよね、そういうお仕事なんですよね。わかりますよ。でも、こちらのことも分かっていただきたいなぁって。

 はい。手短にね、はい。


 学食で他の人の顔なんてジロジロ見ませんし。本当に、その人達のことは知りません。


 はい、そうです。北館の噂をつくったのは私です。


 幽霊を見たと騒いで北館を閉鎖させた教授が、死んだ後自らが幽霊になって彷徨ってる、っていう作り話です。


 入ったことは……あり、ます。すいません、一度だけ。

 でもエレベーターは動かないし、崩落した階段を登る勇気は流石になかったので、一階部分をほんの少しだけですよ。

 程度の問題じゃない? 御尤ごもっともで。

 本題、それなんですか? 住居不法侵入みたいな? 違うんですか。

 入ったのはその一度きりです。何をしたって、何もしてませんよ。立ち入って、眺めて、出ました。本当です。指紋とか靴跡とか調べてもらって構いませんよ。


 ……二階より上から、酒盛りのあとが見つかった? それは、なんとも不届きな学生がいたものですね。私が言えることじゃありませんが。

 お酒は飲みますけど、わざわざ廃墟で飲むってなくないですか。だって、お酒って夜飲むものでしょ。明かりが必要になるし、エアコンもないし、幽霊は出なくても虫やらネズミやらでるでしょうし、何より汚いし。

 あー、散らかした後を片付けなくていい、なるほど。

 でも私、小市民なので、そんなことできませんよ。


 話逸らしたのはそちらじゃないですか。


 いえ、幽霊は勿論ですけど、死んだ教授も、北館が本当は閉鎖じゃない話も、全部嘘です。

 北館は老朽化で閉鎖されてるって聞いてます。



 見つかった……って……。その話をどうして私に?

 関係ないですってば! 本当に!

 ……あの時の女子学生が、彼女だった!?

 そんな筈……だってあの後会っても、そんな話いちども。

 それに、レポートに追われてたから、男子学生にプレゼントなんて考えてる暇なかったはずです!

 最近? 最近……あれ?

 私、彼女と最後にあったの、いつだったっけ……。

 彼女、って……。


 彼女、なんて名前でしたっけ?

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消エ失セリ 桐山じゃろ @kiriyama_jyaro

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