第47話 伸長
自分の能力が天井を突き破っていく愉悦は快楽と言っていい。率直に言って、ランサは自分の能力の伸長に酔っていた。今までの訓練が何だったのかと思えるほどなのだ。
「私にこれほどの力がるなんて、思いもしなかった」
ランサはここに来るまで多少自惚れていた。飛び抜けた聖霊術の才能に恵まれていたのだ。ランサには両腕の欠損という宿痾があるが、一歳を過ぎる頃にはすでに腕の再構築を身につけていたという。両親がその時の驚きを何度も語ってくれた。ランサに記憶はないが、何度も聞かされて、すでに記憶の一部になっている。
腕を再構築するのに多くの聖霊力は必要なかった。再構築された腕はよほどでない限り形を維持し続けた。
そう、ランサはある種の天才だったのだ。しかも天才にありがちな偏狭さはなく、明朗で快活な少女に育った。
聖女の補佐官への任命も運命的だったと言っていい。有無を言わさず任命されるため辞退は許されないが、ランサは誇りに思った。将来仕えるべき聖女の姿を思い描きながら聖霊術の研鑽に務める日々を送ったものだ。
自分に聖霊術を教えてくれる者がどこにもいない。それを知った時、ランサはかなり落胆したのを良く覚えている。王都に出ようかとも思った。教会に行けばなんとかなるのではと思ったからだ。
訓練を受けながら、ランサは笑っていた。
「確かあの時、先代の聖女様に手紙を送ったんだわ」
我ながら拙く幼い行動だった。
「私はもっと強くなりたい、ならないといけない。だから補佐官様に稽古をつけてもらいたいので王都で暮らします、確かそんな文面だったわね」
教会からの返事は却下するというものだった。今思えば当然だろうが、当時のランサは悔しくて仕方がなかった。次期補佐官が判明してしまうと、次の聖女への憶測が立つ。現補佐官に弟子が付くなどいかにも不自然だ。補佐官は入れ替わりで死にはしないが、聖女の交代は現聖女の死を意味する。それを知らない訳でもなかったランサではある。
ランサは横薙ぎに腕を払う。地面から何本もの氷の柱が突き立つ。研ぎ澄まされた数百本の刃。その氷の柱に向かってさらに腕を払うと、真空の刃が粉々にしていく。
身体の前面には常時、防御結界を張っている。欠片が音を立ててこぼれ落ちる。
聖女様の力になる。その誓いは就任の初日で破られた。贖罪派の襲撃の中、ユリシスを見失ってしまったからだ。
「あの悔しさは一生忘れない。二度と起こさない」
その誓いも破られて今ここに立っている。
「もう失敗は許されないの、私には」
聖女ユリシスはランサを責めはしなかった。責めたところでどうにもならないという諦念からではなく、慈愛からだと分かっている。ランサは人知れず涙を流した。
「ここで吸えるだけ吸い尽くす!」
両手を突き上げると、瞬間で巨大な火球が頭上に出来上がる。湧き上がる聖霊力を火球へと注ぐ。朱からオレンジ、そして白へと色を変えていく。
「姫様を害するものは消し飛ばす」
さらに力を込めると火球は徐々に小さくなって拳大にまでなった。これ一つで街がなくなる。それほどの力がこもっている。ランサは力を抜くと、その火球を握りつぶす。巨大な力はあっさりとランサの手の中に戻っていった。
確かな手応えがある。まだ強くなれる。
最近のユリシスの成長は著しい。あの華奢な身体のどこにそんな力が眠っていたのかと驚かされる。
「私一人でも大丈夫だから」
そう言われるのが一番恐ろしい。
「姫様に勝つ必要はどこにもない。でも隣りに立つには資格がいるんだ」
ランサは一時の酔いから覚めた。ユリシスのために活かしてこその力。自分のために使うのであれば、強くなどならなくてもいい、そう思えるほどにユリシスのための力を渇望している自分に気が付いた。
「たまたま選ばれたから一緒にいてもらえる、それじゃだめなんだ」
聖女補佐官は神託によって任命される。もちろん意味はある。たまたま選ばれたりはしない。ユリシスにとって必要だから、ランサはここにいる。でも、それだけでは理由が足りないような気がしているのもまた確かなのだ。他人の評価などどうでもいい。
「最後まで隣りに立っていたい、ただそれだけよ」
立っていられ続ければ、それはユリシスにとってランサが役に立ったという証明になる。それこそが自分の存在理由になるのだと、ランサは拳を強く握りしめた。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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