第83話 開戦
「最初に謝っておかないといけません、陛下。訓練所を破壊したのは私たちです。少し力加減を誤ってしまったのです。こちらで修繕の手配をしておきますので」
隠し立てしてもいずれは分かる。最初に謝っておいたほうがいい。直接の現場は見られてはいないが、あの爆発の後、あそこにいたのはユリシスたちだけだ。
「関係各所には私から謝罪しておきますのでお許しください」
ランサも揃って頭を下げる。ユリシスの攻撃を誘発したのは自分自身でもあるからだ。
「そうでしたか、あの爆発は聖女様の……。途轍もない威力ですね。驚きました。訓練所の件はまあ、そう大きな問題ではありません。急に呼び出したのは他でもありません」
連れてこられたのはリリーシュタットの政務を後見するザビーネ国々王ジオジオーノの執務室ではなく、会議室であった。見回すと、夜分にも関わらずリリーシュタットの政務に携わっている者がほぼ全員揃っている。
「追っつけ、ミラ卿とレストロア卿もやってくるでしょう」
ユリシスたちを呼びに来た兵士がそう答えると扉の外へと出ていく。どうやら緊急な案件が発生したようだ。
程なくレビッタントとアリトリオが執務室へとやってきた。席を与えられ着席する。もちろんユリシスの席は上座になる。その後ろにランサが控える形で会議は始まる。口火を切ったのはジオジオーノだ。
「皆、落ち着いて聞いてほしい。今しがた急使が入った。オルトラント公爵領がナザレット教皇国に攻められている。そして、これも確かな情報だが、貴族の一部が王家に弓を引いた。全く想定していなかったと言えば嘘になるが、予想の上を行っているのは確かだ。善後策を話し合いたい」
一同は騒然となる。
「落ち着けと言っている。これが反乱を起こした貴族の名簿だ」
ジオジオーノが一枚の紙を皆に回す。その一番上にはミラ家の名前が載っていた。
「な、なにかの間違いではないのですか?」
ユリシスの言葉にジオジオーノは無言で首を振る。どうやら事実のようだ。
オルトラントはリリーシュタットの東の要衝、そこへの攻撃と同時に反旗を翻した。リリーシュタットにとっても、聖サクレル市国にとっても最悪だと言える。
黙って、レビッタントが立ち上がる。
「この不始末、娘共々身をもって贖いたいと存じます。現時点で聖サクレル市国の宰相を辞任致します。ランサも自らの身は自らで処すでしょう」
そう言って部屋を出て行こうとする。ランサも突然の展開に驚きつつも、唇を噛みしめる。ユリシスは二人の姿を交互に見遣り、そう深く考えるでもなく宣言する。
「許しません!」
大きな声でそう言い放ったのだ。
「確かにミラ家は反乱に加担している。それは確かなのでしょう。しかし、それとレビッタント、それにランラがどう関係しているのですか? まさか、あなた方が反乱をそそのかしたわけではないでしょう」
もし、加担しているのであれば、この場を去って、反乱に加わればいい。
しかし、ユリシスにとっては、関係していないのであれば、二人に罪を問いようもない。問うたところで何もならないのではないか。それがユリシスの真意だ。
「ミラ家はミラ家、あなたたちはあなたたちなのではないでしょうか?」
ユリシスの言葉にはある程度の政治的な無知が含まれている。引責という言葉がユリシスには思い当たらないのだ。思い当たらないどころかそもそもそんな発想がない。それだけに子供っぽい無邪気さで彼らの辞任を否定できた。しかも、無邪気であるだけに、自らの言葉を顧みない。それは芯の強さとはまた別の力だ。
「もし、問題があるとするのならば、あなたたちの力で解決すればいい、辞任などもっての他でしょう。解決の手立てを考えるのもあなたちの仕事なのですよ。今、去られても何にもならないではありませんか。本当にそれでいいのですか?」
辞任も止むなし、と思われていた空気が鎮まっていく。聖女の言葉には確かに力がある、皆がそれを認識しはじめている。
「失礼、これは聖サクレル市国と聖女個人の問題でもありますね。こちらの人事は私が決済致します。二人とも悪いようには致しません。レビッタントも着席し、会議に加わるように」
レビッタントは手を膝の上でじっと握りしめている。ランサは父のあのような姿を初めて見る思いだ。ランサにしてもユリシスの言葉で救われた。なんとしても敵の攻勢を止め、反乱を鎮圧しなければならない。それが一番の恩返しになるはずだ。ランサはユリシスの後ろに立ち、涙が出るのをじっと堪えた。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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