第6話 目覚め

目覚め



「お、着いたよ」


 涼平の声に、真理子ははっと我に返った。

 二人の左側を、木立に見え隠れしながらずっと走っていたコンクリートの壁の切れ目に、小さな門が見える。二人が歩いている遊歩道はその門で終わっていた。東門、と小さなプレートが貼ってあるが、辺りには全く人影がなく、ほとんど利用している人はいないようだ。

 特に周囲を気にする様子もなく、その門から外に出た涼平に続いて、真理子も外に出て、……開けた壁の向こうの景色は、確かにホテル街だった。

 ほとんど車の通りもなく、細い路地を挟んでどぎつい彩色の建物が並んでいる。その数は想像していたよりずっと多い。


 真昼間に、涼平と手をつないでこんなところにいるのが、きまりが悪くて仕方ない。……誰かに見られたらと思うと心臓がつぶれそうだ。

 ……そして、今からこの中のどれかに二人で入っていくのだから、尚更だった。


 涼平はきょろきょろと辺りを見回していたが、やがて道を渡って一本の路地に入った。少し歩いたところにある建物の一つに入っていく。

 涼平は無言だった。……真理子も何を話していいのかわからず、黙ってついて歩いた。

 

 涼平は空き部屋を示すプレートの前に立って、ふと真理子の手を離し、ざっとその表示を見渡した。


「けっこう埋まってるなあ。さすが土曜日」


 独り言のように言うと、唐突に真理子のほうを向く。


「どこにする?」

「えっ?……や、どこでも」


 明らかに裏返り気味の真理子の声を、そう?とあっさり受け流すと、ボタンの一つを手で押す。そのままエレベーターのほうに歩いていく涼平の後ろ姿を見て、……慣れた動作だ、と思わずにはいられない。

 これまでにもう何回も、誰かをこうやってこういうところに連れてきたのか、……その平然とした動作は、駐車場か何かのエレベーターに向かうときと全く変わらなかった。

 怖いな、と真理子は少し思わずにはいられなかった。

 そういう底知れぬ怖さが涼平にはある。この男は一体いくつの顔を持っているのだろう。


 エレベーターの中で、沈黙に耐えられなくなった真理子は口を開いた。


「……涼平、こういうとこよく来るの?」


 唐突な質問に、涼平はびっくりしたように目を見開いた。


「いや、あんまり。

 ――なんで?」

 

 真理子は意味もなくほっとしながら、続けた。


「……なんか慣れてる感じがしたから。

 私、ほとんど来たことないから、よくわからないし」

「んー、まあ大体のシステムがわかるくらいはねー……。

 前の彼女とか、たまに」

 

 前の彼女、という単語を聞き、どきりと真理子の心臓が鳴る。

 好きだ、と言われたときのことを思い出したのだ。

 あのとき涼平が言っていたように、彼女とはもう別れたのだろうか。だから「前」なのか?

 ……とても聞けない。

 

 涼平も同じことを思い出したらしい。少し苦笑いすると、話題を変えた。


「真理子が来たことないっていうほうが驚きだよ。祐輔さんと来ないの?」

「……ううん。祐輔とは、いつもどっちかの家だし、

 ……それに、あっさりしかしないから」

「あっさり?」


 真理子はハッと自分が口走った言葉の意味を理解して――急激に頬が熱くなるのを感じた。

 こんな、涼平に言う必要なんてないことを言ってしまった。まるで自分が祐輔とのセックスに不満をもっているかのようではないか。

 ……しかしそのとき、タイミングよくエレベーターが止まり、ドアが開いた。話題を続けないために、急いでエレベーターから降りる。……涼平はわずかに眉を寄せ、怪訝な表情をしていたが、続いて歩いてくる気配。




 ランプが点滅している部屋に入ると、中は思ったより広く、奥行きがあるようだった。玄関からは奥のほうまでは見えない。

 靴を脱いで、何気なく奥に進もうとして――ぐっと腕を掴まれる感触に驚く間もなく、 

 後ろから涼平に抱きすくめられていた。

 

