第2話 

  そこの経理課長に津川敦子(つがわ・あつこ)という女性がいたの。北道大学の経営学科を卒業してそこへ就 職したのね。

 社長は孝介(こうすけ)といって、20代の青年実業家だったの。20年以上昔の話よ。で、優 しいしいつもはつらつとしている社長に敦子は惹かれていった。会社は名前の通りトラック輸送の会社でドラ イバーを除けば社員は10名ほどだったので、毎年末には全員参加での忘年会があって、そこで社長から声を 掛けられ話しているうちに、二次会、三次会と流れて、いつの間にか二人になって、酒の力もあって、出来ち ゃうのよ。

ここまではよくある話かもね。


 何年かして、社長が親戚から縁談話を持ち込まれて、そこに妻となった可憐(かれん)が登場するわけよ。

 社長は、敦子と付き合っているから、といって断ったのよ。親戚は納得して引き下がったんだけど、可憐がそ れ以降時々会社を訪れ社長に会うようになったのよ。派手好きでブランドものばかり着たり持ったりして、そ れに胸を大きく開けるような服装とかをよく着ていて、女からは嫌われ男から好かれるパターンの女だった。

  で、あるとき可憐が敦子のところへわざわざきて『私、孝介と結婚することになったから、あなた別れなさい』 そういって札束を机のうえにボンと放ったの。驚き過ぎてその場ではすぐに言葉を返せなかった敦子は、夜に 社長に会って問い詰めたら、酔った勢いで関係を結んでしまった。しばらくして子供ができたと言って来た。 その祖父は会社の大きな取引先で、責任を取れといわれ、社長は応じるしかなかったようなの。可憐の妊娠は 後から嘘だったことがばれたらしいけど、その時にはもう結婚式の日取りが決まっていたのよ。

 敦子はいつか見返してやると思って、会社は辞めずに残った。そして、わざと社長が気付くような不正な経 理、つまり横領をしたこともあったようよ。社長はそれを分かって黙ってもみ消したのよ。


 社長が結婚してから4、5年ほどしたある時期から、服装をがらっと変えたようなの、で、敦子は尾行して 理由をつきとめたの。

隅田礼子(すみだ・れいこ)という41歳でブティック経営していた女よ。でも、売上 が年間45百万円しかなく経営は苦しかったようなのよ。それで、色仕掛けで社長に取り入ったようなの。 敦子は彼女を気持ち悪い女と思ったようなの。

 もうひとり、川岸陽介(かわぎし・ようすけ)という公用車の運転手がいたの。彼はもともと営業の精鋭だ ったんだけど、社長命で交渉していた大手の物流会社との契約を、提示価格が高いとしてキャンセルされたの、 でもそれは社長命で提示した金額だったのに、責任をとらされて、馘にはしないといって運転手にされたの。 相当に怨んでいて以来酒癖も悪くなり、50歳のときに妻と子供と実家へ逃げかえってしまって、その後離婚 した。

で、事件はここから始まるの・・・

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