02 会議が踊る

 あーあ。そうか仕事というアレか。

 ため息をつく俺に、足利さんが

「さあ打ち合わせをしましょう!」

 と笑顔でかましてくる。

 小学校の先生が

「みなさん仲良くしましょう!」とかいう調子だ。

 もしくは会社の研修に来る、すごい爽やかな謎の講師。

 ハナがソファから動かないので、俺は向かいにスツールを持ってくる。

 戸丸くんのぶんも用意して座った。あの体重に耐えるだろうか。

「ちなみにさ、シゴトなら、その後また白ビル送りだろ?」

 と俺は尋ねた。

 ハナは

「違う。〝療養および経過観察〟ね」

 いちいち訂正してくる。はいはい。

 俺が白ビル、白ビルと呼んでるのが、お前どころか足利さん戸丸くんにも伝染してるの知ってんだぞ。

「犬井さん。今回は、3日間くらいで済む予定ですから」

 と足利さんがなだめるの半分、慰め半分で教えてくれる。やさしい。

 さて戸丸くんは資料を広げるために、ばたばたとテーブルの上を片付けていて忙しい。

 とはいえハナコの飲み散らかし、食い散らかしだけだ。

 散らかしまくった本人は足組んで髪を撫でて、ゆったりしている。

「戸丸ー、今日の資料はコピーだし、即裁断するからテキトーでいいよ」

 とか言ってる。

 いや、そうじゃなくて俺の部屋を散らかしたら片づけて欲しい。


 ほどなくして、数枚の地図と資料がテーブルに撒かれた。

 いつも俺がメシ食ってるところなのでなんか変な感じ。

「さて、っと」

 とハナコが写真を2枚だした。

「こいつね」


 1枚目。

 男を真ん中に、左右にドレスの女二人がキメ笑顔している。

 どうもキャバクラかクラブのVIPルームっぽい。

 男はそれなりに出来上がっているようで顔が赤くニヤケきっている。

 歳は三十半ばいってるだろうか。オーバーサイズのトレーナー。

 丸顔に不釣り合いなほど細く眉毛を整えていて、あまり品がない。


 2枚目。

 こっちは隠し撮りらしい。

 ダテなのか知らないが、銀縁のメガネをかけている左前方からの写真。

 意外にそっけないポロシャツ、カーゴパンツにハンドポケット。ゆるいパーマをかけているのが、寝グセになってる。

 近所のコンビニにでもいくところだろうか?

 まあ、こっちの写真の方が顔がよくわかる。

 

「こう……もうちょっと真面目というか、マトモな写真はなかったのか」

 と俺はハナコの方に顔をあげる。

 今度は毛先を持ち上げてじーっと見つめていた。

 そんなキューティクルジェノサイドしといて、今さら。

「ん? まあ、免許とか証明写真もあったんだけどさ。太って印象がかなり変わってたの。それにそっちの方がわかりやすいでしょ。いろいろ。なんかガラ悪そうなトコとか品の無さとか」

 ずけずけ言うなあ。

「そんな生易しいものではないですよ」

 と足利さんが話し出した。

「この男の氏名は、津田セイヤ。セイヤという字は聖なる、とかヒジリの聖。ヤは――」

「名などいりません」

 と俺は反射的に足利さんを制していた。

「……名前なんぞいらない」

 顔を伏せる。足利さんも戸丸くんも、黙っている。

「……失礼しました」

 といって足利さんは軽く咳払いして次の言葉を探しているようだった。

「えー。では、この対象はですね」

 写真から目をそらしつつ聞いていると、誰かのわざ~とらしいため息が聞こえた。

 ぜってーハナコだコレ。

「相変わらず割り切れないね、犬井は」

「黙ってろよ」 

「やだ。黙らない。あなたの管理室長として、今の態度は看過できない」

「はあ?」

 俺は思わずチンピラみたいな声を出してしまっていた。

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