紫の国 第３章

第41話 親子の戦い②

美香は二刀流でむちゃくちゃに刀を振る。

が、ウォッカはすべてを左の剣１本で弾く。

それが結構な間続いているが突然

１本の刀が弾かれ美香の後方に飛ぶ。

最初は美香のその出鱈目な打ち方に

後れを取っていたウォッカだが、

もうすでに余裕を見せ、そして

「ふんがっ」と声をかけ右手の剣で

美香の刀を飛ばしたのだ。

「なんだ拾いに行かないのか？

じゃあ仕方ないな、私も１本で戦う」

とウォッカは言うとなぜかチラっと

来賓席を見てニヤッとした。

２本の剣をしまい、アイテムボックスから

一振りの剣を取り出し、両手でその剣を

握る。そして

左足を前に剣を右の腰の所に

持っていく。居合の構えをする。

「ジヴァニア、私の技を１つ見せてやる」

というと深く腰を下ろす。

美香よりも両足の幅は広く

重心がとても低い。

美香も同じように構え

両者はじりじりとほんの少しずつ

詰め寄る。

もう少し、後少し。と美香は思っていたが

それよりも早くウォッカは動いてきた。

美香はその剣に合わせるがごとく

振りぬく。が、空振る。

そこに居るはずのウォッカが居ない。

またしても美香はウォッカが

動いたと思ってしまっていた。

その美香が空振りをし終わると

ウォッカは美香の懐に入る。

刹那の動きで。

リスボアが行っていた水月への

攻撃のように握手の所をそこに

「トン」と、そう、軽く押し当てる。

そして、そのちょうど体の真裏から

空気の振動波の様な物が突き抜ける。

同時にその場で横なぎ一閃。

そこに居た全員、というよりも

カティ族の全員だが、美香の体が

二つになったと思った。

美香の口から鮮血が飛び出る。

が、胴体への攻撃は思ったほどに

深くはなかった。

と言うより殴打のようになっており

斬られてはいなかった。

やっぱどこかの変なヤツが作った

「おもちゃの剣」は駄目だな。

とわざと大きな声で言うと、

来賓席に居たルナティアを見て

フフンと口と目を下弦の月のようにし

・・・笑う。

「くそが・・・」とルナティアは

呟いてしまう。

え？と言う感じでジェニエーベルが見る。

あらやだ、おほほほほと口元抑え

ルナティアは笑ったが、目が笑ってない。

「よ、よそ見してるんじゃないわよ！」と

歯を食いしばり刀を振る美香。

ウォッカの「おもちゃの剣」がそれを

いとも簡単に弾くと袈裟切り一閃。

美香の刀がまたしても後ろに飛ぶ。

それを見て

「拾ってこい！」と強くハッキリと

ウォッカは言った。

美香の手はもう力が入らなくて

痙攣しているかのような動きをしている。

「持てないならそんなもん捨ててしまえ！」

そのウォッカの言葉に唇をかみしめ

拾いに行く美香。

しかし、もう力が入らずにうまく拾えない。

「早く拾えと言ってるんだよっ！」と

いつの間にか後ろにいたウォッカは

美香を思いきり蹴とばす。

「娘をけるんじゃねえ！」と言うと

美香も蹴り返す。そして

立ち上がり服に付いていた飾りの

ベルトを取ると、それで刀と自分の手を

縛ろうとする。が上手く固定できない。

ウォッカは近づき

「そんな事も出来ないのか！」と言うと

何と自分の装備の裾を破り取り

「こうやるんだよ！」と

とてもとても慣れた手つきで

刀と美香の手をぐるぐる巻きにした。

その刀と手が固定された美香の姿を見て

「懐かしいなぁ。ウォッカは昔いつも

　ああやって剣を固定してたなぁ」とバーボン。

そして続けて言う。

ああ見えてウォッカは俺と知り合った頃は

握力が弱くてな、いっつもああやって

固定してさ、

剣は絶対に離さない、落とさない。

と言っていた。

だから強い敵と戦う時にはいつも

ぐるぐる巻きだった。

とバーボンは言ったが全員が美香と

ウォッカの戦いを見ていて

誰も聞いていなかった。

「ちょっとは剣士らしくなったじゃないか」

とウォッカは上目使いで美香に言う。

「そりゃぁどうもっ！」と美香は言うと

左からの横なぎを繰り出すが空振る。

ウォッカは少し後ろに飛び回避した。

少し両者の間が空く。

美香は右足を前にし

右手に固定された刀を矢のように引き

左手を先端付近の峰に添える。

飛び込む美香。

そして力の限り突こうとする。が

強引に刀の軌道を変え下からの

切り上げをする。

しかしウォッカは対応する。

上半身のみを少し後ろにそらし、

その切り上げられた刀を

自身の剣で刀の付け根付近に

合わせると早く強引に振りぬく。

美香の刀が・・・折れる。というより

斬れた。・・・両者の時間が少し止まる。

美香は衝撃を受ける。それはそうだ。

超レア素材で作った刀だ。

ウォッカが「おもちゃ」と言った剣で

・・・斬ったのだ。

美香はうつむき、ふらふらとウォッカに近づく。

無防備で。

ウォッカはそれがあまりにも

無防備だったために剣を下に降ろし

美香を近づけてしまった。

ウォッカは

ここまでか、ここまでなのか・・・。

と思って「しまう」。

美香はゆっくりと、手に固定された

折れて刃の部分が５センチくらいしかない

刀をウォッカの水月の所にゆっくりと当てる。

「どん！」と美香が言うと

ウォッカが吹っ飛ぶ。

「どうよ！マネしてやったぞ！」と

再度、何か挑発するような仕草を

腕でとり、ウォッカに向ける。

ウォッカは口にある血を吐き捨てると

「じゃあ今度は私がお前の得意な連撃と

　言うモノを見せてやる」と言った傍から

そして、むちゃくちゃに剣を振る。

しかしその剣は全てが殴打となる。

人を斬る事の出来ない「おもちゃの剣」。

知る人だけが知っている本当の名前。

神器「フラガラッハ」

この世で斬れないモノは「人間以外」ない。