第42話 親子の戦い③
「そりゃあの剣じゃ人間は切れないわな」
と体がまだ少し白いエルセブンが言った。
ダンはその声に振り向くと驚愕する。
「あ、足が・・・少し薄い。
消えかかっている」と呟く。
「治癒だ!回復早く!って俺だ!」
とエルセブンに向かって
慌ててスティックを振る。
もうすでに一方的になっている。
美香は腕を顔の前に交差させ、
防御しか取れない。が、
近づいてゆく。
「こ、根性ぅぅ」と何度も
言いつつ。もう腕も体もボロボロだ。
顔すらも大きく腫れている。
もう、やれることは一つ・・・。
母様の前では刀をまともに
振る事さえ出来なかった・・・。でも!
そしてボロボロにされながらも
ついに美香はウォッカにしがみ付く。
ウォッカは少し微笑む。が、
美香が思いもよらぬ行動に出たことで
そのほほえみは消える。
「つーかまーえた」と言うと
素早く後ろに回り込み
ウォッカの脇の下から手を回し
後頭部の所で両手を握り合わせる。
ドラゴンン!スープレックスゥ!
ホォォォルド!
と言うと美香はウォッカを後ろから
抱えたままブリッジする!
何故か会場が数を数える!
1!・・・2!・・!
なんと!ウォッカは体を撥ねる様にして
そこから抜け出す。
あああああ!と歓声とため息が混じる。
バーボンとアスティも手に汗を握って
数を数えていた!
ウォッカは空を見上げ
「はっはっ!面白いなあ!戦いは!」
と大きな声で言う。そして続ける。
「私がお手本を見せてやる」と。
「おもちゃの剣」を地面に真っすぐに
突き刺す。そして!
ウォッカは美香を立たせると
右足を軸に体を右方向へ回転させる。
と同時に軸足を左に切りかえ
さらに回転し右足で美香の胸へ
蹴りを入れる!
「ロ、ローリング・ソバット!?」と
バーボンとアスティは興奮する。
ふら付く美香の背後へ素早く回り
美香の腕を外側からまとめ、自身の腕を
絡ませる。
「からのぉお!」とウォッカは叫ぶ!
タイガァァ!スゥウゥプレックス!
ホォォォルドッ!
そして鮮やかなブリッジを描く。
受け身が取れず後頭部から落とされ
美香はしたたかに頭を打つ。
会場が!バーボンが!そしてアスティが
数を数える!
1!・・・2!・・・そして
3!
そしてゆっくり美香の体をどかし、
地面に突き刺した「おもちゃの剣」
の上に、握手の部分に
バランスよく飛び乗る。
右足を添えその上に軽く左足路乗せる。
そして一本だけ人差し指を突き出し
右腕を高く上げ少し俯きながら微笑む。
勝者!ウォッカ!とアスティは
おもわず、そう!思わず宣言してしまった!
「あ・・・。」とアスティ。
バーボンとアスティは顔を見合わせる。
「・・・言っちゃうよな?」とアスティ。
「言っちゃうよ・・・俺でも」とバーボン。
「あれ、教えたのお前?」とアスティ。
「そりゃあ、もう」とバーボン。
美香は大の字に倒れている。
「剣も体術でも母様に勝てなかった。
母様は強い。」と美香は笑う。
「だからこそ・・・私は超える。
超えてやる・・・。」とも続けた。
一度宣言された結果は覆らない。
アスティ自身でも。
ウォッカは美香に近づく。
「ジヴァニア。剣とは覚悟だ。それを
振い続ける。何かを守るために。
・・・何かを探すために。」
覚悟を無くしはいけない。
覚悟を離してはいけない。
その剣は覚悟と言う名の
己の分身だ。
そ言うと美香を抱きかかえながら
「少しは強くなった気はするか?」
と笑いながら言う。
腫れた顔で歯を食いしばりると
その食いしばった歯をウォッカに見せる。
「イーだっ」と。
少し気が抜けたのか美香はそのまま
気を失った。
そう、後世に語り続かれることとなる
龍と虎の闘い・・・いや、親と娘の戦いは
こうして幕を閉じた。
「あの魔族のなり損ないがっ!
神器を足蹴にしやがって!」と
ルナティアはもう目が点滅している。
それはもう・・・チカチカしている。
多分ルナティアがエアストを一生懸命
抑えているのだろうと、隣に座っている
ジェニエーベルは思った。下を向きながら。
「なんだろう。この決着」とシャルル。
「なんかこう、超かっこいい斬り合いを
期待したんですが。闘気も薄れたとか
私、言っちゃったし・・・。」
とも続ける。
「これくらいがいいにゃ。ウォッカは
本気を出したらいけないにゃ。
平和が一番にゃ」とスコティ。
トロッケン族2勝
そして2勝同士で大将戦を迎える。
赤の国の議長アスティと、
若干15歳のリスボアとの戦い。
二人が剣を手にして前に出る。
その時にダンとバローロは
衝撃的な声を、歓声が上がるのを聞いた。
「リスボア様ぁ!!がんばってぇぇ」と
多くの声援!女子の黄色い声援!
そう!すでにリスボア応援団が出来ていた!
しかしそれをかき消すように
1人の女性の声!
「ダーリン!がんばってぇ!」と。
さらに衝撃を受けた二人は声の方を
振り向く!そこにはなんと!
ルエダが手を振っていた。
バーボンは美香を治療する。
「むちゃくちゃ遣りやがって。
死んだらどうするんだよ」と。
「あれくらいじゃないとコイツは
止まらん。」とウォッカは言う。
「親子だな」とバーボン。
「あぁ、親子だ」とウォッカ。
「なぜ途中で闘気を薄くした?」と
バーボンは治療をしながら言う。
「何故だろうな、私にもわからん。
と言うより、やったのは多分・・・。
ジヴァニアだ」とウォッカは言う。
「・・・そうか。」とただ一言だけ
バーボンは言った。
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