第17話 ある意味公開処刑
そんなことを考えながら馬車に揺られ、私とファウスト様は王宮へとやってくる。いや、ファウスト様の場合は戻ってきたという方が正しいのだけれど。
会場となるパーティーホールはもうすでに賑わっており、人々が楽しく談笑をしていた。招待されているのが王国の高位貴族、もしくは友好国の王族のみということもあり、人々の装いはいつも以上に気合が入っているように見える。実際、私の装いもとても気合が入ったものだし。まぁ、ファウスト様が全て選ばれた感じだけれど。
パーティーホールに入れば、一気に視線が私たちに集中する。そっとファウスト様の方に視線を向ければ、彼はいつものようにニコニコとした笑みを浮かべられていた。それに、ほんの少しだけ胸が痛む。その笑みを、私にだけ向けてほしいって思ってしまう。
(こんなことを思ったら、心の狭い女になっちゃうのに……)
王太子妃たるもの、心は広く生きていかなくてはならない。わかっている。それに、私に嫉妬する権利がないこともわかっている。なのに、心はわかってくれない。心の中で醜い感情がぐつぐつと湧き上がってきて、それを押さえようと胸の前で手をぎゅっと握る。
「……キアーラ?」
そんな私を見てか、ファウスト様が声をかけてくださった。その目は心配そうに揺れており、私のことを心配してくださっているのは一目瞭然。だけど、素直になれない私はプイっと顔を背けてしまう。
「……少し、緊張しているだけです」
なんとまぁ、可愛げのない女だろうか。内心でそう思い、やってしまったとも思う。こんな風な態度を取り続けていれば、このお心のとても広いファウスト様でも嫌いになってしまわれる。先ほどこういうツンケンした態度も好きだと言われたけれど、限度があるだろうし。
そう思うのに、ファウスト様は優しく「そっか」とだけ呟かれると、私と絡めた腕に力を込められた。それに驚いて彼の顔を見つめれば、彼は悪戯が成功した子供のような表情をされていた。その笑みに、胸がきゅんとする。
「緊張しなくてもいいよ。……俺が、いるから」
ファウスト様は私にそんなお言葉を告げられると、周囲に笑顔を振りまく。彼のその横顔を見つめていると、私の中にいろいろな感情が湧き上がってきて。その中に、先ほどのような醜い感情はなかった。このお方のおそばに並んでいたい。その気持ちだけが私の中でくすぶって、大きくなる。
(私、このお方のお隣にずっと並んでいたい)
ぎゅっと絡めた腕に力を込めて、心の中だけでそう告げる。そうすれば、ファウスト様は一瞬だけ驚いたように私の顔を見つめられる。でも、すぐにふっと口元を緩めてくださった。その表情も、どうしようもなく――好き。
「キアーラ。あいさつ回りに行こうか」
優しくそう言われ、私は静かに頷く。友好国の王族の方もいらっしゃっているということから、今回のあいさつ回りはいつも以上に重要なこと。……ファウスト様の婚約者として、私も同行しなければならない。それは、別に嫌ではない。ただ、嫌なのは――。
(ファウスト様が、ほかのお方に笑顔を振りまくのを、真横で見ていること……)
もちろん、友好国の王族の方には女性もいる。王妃様ならばまだしも、王女殿下なんかに笑いかけられてしまえば、私はもしかしたら嫉妬でおかしくなるかもしれない。そう思うけれど、行かないという選択肢は最初からない。
「……キアーラ」
私が一人悶々としていれば、不意にファウスト様はそんな風に私の名前を呼んでくださった。驚いて彼の顔を見つめれば、彼は「……ちょっと、じっとしていて」と世間話でもするかのようにおっしゃる。……断る意味もないため、私はその場でじっとしていた。すると――。
「え、えぇっ⁉」
私の身体が、ふわりと宙に浮く。それは、ファウスト様が私のことを横抱きにされたからで。私が一人で目を回しているとファウスト様はくすくすと笑われ、そのまま歩き出される。え? え? こ、これは、一体、どういうこと⁉
(これって世にいうお姫様抱っこ……!)
最近結婚式とかで流行っているということは知っていた。だけど、さすがにパーティーでは……。そう思って私が視線だけで周囲を見渡せば、周囲は呆然としていた。そりゃそうだ。私だってその立場だったらそう思う。むしろ、その立場にしてほしい。当事者なんて恥ずかしすぎて無理だ。
「お、降ろして、降ろしてくださいっ!」
「暴れないで。……落ちちゃうから」
そんなこと、ありえもしないのに。内心でそう思いながらファウスト様をにらみつければ、彼は「可愛らしいなぁ」なんてぼやかれるだけ。普段は大好きなその何処となくふんわりとした態度も、今では腹の立つ要素でしかない。私が顔を真っ赤にしていることも、このお方は楽しんでいらっしゃる。……性格が、悪い。
(こんなの……絶対に、公開処刑よ!)
そう思うけれど、そんなこと言えるような度胸はない。全く、我ながら面倒な女だ。
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