幽霊のあし

闇の烏龍茶

第1話 プロローグ

 お盆期間内の15日の夕方、浅草ひさご通りの岡引探偵事務所を浅草警察署の丘頭桃子警部が訪れた。

「こんばんわ~、お土産だよ~」

その声に素早く反応する家族、美紗、数馬、一助は満面の笑顔で垂れるよだれが見えるような喜びよう。 お土産は、浅草の常盤堂雷おこし本舗の看板商品の雷おこしだ。サクッとカリッとした食感は大人気だ。 一心と静は一応大人だから、よだれは出さない。静はお茶をお盆に人数分乗せて奥の部屋から姿を見せる。

「いつも、えろ~すまんこってすなぁ」 静は京都生まれだが、東京の大学に入学して以来東京住まい。なのに、二十数年経った今でも京都弁を話す。

「お~桃子!久振りだなあ。お土産もいつもすまんなあ」 岡引一心は浅草生まれ、浅草を離れたことが無い。静とは大学時代、絡まれていた静を助けたことから付き合 いだした。若いころから和服を普段着として、京都弁を話す静に一目ぼれと言った方が良いかも知れなかった。 結婚して子供を二人産むといつも妊婦のように腹ぼてになり、痩せるためにジム通ったら、2年も経たないう ちにスリムにはなったがプロボクサー並みの腕前となり、度々スカウトされるまでになってしまった。 探偵事務所を開所してからは、もっぱら一心のボディーガードとして活躍している。 さらに、ハッカーとしても活躍し、娘の美紗にその技術を伝授したら、美紗がプロ並みのハッカーになってし まったが、探偵業上大きな声では言えないが、役所、銀行、企業などあらゆる所へ侵入して情報を集めてくれ るので、事件解決にえらい役に立っている。このことは、丘頭警部以外には極秘事項だ。


「いっただっきま~す」威勢のよい数馬。 長男としてしっかりして欲しい所だったが、中学の時にテレビの影響で鍵に興味を持ち、鍵開けを練習しそれ を理屈から学んでプロの鍵士になってしまった。今では、電子錠でも顔認証キーでも何でも開けてしまう。


「おれも、頂くぜ」と食べ始めてからいう一助は実子ではない、親戚だが事情があって16歳から一緒に家族 として暮らしている。中学のころからプラモデルで飛行機を飛ばして遊んだり、ドローンを飛ばしていたが、 工業高校へ進み、そういうおもちゃを自作する様になった。さらに二十歳を過ぎるとバイクから始まって車、 トラック、特殊車両、船舶、航空機へとあらゆるドライバー資格を取っていった。 現在、事務所の武器である美紗の作ったアドバルーンとドローンを組み合わせたバルドローンを自由自在に操 って浅草の空を飛び回っている。

 美紗はハッカー以外に工作機械の制作も得意で、バルドローンのほか、シー ル型やピン型の盗聴器とか蠅型、毛虫型の盗聴カメラと呼んでいるカメラ付きの盗聴器などの優れものを作っ て捜査に活用している。これも内緒、ここだけの話だ。

 言い忘れたが、丘頭桃子警部と俺たちの付き合いは、希死念慮者殺人事件を通して捜査協力したところから 始まり、幾つもの事件を解決してきた。互いの信頼関係は強い。

皆、ほぼ無言で口を動かしている。


 皆の口の動きが落ち着いたところで桃子が真面目な顔をする。

「ねえ、聞いて!此間の事件。私、いまでも不思議で怖いのよ・・」

一心は、でたぞ~お盆時期の例の怖い話だと思って手に汗をかく。皆も、何を言いだすのかワクワクして目を 輝かせている。

俺は、大人だから、別に怖い話もどうということはないが、静が怖そうな顔をするので、そっと手を握ってあげた。

静は恥じらって眉間に皺をよせて俺の汗をかいた手を払いのけたが、また握るとそのままにしてくれた。

「阿蘇木物流(あそぎぶつりゅう)という会社の関係者が起こした事件だったのよ」どことなく桃子の顔色が 青い。

「関係者の証言を纏めて、初めから話すわね」


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