第2話

 雨の日に傘を貸してくれたとか、落としたハンカチを拾ってくれたとか、分かりやすいエピソードはないの。


 講義で隣の席になって、何度か話をしてるうちに、親切な人だなって思ったのが最初だった。

 本当に、即物的なわかりやすさはなくて。

 だから説明もしづらいのだけど、とにかくいい人には違いないって分かった。

 好きになる時なんて、そんなものじゃない?


 それでその、今月のイベントで、渡したのよ。本命を。

 でも向こうからしたら青天の霹靂だったらしくて。困ってたわ。困らせるつもりはなかったのに。

 私、この時間はいつも北館にいるから、って伝えておいたわ。


 北館ね。老朽化による取り壊し、なんて言われてるけど、あれ嘘よ。


 じゃあ何故立ち入り禁止かっていうとね、出るんですって。


 待って。行かないで。ちゃんと説明するから。私だって幽霊なんて信じてないわよ。


 でも大学は『出るから』っていう理由であそこを立ち入り禁止にしてるの。


 だから、出ないんだってば。


 昔いた教授が『見た』って言い張ってね。かなり権威をお持ちの方だったから、大学が逆らえなかったのよ。

 老朽化まではいかなくとも、古い建物だし、学生の数も減ってて使い道がないからついでに封鎖したの。

 ちなみにその教授はもう居ないわ。この世にね。

 教授の遺言に、お祓いが済んだら遺産を使って建て直してほしいってあったんだけど、親族が揉めてるんですって。


 話が逸れたわ。


 つまり、北館は一人になりたい時に丁度いいってわけ。

 同じ考えの学生が居ないわけじゃないけど、そこはお互いなんとなく、見て見ぬ振りして上手くやってるの。


 で、昨日。一人で待ってたら、男が二人、入ってくるのが見えたの。

 片方は、その人。もう片方は知らないわ。

 大方、友達に付き添ってもらったんじゃないかなって思ってる。

 ところが、いくら待っても私のところへ来ないのよね。

 入り口から私のいた場所まで、ゆっくり歩いても五分とかからないはずよ。

 三十分待っても誰も来なかった。その日は他の人もいなかったわね。

 もしかしたら、私は関係なくて、ただ男が二人で北館へやってきただけかもしれない。

 その人は、私がここにいることも忘れていたのかしら。

 だとしたら……私、フラれたのね。


 事実、どれだけ待っても彼らは来なかったの。



 何故私が貴方に、こんな話をしているか、解るわよね。

 うん、そう。貴方がそのときの、もうひとり。


 こんなところで、どうしたの?

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