第3話
「・・・じゃ、話は終わりだ。各自、自分の役割をきちんと熟してくれ」経理部長がそう締めた。
全員、分かりました。そういって部課長会議は終了した。 社長のいない週は部長クラスの元気が良い。敦子はいつものことだと思いつつ、後片付けを始めた。
それが終わって、ひとり部屋を出ようとしたとき、隣の社長室から女性の話し声が漏れてきた。
「・・・だから、奥さんは丸山富士山デパートでなにかブランドもののワンピースとバッグを買って・・」
「そうねぇ、じゃあ、シャネルのコットンワンピースで色はパステルグリーンね。それとディオールのミディ アムバッグの色は黒のね。二つでいいわね?」
「いいわ、それで。買う場所は丸山富士山デパートよ。間違ったらお仕舞よ」
「礼子さんも。孝介を頼むわよ。しくじらないで・・」
・・・ 敦子は、驚いた。阿蘇木の妻と孝介さんの不倫相手の礼子が結託して、孝介さんを殺そうとしている。教えて あげなくちゃと思い、見つからないようにそーっと部屋をでて、経理課へ戻った。
敦子が席に着くと二人の女は社長室を出て大きな声で
「あなたが離婚しなさいよ」
「いや、あんた、別れなさいって何回言ったら分かるの!」怒鳴りあっている。 さっきの会話を知らない皆は、仲が悪いと思うだろう。これもぐるでないことを証言させようとする企みだと 思った。
次の週、経理報告のついでに、その話を社長にした。気を付けてと。しかし、社長は聞いてくれなかった にこやかな表情で
「それは、敦子の嫉妬だ。そういうことは言わないでくれ」 敦子には返す言葉が見つからなかった。
それから数週間後の夕方、敦子の席の横に運転手の川岸が立ち、敦子の肩を抱くように手を置いて耳元で囁 いた。
「大事な話がある。今夜7時に南千住の駅前で待ち合わせしよう」言われた敦子が顔を向けると、川岸はにた りと笑みを浮かべ、嫌とは言わせないぞという眼差しで敦子を睨みつけていた。 敦子は、頷いたが、いやな予感がした。
それで、帰りがけ社の台所から包丁をバッグに忍ばせた。
敦子が時間通りに行くと川岸はすでに待っていて、手を上げる。
それを無視して「話って?」と問う。
「まあ、焦るな。ここじゃあ話せん。ついて来い!」 敦子はやはり人気のない所へ連れていかれるなと感じた。バッグの中の包丁を外から触って確かめる。 そのまま、川岸は歩いて飲食店街に入った。居酒屋へでも行くのか?と思ったがやはり違う。ラブホテルに入 った。 敦子はどうしようか迷った。ただの口説きならこんな所へいきなりは来ない。やはり強請る気だなと察した。
「どうした。早く来い。人目に付く」 行くしかないと決心して後について入った。川岸は部屋に入るなり座れと言い壁際のソファを指さす。 敦子が座ると、川岸は部屋の真ん中で仁王立ちし
「お前、経理の金ちょろまかしてるだろう?」ときた。
「何の事かしら?私は知らない」そうとぼけると
「ふふ、これを見ろ」そう言って、私が経理の手提げ金庫か ら金を盗むところを隠し撮りした動画を見せつける。夕方の6時過ぎだ、仕事でその時間に現金を出すことは ない。不正防止のため現金の出金は午後4半までと社内で決められていた。
やはり、そうきたか。敦子は腹をくくった。 「どうだ、言訳できねえだろっ!」そう言って私の目の前に立つ。
「別に、それ好きにしたらいい」そう言って、川岸を押しのけドアに向かう。
「ほう、良いんだな。明日社長にこれを見せる。お前は馘だ!」川岸は敦子が言いなりになると踏んで、ドヤ 顔をしている。
「どうぞ、おかまいなく」私はそう言ってドアを開けようとノブに手を掛けた。 川岸の顔がみるみる鬼の形相に変わる。
「くそっ!生意気な女だ!」そう言って、川岸は敦子の後ろ髪を鷲掴 みにして引っ張る。
「きゃっ」と叫んでよろめく。 後ろから抱きつかれた。敦子はバッグを振り回して川岸から逃れ、そしてバッグに手を入れ、包丁を両手でし っかり握って腹の位置に構える。
「近づくんじゃない!そこをどいて!帰らせてもらう」
言いながら、包丁で刺す真似をする。
「おっかねぇ女だなあ」川岸はドアの横へ動く。 敦子は川岸に包丁を向けながらドアに近づく。そしてノブを掴む。 刹那、川岸が突っ込んできた。包丁を向けたが、先に顔を拳で殴られた。包丁は何処かへ飛んでしまった。身 体がふらついた。あっという間に川岸にガッチリと首を掴まれた。
激しい力に「痛い!離して!」叫んだが、川岸はお構いなしに首を強く掴んで身体を90°C曲げさせる。 敦子はもがいたが力の差は歴然としていた。 川岸は、敦子の首を掴んだまま、そのまま勢いをつけてテレビ画面に敦子の顔面を叩きつけた。ガシャーンと 大きな音をたてテレビは壊れた。
「ギャッ」と一瞬の悲鳴が上がった。ガラスで顔中が切り刻まれ、目にもガラスが突き刺さった。 川岸が、仰向けに倒れた敦子を見ると、無数のガラス片が刺さった顔、目にもガラスが刺さっている、そして だらだらと血が流れていた。
川岸が敦子の身体を蹴った微動だにしない。
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