「――やっと着いた。

 自分でセッティングしたんだけど、ちょっと前振りが長すぎたな」


 涼平の息が首筋にかかった。

 いずれ、抱きしめられるであろうことは予期していたけれど……それでも、それなのに、どきどきと心臓がその鼓動を早める。


「エッチな下着してきてくれた?」


 言いながら、涼平は真理子のニットの裾から少し手を差し入れ、その感触にぶるっと体が震えた。涼平の手を握って侵入を阻止しようと力を込める。


「――してくるわけないでしょ」 

 

 つっけんどんな真理子の言葉に、涼平は笑いをもらすと、手を離した。


「何で?期待してたのに。

 ――まあ、これからじっくり見させてもらいます」


 荷物を置き、コートを脱ぐと、部屋の内装をじっくり見る間もなく、仕切り直しという感じで体を引き寄せられて……抱きしめられた腕は、しかしすぐにニットに伸びて、するっと脱がされてしまう。……下はキャミソールとブラジャーだけだ。

 下着も、昨日から散々迷って、真理子はうすいピンクの上下を着けてきていた。

 レース素材で少し透けるし、これぐらいがちょうどいいか、と思ったのだ。……何がどうちょうどいいのか、深くは突っ込んで考えないようにしていた。


「……エッチじゃないですか」


 涼平はじっと真理子のブラを見て、嬉しそうにそう言うと、鎖骨のあたりにキスをした。


「……あんまり見ないでよ。恥ずかしいから」


 そう言いながらも、涼平が喜んでくれるのが少しだけ嬉しくて、そのくせこれ以上なく恥ずかしい。……複雑な真理子の表情を知ってか知らずか、涼平は真理子を抱きしめ、唇や首筋に軽いキスを落としていく。


 ――と、真理子は両手を後ろ手にまわされ、手首を合わせて何か紐のようなもので巻かれた。


「え?何?」


 驚いて、真理子は手首を自由にしようと動かしたが、その紐状のものはがっちりと真理子の両手を後ろに固定し、全く動かせない。


「わかるだろ。縛ったの。

 ……変態ですから」


 真理子の手首を固定してしまうと、涼平は真理子の首筋に舌を這わせながら、囁いた。

 その舌の動きと、そしてその言葉に、真理子はぞわっと全身に鳥肌が立った。……その口調には、今までに聞いたことのない、冷たい響きがあったのだ。

 同時に、じわり、とどこか体の奥の熱が増したのも……確かだった。


 涼平は真理子を抱き上げると、ベッドに座らせた。ベッドにたくさん乗っているクッションにもたれた形になる。

 涼平はベッドに手と膝をついて、真理子をじっと見つめた。その瞳に、今まで見たことのない……刺すような光が走るのを見て、真理子はぶるっと震えた。

 ……怖い。後ろに退ろうにも、クッションに阻まれて動けない。


 涼平はふと手を伸ばして、真理子の顎のあたりをそっと撫でた。

 ……びくっ!と、自分でも驚くくらい、その感触に真理子は震えた。


「……怖い?」


 涼平はそのまま真理子の顎を上に向けると、その唇にくちづけた。ねっとりと真理子の口の中に涼平の舌が進入してくる。

 手の自由を奪われている状態は、無理矢理口を犯されている、という感覚を呼び起こして……鳥肌とともに、体がびりっと震えたのがわかった。




「気持ちいいんでしょ?」



 

 涼平はゆっくり唇を離して、言った。


「や、こわ……」


 こわい、と言おうとしたが、全てを言わせずに、また涼平の唇が真理子の口を塞いだ。

 そのまま、涼平の体がのしかかってくる。……涼平の手が、ブラジャーの上から真理子の胸をぐいっと掴んだ。


「うっ!……」


 痛みと、同時に走った電流とで、真理子はびくっと体を震わせた。

 唇を愛撫されながら、ぎゅっと胸を揉みこまれて……鳥肌と、自分でも驚くような電流が体を走りぬけた。


「あ、は……」


 止まない涼平の手の動きに、はあっ、はあ、と、どうしようもなく息があがってくる。


 ……初めてだった。

 自分の体を拘束されるのも、……理性を無視して息があがる、この感覚も。

 さっき涼平が、真理子はこういうこと好きでしょ。と言ったのは、このことなのか?

