第138話 趨勢

 久しぶりの執務室、自分の部屋だ。リリーシュタットの王宮に間借りしたまま。テーブルの上には書類が積まれている。三日ほど前に、ターバルグ経由で皇都バレルから戻ってきた。貯まっている政務にはわずかにしか手を付けていない。流石に疲れがある。多少熱もあるようだ。

 ユリシスはベッドから起き上がる。カーテンから朝日が射す。


「姫様、お目覚めですか? 体調はいかがですか? 昨日は大分と辛そうでしたよ」


 確かに身体はまだ気だるさを残しているが、ユリシスのスケジュールはかなり詰まっている。


「午前中はレビッタント卿との面談が予定されていますが、いかが致しましょう。体調次第では見送られても構わないかと。御身第一でございますから」


 聖サクレル市国で宰相を務める、ランサの父親、レビッタント・ミラとは、戻ってきてから、わずかに顔を合わせたに過ぎない。

 ユリシスが戦地に赴いている間の政務はもちろん、叛乱した貴族たちの切り崩し工作を行っている。その進捗が気にはかかる。


「ミラ家はどうなったのですか? ランサは何か聞いていますか?」


 ランサの実家である、ミラ家は今回、ナザレットの加担している。レビッタントは家督を譲った上で、この市国の宰相となった。現在の当主はランサの兄である。名はカギルと言う。


「ナザレットの本筋は解体されたのですから、あとは交渉でもなんとかなりそうなものなのですが、なかなかに捗々しい動きはありません。特にミラ家は頑迷といっていいでしょう」


 ランサの声には張りがない。彼女なりに責任を感じているのだろうが、実のところ彼女には責任の一切がない。すべて当主の判断による。場合によっては連座する形で補佐官の解任という話しもあった。カギルにしてみれば、父親と妹を捨て殺しにした形だ。ここでユリシスが軟禁なり解任なりするはずという思惑もあったのだろうが、ユリシスにその考えは微塵もなかった。


「大丈夫、寝てる暇なんて私にはないわよ、ランサ。レビッタントと会う時間は予定通り変更なしで。準備を手伝ってくれるかしら、きがえるとするわ」


 今日はいつもより、少し寝坊をしてしまった。急がなければ予定が少しすつ狂って来てしまう。


「朝食は軽いもの、そうね、スープだけでいいわ。ちょっと食欲がないの」


 ユリシスの言葉に、侍女が頭を下げて出ていく。ユリシスは疲れを自覚しているが、聖女としての務めに休みはない。


 座ったまま少し浅い眠りに落ちていたらしい、扉をノックする音でユリシスは目を覚ます。返事を返すと、失礼します、という声とともに、レビッタントが入ってきた。執務室に置かれてあるソファを勧める。侍女に飲み物を用意させると、ユリシスも着席する。


「聖女様にはお疲れと聞いております。お時間ありがとうございます。手短に説明致しますのでお許しください」


 まず話しがあったのは大聖堂を含めた市国の造営に関してだ。


「こちらは戦争もありましたのでそれほど進捗はしておりません。もうしばらくすれば基礎部分が出来上がります。そうすれば本格的な意匠造営へと移っていきます」


 こちらは簡単な報告事項だ。作業に携わる人々に大きな負担が掛からないようにとだけ注文をつけただけだ。


「そしてこちらは本題になりますが、叛乱した貴族の動静についてでございます」


 こちらはジオジオーノやアリトリオが戻ってきてから本格的な動きになる可能性もある。ただし、リリーシュタットの軍の大部分はナザレットの駐留中だ。場合によってはこちら戻ってくる途次に掃討する場合もあり得る。


「叛乱した貴族ですが、半数ほどは開戦前に帰趨を明らかにしてきました。こちらへの処置は陛下にもご了解していただいています」


 レビッタントに判断は委ねられているが、半知の没収と爵位の降格あたりが妥当だという考えのようだ。ユリシスに異存はない。


「問題は現在も反抗したままの勢力です」


 その中にはミラ家も含まれている。


「ミラ家の翻意はむずかしいのかしら」


 レビッタントは頭を下げる。どうやらかなり難航しているようだ。身内なだけにやりづらさもあるに違いない。


「ミラ家だけは私たちの手でケリを付けたほうがよさそうね。陛下がお戻りになる前に動いてもいいかもしれないわ。兵が戻り次第だけれどもね」


 ターバルグに駐屯している聖サクレル市国の兵たちは、ラクシンが率いて戻ってくる手筈になっている。ナザレットにいる兵たちはアリトリオが現在率いているのだ。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews

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