第19話 リスボアとウォッカ

アスティからバーボンへ


今度の部族対抗戦にお前の娘が出るらしい。

姐さんが部族対抗戦に出るという事を知って

今こちらに向かっている。


実際、俺も姐さんに頼まれていて

二人が出会いやすい様に陰で色々と

やっていたが、何故か計画が上手くいかない。


姐さんが俺の所に来た時に

「もうどこにも行かないでくれ。じっとしてて」

と頼み込んで今は俺が準備した部屋に

ほぼ軟禁している。


それでも、たまに居ない。

まだ帰ってきてくれるだけでもありがたい。

ホッとするよ、帰ってくるだけでも。


お前だろ?俺の計画を潰しているの。

どうせお前の事だ。

自分より先に姐さんが娘に会うのが

気に食わないんだろう。

ずっと探してたもんな、お前。


でも姐さんもずっと探してたんだぞ。

お前は黄の国、姐さんは赤の国。

姐さんは悪目立ちするので、というか

トラブルにこよなく愛されている人だ。


上手くいくわけないしな、お前が居ないと。


お前さ、

「先に会うのは俺だ」とかなんとか

思っていたんじゃないの?

姐さんも呼んで3人で会えばいいじゃねえか。


だから招待してやる。

ジェニエーベル連れて外交とでも言って

俺のとこに遊びに来い。


アスティ


「という手紙を送ったんだが感想を

 聞かせてくれ、シャルル」とアスティ。


バーボンってさ、ほんと器量が狭い時

あるのよね。自分勝手と言うか、

なんだろう。

子供みたいにさ、競争とか自分が

一番じゃないといけないみたいな。

とシャルル。


そのくせ興味ないモノはとことん

興味ないにゃ。でもそれすら、自分が

取りあえず手に入れて恩着せがましく

「これあげるよ、俺が」みたいな感じで

渡してくるにゃ。

とスコティ。


あの出目金の事、絶対バーボンの仕業だ。

もう手の上で踊った自分が悔しい。

それが無かったら先に会えたのは

ウォッカだったのに。

とエルセブン。


「そういえばジヴァニアが借りた家の場所

 ウォッカに教えといたわよ」とシャルル。


多分今晩にも会いに行くんじゃない?

とも付け加えた。



一時して場所は変わる


いい店見つけたわよ!と美香。

首都の居酒屋よ!行くわよ皆!

と鼻息が荒い。


何その、おのぼりさん的な感じ。と私は笑う。


リスボアは少し剣の手入れをしたいと

留守番することとなった。


そしてリスボアを除いた全員は居酒屋へ向かった。


「なにそんなとこでコソコソと見てたのよ。

 もうどこに行ったかわかんないじゃない。」

とシャルル。


「どういう顔で会えばいいかわからないじゃないか。

 20年も娘をほっぽいてた母親だぞ、私は」と

ウォッカは言う。


一生懸命探してたじゃない。

とシャルルが言うとウォッカは下を向く。


かわいいね、ウォッカは。とシャルルは笑う。


「で、どうするの?今日会うならどこの居酒屋か

 私が探してくるけど?」と言うと

ウォッカは無言で頷いた。


そんなところに立っていると逆に目立つわよ。

家に入っていたら?とシャルル。

そういうとシャルルは美香達が歩いて行った方へ

向かった。


ウォッカは美香が借りた家の扉に手をかける。

「なんだ、鍵かけてないじゃないか。物騒な」

とウォッカは入る。


「誰だ!」とリスボアは剣を構える。

沈黙が流れる。


「いい剣だな、それアスティの剣に似ているな。

 そして構えもよい。でももう少し足幅を広げろ。」


「アスティ様の剣と知ってるんだな。あんた誰?」

と構えを解かないでリスボアは言う。

しかし足幅は広げた。


「私はウォッカと言う者だ。ジヴァニア、いや

 お前たちが美香と呼んでいる者の母親だ」

とウォッカは少年に言った。

「腕をもう少し遊ばせろ。腕の角度をもう少し

 取れ」ともいう。


リスボアは驚く、が、

「証拠はあるのか?」と構えを解かない。が

腕を少し曲げた。


「証拠か、そうだな」と少し思案するウォッカ。


「ねぇな・・・。雰囲気くらいか?」と言う。

「なんだそれ・・・でもなんか美香に似ている」

と構えを解かずにリスボア。


「構えを解かないのか?」とウォッカは言う。

「どんな時でも油断はしない、

 そう美香に教えてもらった」とリスボア。


「そうか、でもな」とウォッカは言うと

一瞬で近づき、刹那の速さで1本の剣で

リスボアの剣を上に弾き、もう1本の剣を

喉元に当てる。


「力量が違うと感じたら・・・少しでも

 勝てないと思ったら逃げるのが最適解だ」

と言い、剣を収める。


それがこの世界を生き抜く基本だ。

死んだら何もかもおしまいだからな。とも続けた。


ウォッカは震えて動かないリスボアの頭を

コツンと叩き椅子に座る。

「お前はいい剣士になるよ。保証する」

と言うと

「とりあえずお茶だして」と笑う。


リスボアは震える手でお茶を出す。

そしてウォッカの前に座る。


沈黙が流れる。が、

「あの早い踏み込みはどうやるんでしょう」

とリスボアはウォッカに聞いた。


アレはただのスキルだ。この家に入った時にもう

発動させていた。覚えるのは反復だ。

何度も何度も飛び込みの練習をする。


そうすれば何か、頭の中に閃く。

そうして閃いたことを何度も何度も反復する。

そしてまた閃く。その繰り返しだ。

お前も出来るようになるさ、その気があればな。


「信じるよ、俺。あなたが美香の母様って事。

 強いからじゃない。雰囲気だ」とリスボアは言う。


「それでいいよ、結局はどんな時も最後は自分の

 判断だ。生き死にを他人にゆだねたらだめだ」と

リスボアを見ながら微笑む。


それを、微笑むウォッカを見てリスボアは赤面する。

「体調でも悪いのか?顔が赤いぞ?」と

リスボアに言うと続けて


そういえばその剣の握り手の部分、削れているだろ。

それはな、雑に扱って削れているんじゃないんだ。

普通、雑に扱えば削れるのではなく欠ける。


アスティはよく相手の懐に飛び込んだら剣の握手で

相手の水月の所を思いっきり突いていた。

そして相手が一瞬動きが止まると後ろに飛びながら

剣の横なぎをしていた。


アイツはいつも踏み込みすぎていたからな。

間合いが近すぎて剣を振えなかったよ。と笑った。



お邪魔しますー。とシャルルはドアを開けて入る。

「わかったわよ、居酒屋。」と場所が書かれた

紙をウォッカに渡す。


「こ、ここで待ってれば美香も帰ってくるんだ。

 ここで待てばいいだろ・・・。その間俺に

 色々と教えてくれよ、剣の事」と下を向きながら

リスボアは言う。


「ダメよ、親子の再会に水を差しちゃ」とシャルル。


「じゃあ、俺も行く!俺も一緒に居酒屋に行く」

とリスボア。

「あら、もう虜にしちゃったの?魔性の女ね」

と笑いながらウォッカの顔を覗き込む。




ウォッカはシャルルの胸を「ワシャ」と掴むと

いくぞ、3人で。と席を立ち家を出た。

リスボアもシャルルも後をついて行く。






















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