 意外に開拓されてないみたいだな、とも。

 体を拘束され、何も抵抗できない状態で、体を触られることの恐怖と快感。その隣り合わせの感覚が、こんなにも強く自分の体を走り抜けられるのかと、真理子は愕然とした。

 知らず息が漏れる。その息に、声も混じり始めるのを、真理子は止められなかった。


 涼平は唇を離すと、真理子の胸を覆っていたブラジャーのホックを外した。後ろ手に縛られていて、ブラジャーを取ることはできないので、そのまま無造作に上に押しやる。

 真理子の胸が涼平の目に晒された。涼平は眼を細めて、じっとそれを見る。


「い、いや……見ないで……」


 真理子はたまらず、身をよじった。手を拘束されているので、胸を隠すこともできない。

 涼平の指が、真理子の胸の根元あたりに触れる。

 ただ、ちょっと触っただけなのに、真理子の全身がその指に反応した。


「あ、いや……っ」


 恥ずかしくて顔を背けながら、ぴく、ぴく、と体が反応するのを止められなかった。

 と、涼平は何の前触れもなく、真理子の乳首をぐっと摘んだ。


「きゃあっ!」


 ビクンと体をそらせ、真理子は叫んだ。

 体を横に捻ろうとする真理子の肩を左手で押さえつけると、涼平はすうっと体を寄せて、空いているほうの乳首を強く唇で吸った。また真理子はビクンと体を痙攣させる。


「きゃ、ああっ……あんっ」


 真理子の乳首は、まるで別の生き物のように涼平の唇の感触に狂喜し、もっと、もっと、と手を伸ばしているかのようだった。

 涼平の歯の感触。少し乳首を噛んでいる。


「い、痛い……あうっ、ああん……」


 声が漏れるのを押さえられない。


 涼平は執拗に胸を愛撫し、真理子が悶えて声をあげるのを楽しんでいるかのようだったが、やがて口を乳首から離すと、真理子の唇をまた吸った。

 ひとしきり貪ると、少し顔を離して、至近距離で真理子を見つめる。

 その瞳は真理子を嬲る冷酷さと、真理子を愛撫する暖かさがないまぜになったような、不思議な光を放っていた。

 そしてその全てを今にも押し流してしまいそうな快感、本能が見え隠れする。

 真理子は知らず、何も考えられないぼうっとした頭でその瞳に見入っていた。


「気付いてないみたいだから教えてあげるけど、

 真理子はMなんだよ。ドがつくくらいの。

 ……そんな顔されたら、もっと苛めたくなるでしょ?」

 

 不意に、……はあっ、と荒い息が首筋にかかって、体の奥がぎゅっと窄まり、……体を固く縮めていた。

 その言葉に、カッと顔に熱がのぼり、目を瞑って顔を背けて……しかし涼平の手は切れ目なく真理子の胸を愛撫する。

 ぎゅっと乳首を摘むその刺激のたびに、体の奥底から、声が漏れ出てくるような感覚。


 ……確かに、自分はマゾなんじゃないかと思ったことは何度かある。

 祐輔とのセックスのとき、押さえつけられることに体が震えたことや、……もっと、と強引な愛撫を望んでしまっていたことも……。

 けれど、そのひそかな願いはいつも中途半端で、……一度も叶えられたことはなかった。

 

