第82話 戦慄
ランサが青白い玉を見つめる瞳に力が込められる。凄まじいばかりの威力を感じる。大気が振動する。
「五重の結界を張りました。どんな衝撃にも耐えられます。姫様打ってください。力を確かめたい。ロボは私の後ろへ。吹き飛ばされそうになったら私に構わず逃げるのですよ」
ランサが身構える。ユリシスは自分の力を過信はしていないが、ランサを傷つけはしかないかと不安になる。今までにない高火力のイザロの炎だ。
「ランサ、ダメ。これでは貴方を傷つけてしまうかもしれない。もう少し結界を増やしてもらえるかしら。どうやら今までにない威力のようだわ」
驚きつつもランサはその言葉に従う。確かに桁外れなのは間違いはない。
「承知しました。十重に増やしましょう。これで大丈夫です」
ユリシスはランサにうなづき返す。
「いくわ! しっかり受け止めてね。まずくなったら迷わず逃げるのよ、ランサ」
ユリシスが腕を横に薙ぐ。照準が定まる。青白い玉が高速でランサに向かう。玉は円形から紡錘形へと形を変え、防御結界に当たる。玉は光の強さを増していく。
「まずい、これでは……」
ランサは咄嗟に結界をさらに十枚重ねた。これがランサの持てる最大限の防御結界だ。最悪の場面が頭をよぎる。
着弾と同時に閃光がきらめき、爆音が響く。煙が巻き上がり、地面をえぐる。訓練所の壁は吹き飛び、ランサを中心に巨大な青白い火柱が上がり王城を照らす。
ランサの防御結界が次々に破られていく。いや、表現としては間違っている。正しいとしすれば食われていく。紡錘形の光に食い破られていく。
時ならぬ爆発に、城内は騒然となる。慌てる兵士たちの様子が目に浮かぶようだ。
急ぎ駆けつけた兵士たちが目にしたのいは、ランサを中心に訓練所がまるごと入るであろう巨大なクレーターだった。ユリシスの術式は王城の一角を丸ごと吹き飛ばしたのだ。
ランサの結界の最後に一枚にヒビが入り、やがて砕ける。
「危なかった、死ぬところだった……。これほどまでとは」
ユリシスの絶大な力をその身に受けて、ランサは戦慄する。身をかわして逃げようとも思ったが、その一瞬の判断すら出来ないほどの衝撃だった。
ランサの頭をよぎるユリシスの特性。ユリシスに力の自覚があまりなく、しかも攻守のバランスが悪い。ユリシスの体躯もそれほど強くはない。それは大きな問題なのではないかとランサは即断する。かといって解決の方法は今のところない。
片膝を付くランサにユリシスが駆け寄ってくる。
「ランサ、大丈夫?」
この爆発にはユリシス自身も驚いている。あれ程の力が出るとは思ってもいなかったようだ。
「はい大丈夫です。ですが、凄まじい威力でした。咄嗟に結界を倍に増やして正解でした。でなければ私も後ろにいるロボも消し炭になっていたと思います。ですが、姫様の術式を受けてよかったように思えます。いろいろと分かりましたから」
ランサは自分の腕を押さえる。震えが止まらない。一瞬だけではあったが、どうやら恐怖していたようだ。
集まってきた兵士たちの呆然とした姿を見て、ユリシスもようやく理解できた。どうやら自分の持つ力を自覚する必要があるようだ。地が大きく抉られ、城壁が激しく損傷している。訓練所は跡形もない。ユリシスは自らの力の一端をようやく垣間見た。自分の力をランサやアリトリオは良く理解していたと言えるだろう。
「私の聖霊術はランサに遥かに劣るけれども、なんとかやっていけそうな目処がたった。いや最初から立っていたけど気が付いていなかった。これからは……」
ハッシキの言った通り、どうやって自分の身を守っていけばいいのか、それを考える必要がありそうだ。聖霊力は充溢しているし、攻撃力も自覚できた。しかし身体は貧弱なまま、防御結界もそれほど強くはない。
しかし、今からどう防御していくのか、体力を付けていくのか考えたところでたかが知れている。今ある手持ちの力をフルに駆使していく、それが賢明だ。
「ランサとロボの影に隠れているのが正解みたい。しばらくはそうさせてもらおうかしら。それにしてもこれは謝らないといけないかもしれないわね」
訓練所は原型を留めず、クレーターの周囲は瓦礫に埋まっている。ここでの訓練はできそうにない。
「聖女様こちらでしたか。実は至急、陛下の執務室に起こしいただきたい。非常事態です」
早速にお叱りの使者かとユリシスもランサも思ったがどうやら違っているようだ。兵士の顔はかなり緊張している。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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