川の女神様

 コンコン。

「お母さん、開けるよ」

 しめきったドアがあったけどお母さんの部

 屋だったのか。

 

 …お母さん病気なのかな。

 返事がないな…

 

 ガラガラと由奈子がドアを開けた。

 

 …なるほど。

 

 白で統一された部屋の真ん中にお母さんの

 遺影が飾ってあった。

 

「お母さん…亡くなってたんだね」

「うん。お母さんが病気の時もあの人は、仕

 事仕事でさ。だからわたしはお父さんが大

 嫌い」

 

 …

 

「…うん…そっか。」

 

 そういう事情があったのか。

 …由奈子。

 

 オレは、お母さんの遺影の前で手を合わせ

 た。

 

 

「さあさあ、お茶が入りましたよ。どうぞ」

 家政婦さんが気をつかい明るく声をかけて

 くれた。

 

「あ、じゃあいただきます」

 ゴクリ。

 

 はぁ〜、熱くもなくぬるくもない絶妙な加

 減。

 さすが家政婦さんだ。

 

「これ飲んだらさ、わたしの部屋来ない?見

 せたいものがあるの」

 ?

 見せたいもの…

 とりあえず行ってみることにしよう。

「あー、じゃあそうしよっかな」

「うん。」

 

 階段を上がって二階に向かった。

 

 …しかし広いなー。

 しかも家政婦さんがいるだけあっていたる

 ところまで丁寧に掃除されてるわー…。

 

 なんてキョロキョロしていたら由奈子が立

 ち止まった。

 

「ここ、わたしの部屋。どうぞ」

 

 ⁉︎

 えっ…

 由奈子…

 

 ドアの開いた部屋をみてびっくりだ。

 

「由奈子って空手やってたんだ」

 部屋に黒帯が下がっていた。

「うん。そうだよ。ほら、写真」

 

 

 ⁉︎

 こ、この写真。

 この子は…

 

 

「えっ⁉︎ゆーちゃん⁉︎」

「やっと気づいた?」

「え、じゃあ、由奈子オレの事ずっと気づい

 てたの⁉︎」

「うん。」

 

 …

 

 一瞬頭が真っ白になったけど思い出した。

 由奈子とは、同じ空手教室に通ってたんだ。

 

 どっちが早く黒帯になるか競ってて…

 でも、オレは家の都合で転校しちゃって。

 それから、空手もやめてブクブクと太って

 いったのだった。

 

「ごめん、オレずっとゆーちゃんって呼んで

 たし、学校別だったじゃん。習い事だけの

 仲だったから、フルネーム知らなくてさぁ

 …」

「うん、わたしは道着の名前みて知ってたん

 だ…。でも高校入ったときユキトくんみて

 びっくりしちゃった。」

「あー…」

 

 だから前、からまれた時やっぱり強いって

 言ったのか。

 

 それにクラスで孤立してたオレをわざわざ

 友達と過ごせるように導いてくれたんだ。

 

 …昔オレ、友達といるのが楽しくてさって

 言ってたの覚えてくれてたんだなー。

 

「…由奈子、ありがとうな」

「ううん。わたしは別に何も。」

 

 オレは思わず由奈子を抱きしめてしまった。

 

「オレ、絶対由奈子を誰とも結婚させない。

 だから、オレと結婚しよう。オレどっちの

 由奈子も大好きだよ」

 

 と、思わずオレは高校生なのにプロポーズ

 なんてしてしまった。

 

 でも、由奈子はオレの腕の中で

「うん。ありがとう。」

 といい、そのあとちょっと待っててといい

 部屋を出て行った。

 

 …

 ついどっちの由奈子もって言ってしまった。

 ずっと黙ってるつもりだったけど、つい言

 ってしまった。

 

 由奈子…大丈夫かな。

 

 …

 

 ドアがゆっくりあいた。

 

 …由奈子

 

 

「…びっくりした?ほんとのわたしは…こっ

 ちなの」

 

「うん、知ってたよ」

「そっか。いつから?」

「由奈子が川に落ちそうになった時から」

「じゃ、ずっと知ってて黙っててくれたんだ

 ね。ありがと」

「うん」

 

 オレは、また由奈子を抱きしめた。

 今度は、ギャルじゃない川の女神様を。

 

 そう、由奈子はあの川の女神様なのだ。

 

 毎日ギャルに変身して一重から二重にした

 り、化粧で顔を黒めに塗っていたけどオレ

 はわかっていた。

 

 声も由奈子だったけど、笑った横顔が由奈

 子だったから。

 

「わたし…もうギャルやめよっかな。ユキト

 くんいればもういいかも」

「うん。なんかあったら、オレが守るよ」

「ありがとう。」

 

 

 そして次の日

 

 学校中が大騒ぎになった。

 

 続く。

 

 

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