第7話 成人年齢

開始の合図。それは一瞬。


すでに美香はリスボアの懐に入っており

箒がリスボアの首に引っ付いている。


稽古場全体に沈黙と戦慄が走る。

そりゃそうだ、ここは学び舎。まだ本格的な

魔獣討伐もしていない者の集まり。

良くて冒険者ランクBだ。


「ちょ、ちょっとまて、油断しただけだ。

 もう一度だ!」とリスボア。

「油断ってなんだ。魔獣にもそういうのか?」

とダンは言う。


いいわよ、もう一回。と美香。

ヤレヤレとした表情でダン。そしてもう一戦。


今度はリスボアも真剣に構える。

今度は美香がやる気なさそうに箒を使い

足元を掃除している・・・。


「なめんなよ・・・」とリスボア。

そして開始の合図。


今度はリスボアが突っ込む。

いいスピードだ。それに攻撃姿勢もいい。

上からの攻撃と見せかけての下段からの

切り上げ。


簡単に美香はよけるとリスボアの顔に

自分の顔を近づけ「いい動きね」とささやく。

「くそ!」といいリスボアは距離を取る。


美香は手招きをしている。

リスボアは再度突っ込む。

今度は横からの攻撃。が、ほんの少し

美香は後ろに下がり避けると

すぐに元の位置に戻り、箒の柄の先端を

リスボアの額に当てる。


「あっ・・・。」と美香が言う。


どうやらリスボアも再度突っ込んでいたらしい。

カウンターとなり、リスボアの頭が変な風に

後ろに・・・ずれている。


治癒!早く治癒!回復魔法士!って俺だ!

とダンはあわてて回復魔法を唱える。


「今日だけは、今だけは回復魔法士で

よかったと心底思う。」と

治療が終わったダンはつぶやく。


こうも回復魔法士と言う存在は

自分が回復魔法士と忘れる者なのかと。


ダン、やっぱりいいわ。私独学で。なんか

方向性が違う。というか私は剣士じゃない。

包丁使いの二刀流希望者よ。と美香は言う。


リスボアは気が付くと涙ぐむ。

でも堪えている。泣かないように。

「姉ちゃん、強いな。俺の負けだ。

 俺もそんな攻撃的な剣を使えるようになりたい」


貴方、両親とかいるの?と美香は突然聞く。

「いねえ、冒険者だった両親は死んだ。

 エナ鉱山で魔獣にやられて・・・。だから

 俺は強くなって魔獣をやっつけるんだ」

と真剣に言う。


「今は元冒険者だったばあちゃんと二人暮らしだ。」

とも続けた。


なんでもいう事を聞くって言ったわね?と美香。


「だったら今日はあなたの家で私達に

 ご馳走を振舞いなさい。酒もね?」と言うと

金貨一枚をリスボアに投げた。


リスボアは受け取ると

「金貨1枚!?わ、わかった!ばあちゃんに言ってくる」

というと大急ぎで走っていった。


と思ったら、学び舎の出入り口の所で振り返り

一礼を行う。深く。そして走っていった。


「いいわ、あの子。」と美香。


そりゃそうさ、アイツの親父は俺の友達だった。

俺の友達の子が悪いやつなわけねえだろう。

アイツは強くなる、・・・我慢を覚えれば。とダン。


我慢を覚えなくても強くなれるぞ・・・ダン。

と私は心の中で呟いた。


「今日の居酒屋はなしね」と美香は言う。

全員頷き笑い合った。


気が付くと美香の後ろに大勢が立っていた。

かたき討ちと思っていたら

「すごいです!すごい速さと見切り!」

もうやんややんやと美香を囲む。


ある者は質問を言い続け、ある者は

勝手に手を取り握手。

サインを強請る者もいた。


ファンクラブが誕生した瞬間だった。

そして私達は学び舎を出る。


俺はリスボアを手伝ってくるよと言い

2時間後な?ダンは別れた。


バローロはあいつの家ならおれが知っている。

と言うと、話をつづける。


アイツの親父と母親はランクSの冒険者だった。

この部族でも5本の指に入るほどの強さだった。

俺よりも強かった。・・・でも死んだ。


ほんの少しの油断ですぐに死ぬ。

それが冒険者だ。美香、いい経験をさせてくれた。

ありがとう。


そして私達は一旦宿屋へ帰り少しゆっくりする。

他愛のない雑談を行うが私は思う。

多分美香は、あの少年を気に入っている。

あの少年に何かを感じたのだろう。


そうこうしているとバローロが迎えに来た。

ほどなく歩き少年の家に着く。


テーブルには上等な料理と酒。


「これはこれは、こんなボロ屋にようこそ

 いらっしゃいました。」

と婆さんは丁寧にあいさつをする。


いえいえ、こちらこそ突然こんなことにしちゃって

申し訳ありません。と笑いながら美香。


うちの孫を叩きのめしてくれてありがとう。

と婆さんは笑いながら言った。


ダンは美香の事を指しながら

「こいつがバーボン様の娘だ。よろしくしてくれ」

というと、婆さんは


「ベルジュラック様の孫、いやひ孫か。」と

嬉しそうに言った。


20年前のエンド討伐に私も参加した、と言い

バーボン様の指揮の元エンドの城に突入したよ。

と笑う。


冥途の土産にいい出会いをしたもんだ。と

大笑いでいうと

名前は確か、ジヴァニア様だったか。とも続ける。


そして全員一旦席に座るとプロージット!


あんたを見ていると思い出すよ。冒険者の頃を。

私も昔は綺麗で強かったんだよ、と婆さん一気飲み。


婆さん、ほどほどにしとけよ、とバローロ。

ふん、まだまだあんたちには負けないよ、と婆さん。


「ばあちゃんがこんなに楽しそうなの、久し振りだ」

とリスボアはボソリと言った。

そしてリスボアは一気飲み。


てめえは酒飲むな!とダンがゲンコツをくらわす!

全員大笑い。


この世界にもお酒飲めない年齢あるの?と美香。

成人になったら飲めるぞ?と親方。


成人の儀式で指定された魔獣を討伐したら成人よ。

年齢制限はないわ。と一気飲みをしながら私。


因みに私は12歳の時ね、とドヤ顔で言ってやった。


















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