第3話─隣人からの再接触
それにしても突飛な告白だ。
別に知らなくてよかった。
しかし、それとは裏腹に妙にしっくりきている自分がいる。
私が妙に花咲さんに対して抱く不信感は前世やらとの因縁なのかもしれない。前世かは兎も角通りがよいので前世としておこう。
花咲さんは小説家で元聖女って滅茶苦茶だな。
と思う。
もし、こんな設定の読み物がったら、私は主体になりたくない。かといってやれやれになるのも気が引けるし、巻き込まれ系って主体性なくていやだなあ。
明日か今日の晩酌で、綿貫が「全部、法螺だぜいえーい!」と薄情するのを願うばかりだ。
「魚住さん」
薬局で調味料コーナーを見終わり、アイスを見ていると聞き馴染みのある声がする。
この声は、話題の花咲さんだ。あの話のあとだと顔がまともにみれない。変に意識してしまう。応援だのなんだの言っていた綿貫の計略だろうか。
「花咲さんもお買い物でしたか」
「綿貫さんは?」
「綿貫はアスパラ湯がいてます。立派なものありがとうございます」
「いえいえ。その」
「はい」
「綿貫さんって何か言っていました?」
「いいえ。別に」
「彼女、何か誤解しているんですよね」
「確かにそういうきらいがありますからね。変な言動していたら私が代わりに詫びます」
花咲さん、大変困っていたみたいだ。
あとでよく言い聞かせておこう。
「僕がはっきりしないのがダメなんですけど」
花咲さんの一人称はよく安定しない。もしかしたら、普段は“俺”で敬語の時は“僕”にしようと心がけているのかもしれない。今まであまり気に留めていなかった。
「いえいえそんな。では」
これ以上話すこともないので会釈してその場を離れることにする。
「魚住さん」
改めてこんな薬局のアイスコーナーで真剣な声で引き留められても困る。ここで無視するのも自分の良心が痛むので首を小さく傾げつつ振り向く。
「どうしましたか」
「そのアイス、美味しいですよね。それだけで、すみません」
「美味しいですよね。買われるんですか?」
「はい。それだけなんで、家までご一緒しても」
「道一緒ですもんね」
「あとで後ろ歩くのも気が引けて」
「私の立場でもそうなので、ご一緒しましょうか」
「ありがとうございます」
なんか嬉しそうな顔している気がする。いつもと変わらない笑顔なのに、そう感じるのは先ほどの綿貫との会話のせいに違いない。
ここで花咲さんと遭遇するのはよくあるが一緒に歩こうと言われたのは初めてだった。たんに気まずくなるからと言っても、今までもそうであったので気に留める必要もないが、言葉にされたらそうするしかない。
とっても薬局から出たらすぐアパートなので、そこまでご一緒~というわけでもない。
「魚住さん」
いつもは運動のため階段を使用するが二人なのでエレベーターへ吸い込まれる。
無言だったが花咲さんが穏やかに名前を呼ぶ。すると返事するしか選択肢がない。
「はい。花咲さん」
とりあえず返事に名前をくっつけて、素っ気なさを隠す。花咲さんは名前を呼ばれると機嫌がよさそうなので、もう反射である。
「僕の前世が、アナタをずっと慕っていた騎士だったって突飛なこと言ったらどう思います?」
「聖女じゃなくて?」
我ながら間抜けな返答。
花咲さんがうなずく。笑顔に緊張感が滲んいる。
これは、あれだ。茶化したらだめなやつだ。
そもそも、花咲さんと綿貫のようなふざけ合いの会話をしたことがない。
つまり真面目な質問というやつだろうか。
綿貫、花咲さん、騎士だったわ。
心内テレパシーを送ったが特殊能力がないので、親友には届かなかった。
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