 そして今、涼平の唇に、その手にはっきりと真実を暴かれて、それだけでもう……限界を超えてしまいそうな自分がいる。

 乳首だけではなく、全身が性感帯になってしまったような感覚。

 もっと……もっと。

 知らず願っている自分に、真理子は気付いていた。


 涼平は真理子のスカートを脱がせた。

 ブラジャーとおそろいのショーツをしげしげと見て、その上から恥丘のふくらみをそっと撫でる。

 真理子はびくっと体を震わせると、荒い息をつきながら、本能的に脚を固く閉じて膝を曲げ、自分の秘部を侵されまいとした。

 涼平は膝に両手をかけて、力任せに真理子の脚を開いた。そのまま真理子の下着も脱がせてしまう。

「あっ……ううっ」

 真理子がたまらず声を漏らす。

 そして涼平は、真理子の膝を立てると、いつの間に用意していたのか、側においてあった紐を手にして、そのまま足首をベッドに固定した。ベッドの脇に、紐を通せるような金具か何かがあったらしい。

 真理子の全身に、さらに鳥肌がたった。

 脚も固定されてしまった。思い切り広げて、秘部を涼平に晒したまま、動けない。

 涼平は興味津々といった感じで、じっと真理子の性器を観察した。


「や、やぁ……見ないで……っ……」


 息も絶え絶えに真理子が言う。

 涼平はさわっと真理子の茂みのあたりに手を這わせた。


「……きゃ、あっ!」

「そういう言葉は、もっと見て、と同義だって知ってる?」


 涼平は少し笑いを含んだ声で、冷静に告げる。

 と、涼平は唐突に指を真理子の秘部に入れ……ぐっ、と思わず息を詰めた真理子には構わず、そこに入ったままだったローターを掻き出した。

 もう充分に湿っていたその場所から、ローターが簡単にずるっと出てくる。その襞を擦るローターの感覚に、んっ……と思わず真理子は息を漏らした。

 ローターが出てくるのと同時に、真理子の中に溜まっていた液がどろっと出てきて……その液は、ぞわぞわと気持ち悪い感覚を残しながら太腿を伝い、つうっと垂れてシーツを濡らした。

 涼平はじっと真理子の中から出てきたローターを観察し、おもむろにベッドの脇に置いていたらしいリモコンを手に取った。


「これ、ほんとは使い方ちょっと違うんだよね……知ってた?」

 独り言のようにそう言うと、スイッチを入れる。ブーン……と低いモーター音が鳴った。さっきから自分の中で鳴っていたのと同じ震動。……知らず、その感覚を思い起こして、体の内側から震えるようなその衝動に、眉をきつく寄せて堪える。

 

 ――と、何の前触れもなく、涼平は、真理子の性器にそのローターを押し付けた。


「ぎゃ、あううっ!」


 突然全身を駆け抜けた強い刺激に、真理子はまたビクンと体をのけぞらせた。


「まだクリは触ってないよ?」


 涼平は楽しそうにそう告げると、さらにローターを真理子の秘部に押し付ける。性器の周りから始めて、少しずつその刺激を内側に向けていっているのだ。


「ああっ!あ、いや……あ、ああん……」

 

 全身を駆け巡っていた快感が収束し始めたのを、真理子は感じていた。


「……いっちゃいそう?」

 

 涼平はローターをゆらゆらと揺らし、手で乳首を弄びながら、耳元で囁いた。

 声を漏らすまいと腹筋に力を入れるその動作が、余計にその部分の感覚を鋭くさせた。……もう殆ど無意識のうちに、目をぎゅっと瞑って、いやいやをするように首を横に振っていた。 波に押し流されまい、と必死で耐えている真理子の表情を、少しの間涼平は見つめていたが、……やがて、無言で真理子のクリトリスに正確にローターを押し付けた。


「あ、あ……やっ、あうっ」

「――いけよ」

 

 そう呟くと、胸の先端を摘み……指にきゅっと力をこめる。

 真理子の体がビクンとのけぞった。


「いやああっ!ああ、ああんっ」

 

 真理子の体全体に蓄積していた痺れが、出口に向かって収束を始めるのに、さほど時間はかからなかった。

 クリトリスに規則的に加えられる振動は、そのうねりの速度を真理子の意思とは無関係に増してゆく。頭の中が真っ白に塗りつぶされる、否応なしに追い詰められるその波。


「いやあっ、いきそ、いく……あ……っ」

 

