episode 009:戦闘

「なぁ、ドリー。門閉まっちゃってるぞ」


 すっかり日も落ちて、街が静まろうとしている中。湊斗は、すでに避難が完了してり人気がなくなったひ西門前に立っていた。

 十メートルほどの高さの木製の門。新人類である湊斗ならば、タックル一つで壊せるはずなのだが。


「壊すのは、許されないよなぁ」


 至極当然の答えを並べる。

 ドリーの方を見ると、その首を下に落としていた。その姿が悲しんでいるようにしか見えなくて。感情豊かだな。なんて思う。


「姫さま!!!」


 門の外から、そんな叫び声が聞こえた。

 その次の瞬間。ドリーは門に向かって勢いよく走り出した。


「!?」


 ドンっ! と、門が揺れる音。


「無理だろ。ドリー」


 呆れを顔に表す。

 だが、ドリーは諦めずに何度も何度も、門に突進を繰り返す。


「壊して、向こう側に行きたいって、ことなんだよな。ドリー」


 呼応するように、ヒヒーンと嘶く。


「わかった。壊しても、責任は取らないからな。絶対に。ドリーが壊したっていうからな」


 保険に、保険を重ねる湊斗にドリーは呆れた顔で彼を眺めていた。

 それを無視して湊斗は少し、助走をつけて。


「せーのっっ!」


 地面を蹴り付けて、右肩で門にぶつかった。門に力がかかった瞬間。ドリーがぶつかった時よりも、かなり大きな音が街に響いた。


「よっし!」


 予想通りの結果に思わず、歓喜の声を上げる。


「なんですか!」


 少し高い少年の声。

 あたりを見渡す。すると、さっきの赤髪の青年と、初めて見る金髪の少年。さらに、二人に回られるように、地面の上での横たわるシグリチェ。よく見ると、彼女は腹部を強く押さえていて、そこからは広がるようにして、赤にシミが服にできていた。


 そして、男二人の前には、巨大なサソリ型の化け物が、一体。昼に出会ったモグハが三体ずつ。おそらくサソリ型の化け物も、モグハと同じく悪魔の眷属なのだろう。

 急いでシグリチェにドリーが駆け寄ろうとするが、眷属たちに阻まれる。


「もしかして、シグリチェの身に何かが起きたのを察知して……」


 驚き。その感情が湊斗を支配していた。


「助けてもらったこ恩。ここで返したい」


 ドリーが、シグリチェのそばに行けるだけの隙を作るだけ。それだけなら、おそらくできる。

 ドリーに案内されて獲得した剣。それを、腰から引き抜き、前に構える。それを察知したのか、一匹のモグハが湊斗に立ちはだかった。

 そして、モグハが湊斗に向かって一直線に飛びかかる。それを、好機とみて、湊斗は技名を口にする。


風雷ふうらい流 袈裟斬り」


 丁寧に練られた技の形を放ち、モグハの身体を右上から左下に向かって切り裂く。


「うまく行った」


 真剣を生き物に使う経験なんてなかった。だから、心では安堵していた。

 モグハについた切創は、雷が通ったかのようにギザギザ。とても綺麗と呼べるようなものではなかった。だが、これが風雷流のも特徴。わざと刀身を揺らすことで、切創を複雑なものにし、ダメージを上げる。

 切り裂かれたたモグハは勢いを失って地面に落ち、動かなくなった。

 風のように自然に、雷のごとく切り裂く。それが、風雷流。

 男を二人は、呆気に取られたように口を開けていた。


「誰かは知らりませんが、助かりましたよ!」


 金髪の男が叫んだ。さっきのた高い声の持ち主は彼だったらしい。

 ドリーがシグリチェの近くに寄るのに合わせて、湊斗も動く。


「大丈夫だよ。ドリー。傷は浅いから」


 シグリチェが横たわったまま、ドリーの首を撫でる。


「ミナト。君、強かったんだね」

「隠してたみたいになってごめん」

「大丈夫。でも、ひとつだけお願い。私たちを助けて」

「任せて」


 命の恩人のお願い。断れるわけがない。それに、助けたらいいことがありそうだ。

 そんな、ゲスな考えがよぎった。


「すまないが、任せた。自警団の団員も、俺たちも体力がもうもたない」


 アンドラが疲労困憊といった表情で、訴えてくる。


「合図を出したら、シグリチェの剣を投げてほしい」

「剣を?」


 シグリチェが答える。


「そう。大丈夫か?」

「わかった。アンドラに投げてもらう」

「ありがとう。助かった」


 そう言って、湊斗は再び剣を前に構えた。

 相手は、五体。モグハは柔らかいが、サソリ型はおそらく硬いだろうと、当たりをつける。

 湊斗が腰を落とした瞬間。賽は投げられた。

 二匹のモグハが、左右から同時に、大きく口を開けて襲い掛かる。


「風雷流 八岐やまた斬り!」


時には片手で、時には両手で、流れるような自然な動作で八回の斬撃をモグハに叩きつける。


「残りは、サソリ型だけ」


 にやっとく広角を上げる。想像以上の出来栄えに自分でも驚いてしまった。


「風雷流 特殊型 剣投!」


 続けて、持っている剣を湊斗は、サソリ型に向かって勢いよく投げつけた。その剣は、高速で飛翔し、サソリ型の殻を突き抜け、刺さる。

 サソリ型には、痛みという概念がないのか、平然としていた。


「お前の殻は見た目よりも柔らかいんだな」


 そして、湊斗はサソリ型と再び、相対する。


「たぁっ!」


 先に動いたのは、湊斗。単純に真っ直ぐ距離を詰めた。それに合わせて、サソリ型は自慢のハサミで湊斗を捉えようとするが。


「それを待っていた!」


 宙に向かって飛び上がって、サソリ型の背中に剣を突き刺した。

 そのあと、サソリ型は動くことはなかった。

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