第9話 もういない仲間を探す勇者

 できることはまだあるはずだ。


 俺はもう少しアルカ探しを続けることに決めた。


 今拠点にしている街の近くにいる魔王の部下と思われるやつは倒したが、まだ脅威となるモンスターはいるはずだ。おそらくそいつが何か知っているだろう。


 そして、わかったことがある。認めたくないが、アルカとラウルがいないと、思いのほか戦闘が面倒くさい。


 悔しいが、いた方が便利だった。


「ひとまず街に戻ってアルカを連れ去ったモンスターを探そう」


「そうするです。アルカが心配です」


 パーティを無駄に二人も失うのは色々ともったいないからな。


 あくまで強化のために一人を生贄にするつもりだったんだ。二人とも殺すつもりはなかった。


 しかし、そうそういるか? 人に気づかれずに、人をさらえるようなモンスターが。


「誰か人をさらうモンスターについて何か知ってるか?」


 パーティメンバー全員が首を横に振る。


 だよな。知らないよな。


 そもそも俺たちがここらに来たのは、調査の結果この周辺を支配しているモンスターが魔王の部下だといううわさを聞いたからだ。


 ラウルを呼び出したのは、そいつを倒し根城を崩壊させたからだ。


 そもそも魔王の部下が支配している地域で、他に優秀なモンスターなんているのか? いや、いないと困る。


「なら、他に強そうなモンスターについての話は聞かなかったか?」


 これまた全員首を横に振る。


 とりあえず街の中で聞き込みをするか。




 当てはまるモンスターなんていなさそうだと思ったが、さすが勇者の俺の運。


 行き当たる時はすぐに行き当たる。


「すみません。この辺に人をさらったり街に迷惑をかけているモンスターはいませんか?」


「ああ、いるよ。もしや、あんた勇者様か? なら詳しい話をこの街のギルドで聞いてくれないか? 依頼は出されているはずだ。どうか解決してくれ!」


「わかりました」


 うわさ話はすぐに俺の耳に入ってきた。


 しかし、ギルドを通しての依頼は久しぶりだ。


 それは、魔王直属の部下についての情報はなかなか知っている人物がいないから。


 いればすぐにギルドで共有されるだろう。だが、そうはならない。


 最初の数体こそギルドで知ったが、最近ではめっきり情報が出てこない。そのため、俺たちが独自に調べて討伐しているわけだ。


「リマ。ギルドってどこだっけ?」


「あちらですわ。案内します」


「ありがとう。助かるよ」


「いえ。これくらい当たり前です」


 リマに案内してもらいながら俺は考え続けた。


 これほどまでに静かな侵攻は今までの歴史上なかったはずだ。魔王軍も何か隠れて動いているはずだ。


 歴史的に勇者は人類を襲う魔王とその部下から人類を守るため激しく戦ったらしい。


 だが、今の俺たちにそんな激しさはない。


 いつ攻めてくるかもわからない魔王たち。だからこそ俺はかなり乱暴な方法を取ってでもパーティを強化したかった。そして、やり方は間違っていないはずだ。




「あの。この街の近くに街の住民を困らせる何かがいると聞いてやってきたのですが」


「はい。え、勇者様? 勇者様がどうしてこのようなところへ?」


「まあ、色々と」


 俺は勇者なだけあり、特定の拠点を持たず行動し、魔王軍を壊滅させるという、国王直々の依頼を受けている立場。


 魔王に関連する情報を国へ送り、魔王軍関係者を討伐しているだけで金は入ってくる。


 通常の依頼をこなせないからこその手当てだ。そのおかげで、他の冒険者とは異なり、明日食う金に困ることはない。


 しかし、俺への特別扱いのせいで、今も、俺を見る目はさまざまな感情を抱いていることがはっきり感じられる。


「そうですか。しかし、我々はこの近くで魔王軍の関係者がいると言う情報は」


「いや、魔王軍じゃなくていい。今は少し探しものをしていて。ここの近くにいるモンスターがその探しものについて何か知っているかもしれないんですよ」


「なるほど。街を困らせているとなると、そうですね。この街の冒険者では太刀打ちできないのが」


「受付嬢さん! あいつをよそ者に任せるって言うんですか!」


 俺たちの話を盗み聞きしていたのか、一人の冒険者が声を荒らげた。


「しかし、皆さんだけで対処できないのは事実でしょう。冒険者だけでなく街の住民にまで被害が出ている以上、実力者が解決してくれるなら頼むのが筋です」


「クソが。勇者だからって毎日呑気に生きてるやつに任せるのかよ」


「俺だって冒険者だ。求められることに見合った仕事をするだけだ。悔しいなら実力をつければいいだろう」


「あんたは生活を保障されてるだろうが!」


 冒険者の俺への態度に冷静さを失う三人に対し、俺は手を出して制止した。


「ベルトレット様」


「言わせておけばいい」


「ですが」


 俺は首を横に振って三人をしずめた。


 こんなところで無駄に時間を使っている場合じゃない。


 どんな相手か知らないが、相手によってはアルカを狙うのもわからなくはない。


 それだけ知能があるってことだ。


「どのようなやつですか?」


「あ、ああ。はい。死をもたらすと言われている黒龍です。なんでも、人の姿に化け、人をさらっているとか。それだけでなく、突然冒険者の元へ現れ、モンスター共々命を奪ったりと、特に凶悪なモンスターです。基本的に山にこもっているのですが、時たま不慮の事故が起こるせいで死者が出るため、要警戒モンスターとして懸賞金がかけられてます」


「おそらくそいつだ」


「本当ですか?」


 人の姿に化け、人をさらう。そして、飛行能力を持っているドラゴンなら、移動も高速だろう。


 間違いないじゃないか。こんな街にドラゴンがいることは信じられないが、今はこの近くに拠点を置いていてよかった。


「その依頼俺たちが受けます。必ず解決してみせますよ」


「ありがとうございます」


「任せてください」


「チッ!」


 俺たちに当たり散らかしてきた冒険者はそっぽを向いている。


 まあ、俺たちにかかれば簡単な仕事だろうが、命を奪われる危機が減るなら向こうとしても願ったり叶ったりだろう。


 しかし、黒龍か。予想以上の大物だな。


 魔王の部下と同程度、もしくはそれ以上かもしれない。


 本来なら次の部下を探しに行くところだが、アルカのためだ。


「行こうみんな。仲間のために」


「です」


「わかりました」


「行きましょう」


 俺は受付嬢から更なる詳細の情報を聞き出し、黒龍を倒すための準備を始めた。


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