第8話 助けた少女

 死神がモンスターというのは本当だったらしく、生き返って攻撃してくるということはなかった。


 死神以外にもダンジョンの中にモンスターの気配はあるが、しばらく寄ってきそうにない。


 ひとまず安全は確保されたようだ。


「もう大丈夫みたいだよ」


「あの。本当にありがとうございました」


「いいって」


 ペコペコと頭を下げてくる少女。


 ピョンと立った髪が特徴的なだけで、やはり普通の一般人のようだ。どう見ても冒険者をしている人間には見えない。少し使い込まれた服を着ているただの女の子だ。


 まあ、立ち上がれないらしいが、無事なようだ。


「しかし、ここからどうやって出るんだ?」


「それは後だ。まずは挨拶を済ましておけ」


「そうだな。俺はラウル・セレスティーン。よろしく」


「タマミ・ユーレシアです」


「よろしくタマミ」


「はい。ラウル様」


「俺よりよっぽど神様に信じられてるぽいけど。お祈りとかしてるの?」


「信じられてる? お祈りはしてますよ? 私はあんまり信心深くないですけど。ただの人です」


「だってよ?」


「そんなはずないだろう。我が呼ばれたと気づけるぐらいだ」


「はあ」


 本人の意思はアレとしても、神様へ届いた気持ちは本物だったのか。


 じゃ、俺の祈りは届いてなかったのか。


 うーん。俺より危機的状況だったのかなー。わからん。


「あの。先ほどからどなたとお話しされてるんですか?」


「俺? 俺も声は聞こえるんだけど、見えないんだよね」


「声が聞こえるけど見えない?」


「ああ。相手は自称神様なんだ」


「神様!?」


 まあ、俺だって未だに信じていいか悩んでるところだし、他人からすればあり得ない話だよな。


 助けてもらったことは感謝してるけど、変なやつに助けられたなって思ってることくらいわかる。


「あの。他にも気になってたんですけど、自分のことを俺っておっしゃられるんですね」


「ああ。俺は男だから。って言ってもさっき死神に言われた通り、今の見た目は女だな。神様の力で死んだ妹の姿で生き返った。しかも、説得が面倒だからってことと、俺に魔王を倒したら妹を生き返らせるっていうことを忘れさせないためっていう」


「そうなんですね。色々あったんですね」


 どこみているのかわからないけど、やっぱり信じないよな。


 だからこその孤軍奮闘なんだろう。


 これっていちいち怪しまれないために、言葉遣いとか変えた方がいいのか?


「誰が自称神だ。我は本物の神だと言っているだろう」


「ツッコミが遅いな」


「話の腰を折るわけにはいかないからな」


「黙っててくれない? 俺が余計に変なやつだと思われるから」


「なぜだ?」


「今理由も言ったんですけど?」


「少女を見てみろ」


「え?」


 なんで今タマミのことになるんだ?


 いや、なんだろう。俺の頭上を見て驚いてるような。


 なんか出たの? 死神が生き返ったとか?


「何もいない」


 俺は慌てて振り返ったが、死神はピクリともしておらず、他に何もなかった。


「見えないんですか? ラウル様の首から生えてるものが」


「俺の首から生えてる?」


 咄嗟に首を触るも、長くなった髪に触れるくらいで特に何もない。


 でも、タマミが嘘をついているようには見えない。


「何もないけど」


「触れないんだ」


「触れない?」


「どうだ。わかったか。我は貴様に力を与えることはできても、実際に世界に影響は与えられないのだと」


「いや、わからない」


「先程の話本当だったんですね?」


「どうして今信じるんだ? どういうこと?」


「ええい。話が進まん。これでいいだろ」


 全く話を読めなかった俺。その目の前にいるタマミの背後に、青白くほのかに光る謎の女性が現れた。


「え、敵?」


「そんなわけなかろう」


 神に否定されやっと俺は、多分同じことを言っていたんだとわかった。


「なんで呼ばれたんです?」


「一人に一柱をつけておけばわかりやすいだろう。毎回いるだのいないだのと言われてはらちがあかない。どの神も目的は同じはずだ。これくらいいだろう」


「わかりました」


 なんだろう。タマミの方にいる神のが優しそうな気がする。


「マジで神様だったのか?」


「だからそうだと言っていただろう」


「あの」


 タマミは上目遣いに俺の顔を見ると、もじもじし出した。


「どうした?」


「もう一度話してください。ラウル様がここに来るまでの経緯を」




 俺はタマミにここに来るまでの経緯を一通り話した。


 なんだろう。まず今の感想はタマミとの距離が近い。


 体をくっつけてくる。なんだこの人。感情が出やすいとかいうレベルじゃない。


「ラウル様はこれまで大変だったんですね。やっぱりお姉さんだ」


「様はいい。それに、俺は兄だ」


「じゃ、ラウルちゃん。私にできることならなんでも言ってね。私も神様から力を与えられたみたいだから」


「あ、ありがとう?」


 ちゃん!? しかも、なんか急に馴れ馴れしいんだが。


 女の子同士ってこんなものか? いや、なんだろう。絶対に違う気がする。


 なんでこんなにくっついてくるんだこの子は!


「でも、俺のスキルは孤軍奮闘だろ? 仲間ができていいのか?」


「もちろんだ。旅の仲間が必要なことくらいわかっている。貴様が天涯孤独な事実は変わらないだろう?」


「馬鹿にしてる?」


「してない」


 なんだか相手は神様だが、ものすごく引っ掻き回されてる気がする。


 が、仲間が増えるのは心強い。


 神様が気づけるほど祈りの強い女の子だ。力を与えられたと言うしきっと頼りになるのだろう。


「それで、タマミは何ができるって? やめい」


 気づけば頭まで撫でられてる。


 本当に安心してテンションおかしくなってるんじゃないか?


「ラウルおね、ラウルちゃんは何ができるの?」


「今変なこと言わなかったか?」


「言ってない」


 絶対お姉ちゃんとか言おうとしただろ。大丈夫かこの子。


 まあいいや、情報共有だな。


「俺ができるのは常に身体能力を強化してるってこと。それによってできる物理攻撃。今わかってるのはそれくらいだな」


「他には?」


「さあ? 他には何ができるんだ?」


「貴様ができることはおよそ全てが今まで以上にできる。単純明快だろう? もっとも我がスキルを作ったのではなく、効果は元のスキルそのままだがな」


 ふむ。となると。魔法が使えればその強化もできるのか。


 だがな。これまで、殴る、切るをメインにしてきたからな。いずれでいいか。


 勇者パーティに入る前はそれで困ったことなかったし。


「それで、タマミのスキルは?」


「あんまりダラダラしている時間はない。ここはあくまで近くだっただけだ。救える命がまだある。その先でいいだろう」


「おい。話は」


 まだ終わってないのに、また勝手に話を進められた。


 くそう。


 有無も言わせず、また視界は白く塗り染められた。


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