第48話 対話
どれほどの時間が過ぎただろうか? 一日、一年、いや十年以上か?
「また雑念にとらわれているな」
背中ごしに声が掛かる。誰であるかは振り向かなくてもロボには分かる。長老のロンド、最初の聖女守護聖獣だ。
「お主は充分に強い。でも足りないと言う。何が必要なのだ?」
ロンドにはおおよその察しがついているが、ロボの口から聞いておかなければならない。
「眷属召喚と擬態、この二つだ。習得できるか?」
予想通りの答えにロンドは簡潔に応える。
「是だ」
そのためにロンドはロボにこうやって全属性の精霊との対話をさせているのだから。対話してどうするのか、ロボは聞いてはこない。それが必要だからそうしている。それはロンドへの敬愛でもある。
「それでどれぐらい時間が過ぎた。俺には時間がない」
ロボは焦っている。自分の失敗を取り戻したいのだ、それもできる限り早く。このままではユリシスどころかランサにも見限られてしまう。いかに長寿を誇る聖獣だとはいえ、いや長寿であるがこそ、捨てられた虚しさに浸って生きていたくはない。
「そう焦っても仕方ない。まだ一ヶ月と言ったところかな。それで、対話はできたのか? そもそも呼び出せたのか?」
聞かずもがなな質問をロンドはする。分かっている。あと一体呼び出せればすべての精霊が揃う。もちろん揃えばいいという話しではない。対話し、契約を白紙に戻した上で再度契約を交わす。
ただ守りたいから、では理由として薄弱だ。もっと強くなるための信念が必要になってくる。
しかし、そこはロンドはそう心配はしていない。ロボは二度失敗したからだ。
本人にとっては不本意極まりないが、順調であれば再契約の必要などないのだ。失敗を繰り返しているからこそ、新たな力が必要だという訴えは充分に説得力がある。
もちろん、ロンドはロボが欠陥品などと思っていない。
「聖女様には強い宿命を持っておられる。それに追いついて行けないのが問題なのだよ」
波立つ気持ちを抑えるようにロボは静かに話しを聞いている。
「お前は自分の強さを過信していない。繰り返すが客観的に見てもお前は強い。だが聖女様はもっと強い。肩を並べて走るには、足らないのだ、ロボ」
力は充分なのだ。だが、聖女に仕えるには別の物差しで計れる何かが必要なのはロボが良く分かっている。
「そのためにお主が欲している二つの技は理にかなっていると思う。習得も可能だろう。だが困難でもあるだろう」
説得のその先には別の修練が待っている、とロンドは言っている。
「お主に出来るかな?」
出来る出来ないではなく、やるのだ。ロボは未来を選ぶと決めている。ロボはあと一体の精霊を呼び出す傍ら、すでに呼び出した精霊との対話も進めている。再契約に元々持っている力を差し出す必要はない。足らないからがための再契約だ。
浴室は小さすぎた、であるならばランサに頼んでおく手だってあったのに、ロボはそうしなかった。暗殺者は手段を選ばない。分かっていたのだ。ユリシスの歩く道はおそらく平坦ではない。それは戴冠式の日に直感していたのではなかったか?
二つの力が身につけば、ユリシスを守れると確信している。そうでなければ二人に懇願して帰国などしなくても良いのだ。護衛が聞いて呆れる。飾りものとして横に立っているのであれば、ずっとここで暮らした方がましだ、どんなに惨めであってもだ。
「説得には立ち会う。口添えもしよう。我々は八百年、聖女様をお守りしてきたのだ。あの世に行った時に、テトラ様にお叱りを受けたくもないしな」
ここでロボを成長させなければきっと叱られるだろう。テトラはただ単純に愛と祝福を与えるだけの聖女ではなかった。
「お主の歩む道もまた平坦ではないだろう。だが、八百年の中にはそのような聖獣がいてもまた構わない。ただ今はその悔しさを忘れるな。だが後悔してはならない。反省するのだ。三度目はない」
ロボの目が開かれた。漆黒のその瞳が焦点を結ぶ。
「来た……」
ロボの小さな囁きがロンドの耳に届いた。最後の精霊だ。対話は心と心の交歓でもある。殻を破るための儀礼でもある。
「卑下しすぎてはならない。驕り高ぶりすぎてもならない。虚心であるのだ。そうすれば願いは聞き届けられる」
その声が届いていないかのように、ロボは虚空を見つめている。精霊たちとの対話が始まったのだ。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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