第4話 俺、妹になってる!?

「ここは」


 なんだ? 声がおかしい。


 俺は確か、背後からベルトレットに刺されてそれで。


「貴様は一度死んだ」


「誰だ!」


 後ろから声がした。と思ったが誰もいない。


「貴様には見えまい」


 変な感じだ。確かに声は聞こえるのに姿が見えない。


 それにどうにも体の感覚がおかしい。


 なんというか、いつもより目線が低いというか、肌が空気に触れているというか。


 それより。


「俺、なんで生きてるんだ?」


「我が生き返らせたからだ」


「生き返らせた?」


 まさか、伝説の蘇生魔法の使い手?


 いや、まさかな。


「我は神だ」


「神?」


 想像の斜め上を行っているが、そりゃないな。


「悪いが、俺は神を信用してない。生き返らせてくれたのはありがたいが、変な勧誘はごめんだ」


「違う。我は神だ。貴様の妹の願いで、妹の命と引き換えに貴様を生き返らせた」


「は? アルカの命と引き換えに?」


「その証拠にお前の体を妹の姿にしておいた」


 妹の姿?


「うわ! なんだこれ! 俺、アルカになってる!?」


 通りでいつもと違うわけだ。


 服の布が少ない。


 そりゃ髪も長いし、声も高いわけだ。胸も。じゃない!


「おい。どういうことだよこれ!」


「言葉の通りだ」


「言葉の通り、って」


 確かに生き返ったみたいだけど、アルカなしじゃ俺のスキルは腐ったままだ。


 アルカがいてこそ俺の人生。アルカがいてこその俺のスキルだ。


 なんで、アルカが犠牲にならなくちゃいけなかったんだよ。


 せめてアルカが生きてくれれば俺はそれで。


「そこで、貴様には二つのよい知らせがある」


「知らせ?」


「なになに? きみ迷子? 俺たちが案内してあげようか?」


「路地裏にいたら何されるかわからないよ? それとも何? もしかしてこういう状況が好きな変わった人?」


「ああ? こういう状況だ?」


 自分を神とかいうヤバいやつと話していたところに、変なのに絡まれた。


 この辺は安全ってイメージだったんだが、全員が全員優しいってわけでもないのか。


 それとも、アルカは俺が知らなかっただけでいつもこんなのに絡まれてたのか。


「もしかしてきみ自分の状況わかってない?」


「男と二対一。逃げられるわけないよね? おとなしくしておいた方が早く終わると思うけど」


「なんだ。女相手に喧嘩しようってのか?」


「お? やる気? もしかして俺たちのこと知らない感じ? この辺じゃ名の知れた」


 軽く壁を殴っただけのつもりが破片が周囲に飛び散った。


 あれ、この感じアルカと一緒にいる時と同じ威力、いやそれ以上か?


「き、きみ。もしかしてその年で冒険者とか? 早く言ってよー」


「すんませんした! 俺たちただの一般人なんで、お仕事頑張ってください!」


 変な男たちは頭下げて逃げてった。なんだったんだあいつら。


 ヘラヘラしやがって。


 しっかし、この力はなんだ? アルカが本気出してなかっただけで、俺より筋力があったってことか?


 どう見ても腕は俺より細そうだけど。


「話の腰を折った者はいなくなったか?」


「ん? ああ。そうだったそうだった。神と話してたんだった。いなくなったいなくなった。多分」


 近くを見回しても見当たらない。


 逃げたフリではなさそうだ。


「話を戻そう。二つのよい知らせのことだ」


「家族が死んでてよい知らせもないと思うけどな」


「一つ目はそのことだ。魔王を倒せば妹を生き返らせてやろう。貴様を妹の体にしたのは、何も蘇生のために使ったというだけではない。我の力を信じさせるため。そして、妹の姿を保管するためだ」


 納得できるような、できないようなこと言いやがって。


 つまり、俺が死ねばアルカは生き返らないってことだろ。


「やってやんよ」


「妹と同じく話が早くて助かる」


「だが、そもそもこんなことできるなら、あんたが魔王を倒せばいいじゃないか」


「そうもいかん。我は人に対し奇跡を起こせても、この世界に直接力を加えることはできない。力を与えても人が魔王を倒してくれなければ、神の力では魔王を倒せない」


「ふーん。でも、どうして俺、いや俺たちなんだ?」


「貴様は元々魔王を恨んでいたようだ。加えて自分の死に続き、妹まで死んだ。家族の蘇生を条件にすればいい話になるだろうと思ってな」


「いいように利用しようってわけですね?」


「いい取引だと思わないか?」


 確かに、俺は魔王を殺したい。その思いは変わらない。ついで妹を生き返らせられるなら、これほどのことはない。


「魔王殺しを目指すことはいいが、俺には力がない。唯一のスキルもない。今の俺は冒険者として有用なスキルを持った子ども以下だ。それとも神様が力を与えてくださるんですかね?」


「その必要はない。すでに実感したんじゃないか? 今の自分の力を」


「さっきのか?」


「そうだ」


 俺はもう一度自分で壊した壁を見てみた。


 どう考えても一人の力では壊せないほどのへこみが壁についている。


 ある程度アルカとの距離が近くなくてはつけられないようなへこみだ。


「その力は我がお前に与えた新たなスキル。いや、お前の魂を妹の肉体に入れたことで生まれた新たなスキルだ」


「どういうことだ?」


「同じスキルを二つ持ったことで、新たなスキルに進化したのだ。今のお前は、家族のためただ一人戦う者。スキル『孤軍奮闘』の使い手だ」


「はあ」


 なんだか実感が湧かない。


 本当なんだろうけど、今までアルカとやってきたわけだし。


「そのスキルがあれば、一人でも今まで以上の力を発揮できよう」


 確かに、見た目は妹のように華奢な見た目になったが、力は以前よりみなぎる。


 肉体が変わったせいで、そもそもの動きに慣れるまで時間はかかりそうだが、それでも乱暴に使っても今までより戦えそうだ。


「よい知らせは以上だ」


「以上って、これでどうやって魔王を倒せって?」


「力があれば勝てよう。殴れば一撃のはずだ」


「その殴る対象の場所は?」


「魔王は巧妙に姿をくらませている。今の魔王城には魔王はいないようだ」


「いないようだって。じゃあどうしたら」


「確か、何体かの死神が魔王について詳しかった。魔王の場所まで案内はできないが、何か知っていそうな者のところまでは案内しよう」


「はあーあ」


 大丈夫か? これ。


 今まで以上に困難な道のりになるんじゃないか?


「飛ぶぞ」


「は?」


 俺の視界はいきなり白く染められた。


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