第84話 国難

 ユリシスはきつく唇を噛みながらジオジオーノを見つめる。うなずき返したジオジオーノはゆっくりと口を開く。ユリシスの対応に満足しているようだ。


「繰り返すが攻められているのはオルトラント。敵兵力は約十万。これはナザレットが動員できる兵力の約三割から四割。かなり思い切った作戦だ」


 その軍に反乱を起こしたリリーシュタット諸侯の軍は参加していない。各地で蜂起した模様だという。


「ただしミラ公に関しては蜂起したのではなく、兵を率い、領地を退転したようだ。王都から近いからな。東に飛び地を持ってるからそちらにでも籠もっているのだろう」


 今のところ一斉に蜂起しただけで決起文などは出されていないが、いずれ現王家の正当性を貶めるような行動にでるのは簡単に予想できる。


「大方のところ、レストロアの東側の中立国を攻め取るという見方だったが、なぜ……」


 大臣の一人が口ごもる。


「なぜかはあちらにでも聞いてみないと分からんな」


 今、問題なのはそこではない、とでも言いたげだ。ジオジオーノの口調には多少の棘が含まれている。


「このままではリリーシュタットの東三分の一、いや半分は削られるだろう。後見の身としては耐え難い。打開策が必要だが」


 オルトラントへの援軍ももちろん視野には入っているが、それは相手も予想しているだろう。たどり着く前にすり潰される危険が伴う。

 しかし、手をこまねいていても仕方がないのもまた事実、妙案が欲しいところだ。


「こちらは先手を取られ、しかもずっと取られっぱなしだ。相手の手の上で踊っているのと同じだな。なかなかにしたたかでもある。遠慮はいらない存念がある者は申すがよかろう」


 ただ攻め寄せるのではなく、内乱を誘発させているところに作戦の妙がある。相手は充分にこちらの内情を知っているのだ。一旦は王家を滅亡させた、その後の動きも筋書き通りなのだろう。ただ一点を除いては。


「聖サクレル市国はリリーシュタットに内包されているようなものです。この国の危機は我が国の危機でもあります。この会議に呼ばれた意図も理解できます。尽力は惜しみません。陛下なんなりと下知いただければ」


 ユリシスの策戦立案能力はそれほど高くない。それは当然だとも言える。ユリシスは帝王学どころか戦術と戦略の違いすら理解できているかどうかすら怪しいのだ。


「聖サクレル市国が出せる兵力はどれほどになるのかな、レストロア卿?」


 ジオジオーノの質問に、机を指で叩いていたアリトリオが即答する。


「四千から五千です。各国の大使が兵を率いていますから、それらに聖地の防衛を委ねられますので全軍の出撃が可能です」


 加えて、各国大使経由で、国元に援軍要請を出すべきだとアリトリオは提案する。それは至極まっとうな意見として採用された。


「しかし、どれほどリリーシュタットに親身になってくれるかは未知数だな。もちろんザビーネ王国は兵を出すつもりだが」


 聖地とリリーシュタットとを切り離して考える国もあるとジオジオーノは示唆しているのだ。最悪聖地さえ守れればそれでいい。そのための援軍は出すが、リリーシュタットの東半分が削られようが、他国にとっては痛痒すら感じない可能性も高い。


「各国の首脳がそれほどの見識しか持っていないとは思えないのですが、陛下はいかがお考えですか?」


 大臣のひとりが口を開くとジオジオーノは眉間に皺を寄せる。


「見識か。リリーシュタットの次は自分たちだと分からない国もあるだろうというのが私の見識だよ。今まで東の盾となってくれた友邦を文字通り使い捨てにしようとしている」


 盾がなくなれば生身になるのだという自覚があれば援軍はやってくるだろう。ザビーネ王国はリリーシュタットと国境を接していない。それでもジオジオーノは援軍を出す。それは彼の立場からしても当然ではあるのだが、ザビーネにとっても国難につながるという危惧があるからだ。

 ジオジオーノは眉間に手を当てながら、会議のメンバーをひとりひとり観察している。二人、ジオジオーノに視線を送り続けている人物に先程から気付いている。何らかの手があるようだが、ここでは話しづらいのだろう。


「オルトラントには援軍を送る。早々に落ちはしないだろう。その数は三万とする」


 これはリリーシュタットが現有する兵力の三割にあたる。だたし、あちこちからかき集めての数だ。精鋭とは言い難いが頭数にはなるだろう。こちらが動いているというその情報をあえて流す必要もあるのだ。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews

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