第11話 数分の1

 敵の部下たちは俺の言葉を信じて良いのか迷っていた。


「ど、どうする…。こいつの言葉通りにするか?」


「いや、こいつの言葉に従ったとして団長の無事を誰が確認する。こいつの言うことは信じられないぞ」


(まぁ、素直に従ってくれるわけないよね)


俺のデタラメな提案はすぐに見破られてしまい、別の作戦を立てる暇もなかった。


一歩ずつ後ろに下がって、樹木を背にするが、ここからどうやってこの局面を脱することが出来ようか…


「敵は十数人、俺の手札は人質ひとり…」


「もう…お前は詰んで…いることを自覚しろ…」


人質の団長が朦朧とする意識でも、俺に反抗する意志を見せる。


「それは俺が一番わかってるよ」


ふと、ポタポタと滴る自分の血が団長の衣服に染み込んでいることに俺は気づく。


(もしかすると…)


血が乾き切る前に俺はすぐを行動する。


人質の団長を距離を詰めてきていた部下の集団に突き飛ばす。


「団長! 大丈夫ですか」


おれのまさかの行動で、敵の意識は団長に集中する。その隙に俺は全力で鬱蒼と茂る森へと走る。


「弓兵! 奴を撃て!」


一瞬の間を置いて、背後から怒号が飛び矢が俺の背中へと飛んでくるのであった。



「やったか」


射手は俺に当たったと思ったはずだ。


しかし、矢は走っている俺をすり抜ける。


「なぜ当たらん! どういうことだ!」


「わかりません、確実に狙ったはずなのに」


それもそのはずだ。そいつは一体目のホログラムで、今からが本番だ。


俺はすでに数体のホログラムを出現させており、それらと一緒に走り出す。


突然の出来事に敵の集団は面食らい、弓兵もどれを狙っていいかわからず混乱する。


俺は今のうちに走る走る。


「もうどれでもいいから、一人ずつ切っていくぞ」


副団長らしきものが、苦肉の策で手当たり次第に攻撃しろと命令を出す。


(近くで切られると、すぐにバレる。ホログラムは残り9体、それまでに逃げるか…)


「オラッ! こいつは手応えがありません!」


「こっちもです」


一体、また一体と俺のホログラムは看破されていき、残りは俺と最後の一体だけになる。


だが、次に狙われたのは俺だった。剣を持った部下の女が翼を羽ばたかせ、飛び掛かり一気に距離を詰めてきた。


「やばい、間に合わなかったか…」


俺の僅かな希望は断たれて、剣が振り下ろされた。


だが、剣先がわずかに鈍り俺の後ろ髪に掠って外れた。


「な、何をした…」


部下の女は顔を紅潮させて、自分に何をされたのか理解できないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る