 ビクン、ビクンと体を振動させ、真理子は頂点を超えた。どこから出てくるのかわからないような叫び声が口から吐き出される。

 また――前に涼平に触れられたときと同じように、じわっと涙が眼に溜まったのがわかった。




 涼平は、全身から力が抜け、ぐったりとベッドに体を預けた真理子を抱きしめてキスをした。……真理子も求められるまま、舌を絡めて応える。

 

「――こっちも限界だわ」


 ふと呟いて、涼平はすっとその体を真理子から離した。手早く着たままだった服を脱いで、裸になる。

 そういえば、涼平の裸は初めてだった。真理子はヒューズが飛んでしまったような真っ白な頭で、辛うじて涼平の下半身を見た。部屋の照明が薄暗くてよくわからなかったが、涼平のものがちらっと目に入る。

 はっきりと存在を主張するそのものに、……真理子の体の奥深くが、じいんと痺れたのがわかった。

 

「――舐めて」

 

 涼平はまず、真理子の口に自分のものをあてがった。

 真理子は言われるがまま、そのものを頬張る。祐輔のものをたまにフェラチオすることはあったが、お世辞にも上手いとは言えないと思う。……それでも、懸命に出来るだけ奥まで咥えこみ、陰圧をかけて上下に動かすうち、そのものが更にその固さを増すのがわかる。……その熱い拍動に、また自分の熱も上がっていくような感覚。

  

 ひとしきり、涼平は自分のものを真理子の口に入れ、ゆっくり腰を動かしていたが、やがてそれを外した。避妊具をつけたらしい。

 そしてそのペニスの先で、真理子の性器をちろちろと触りはじめた。

「あ、いや、ああっ……」

 たまらず、真理子は自由にならない体を懸命に捩った。


「――入れるよ」

 

 涼平がそう言った次の瞬間、ずぶっ、と真理子の中に大きくて熱いものが侵入してきて……仰け反った喉の奥から、声が漏れた。

 自分はこの一週間、ずっとこの感触を待っていたのだ。真理子はそう認めざるを得なかった。ぽっかりと開いたまま、所在なげに彷徨うこの空間を埋めて、固定してくれるこの存在を。

 涼平ははあっ、と息を漏らして、ゆっくりと腰を動かし始めた。


「ああっ…ああん、ああんっ……」


 体を拘束されて、涼平に体を晒し、貫かれている自分の姿が視界の端に入って、堪らず真理子はぎゅっと目を閉じた。しかしその一瞬の姿は目の裏に焼きついて、体中にじいんと痺れが走る。真理子の内側に与えられる快感に、切れ目なく甘いあえぎ声があがるのを止められない。


 涼平は一瞬、腰の動きを中断すると、真理子の両足首を固定していた紐の結び目を解いた。

 そして、真理子の腰を持ち上げると、さらに自分の腰を奥に進めた。


「ひゃあ、ああん!」


 奥を突かれて、真理子の体の奥にびりっ、びりっ、と電流が走る。  

 真理子の脚を自分の肩に乗せると、涼平は激しく腰を動かし始めた。

 パン、パン、と腰を打ち付ける音がする。

 突き上げられるたびに、真理子は叫び声をあげた。全身がバラバラになってしまいそうな感覚。

 真理子はもう、その生まれて初めて味わう快感しか感じられなかった。

 

 ……どれくらいの間、その快感に身を任せていただろうか。

 涼平が、息を吐き出すのと一緒に、――いくよ、と短く告げた。

 次の瞬間、どくん、どくん、と真理子の中で涼平のものが脈打ったのが、真理子にもわかった。

 真理子の脚を下ろすと、涼平は真理子の体を抱きしめた。ふうっ、と大きく息をついたのが涼平の胸板越しに伝わってくる。


「――気持ちよかった」


 涼平はそう言って、また真理子にキスをして、……その熱い唇の動きに応える。

 


 今この瞬間、涼平と繋がっている、自分の性器と唇と、……そこから伝わってくる熱が、感覚のすべてだった。

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