第49話 試験
「あれを倒せばロボは強くなれるのね。分かった。行くわよ、ランサ!」
ロンドから告げられたのは昨晩だ。訓練から戻ってくるなり、応接室への呼ばれたのだ。
「いよいよ最終段階です。精霊からの要求がありました。明日、皆さんには修練最後の試験に臨んでいただきます」
ハッシキを含めて四人に緊張が走る。一番こわばっているのはロボだ。
「皆を巻き込んでしまってすまない。命の危険さえあるかもしれない。俺一人で何とか出来れば良かったのだが……」
誰も視線をそむけずじっと前を見ている。ランサが微笑んでいる。
「何を馬鹿な。そのために姫様だってハッシキだって、私だってここに来たのでしょ。今更なにを言っているの」
精霊との対話によって契約は飲まれた。ただし無条件ではない。その仕上げが必要なのだと告げられたのだ。何が待っているかはロンドにすら分からない。
「ロボ、私は逃げないわ。決めてるの。逃げるためなら最初からここにはいないのよ。何があっても一緒なのよ」
指定された場所は、スズモリに隣接する森林のさらに南の荒野だった。一面が岩に覆われ、生き物の姿はない。灌木が生えている程度だ。何かの気配がする、六つ、いや七つ。ロボが呼び出した精霊に違いない。こちらの様子を窺っているようだ。楽しんでいるようにも揶揄されているようにも思えた。
「始まる!」
どうやらロボには精霊の声が聞こえているようだ。すでにフェンリルの形態へと変化している。ロボの言葉と同時に大地が鳴動する。地が裂ける。巨大な骸骨の手が地割れの縁をつかみ、身体を持ち上げる。頭には二本の角が生え全身の大きさは小山のようだ。手に剣を握っている。
腕を振り上げ、剣を振り下ろす。大地が割れる。一撃もらえばそれでお終いだが、動きは緩慢だ。今の皆であればかわすのはそう難しくはない。
ロボがその足に飛びかかり爪を立てる。傷口から瘴気が吹き出す。
「浄化します。レンシン・ア・ヴィフト!」
ランサはさらに瘴気が広まらないように、巨大骸骨全体に防御結界を張る。
「ヴァリゲ・ショール! これで大丈夫です。普通に戦えます」
適切な判断だ。術式も完璧に機能している。
「まずは小手調べといきましょう」
左手の中指に力を込め、空間を引き裂く。
「グラベーリン! ブラン・エクスプロデール・フローマ!」
自然と言葉が紡がれる。扉の中から見つけた印章に刻まれた大切な自分の言葉。グラベーリンは聖刻神器の名前でもあり、術式を展開する際の巻頭詞のようなものだ。あるのとないのとでは術式の力に大きな差が出るのだ。
膨大なエネルギーを持った紡錘状の炎の塊が骸骨を襲う。胸を穿った炎が爆ぜる。その威力で骸骨はゆっくりと後ろへ倒れる。
「やっては、いないようね」
胸は抉られ、骨は砕けたが再生している。そのスピードはかなり早い。
「でも炎は効いているようです。手数で押してみましょう。フロマキューレ!」
ランサが両手を突き上げると、数百もの青白い炎の玉が骸骨へと降り注ぐ。超高温の炎が表面に穴を空けていく。瘴気が吹き出す。
骸骨は座り込んだままの姿勢で剣を薙ぎ払う。ユリシスが自身に張った結界に剣先が触れ、耳をつんざくような金属音が響く。
「チッ!」
ユリシスが似合わない舌打ちをする。避けられると思っていたのだが、思いのほか剣先のスピードは早かったようだ。
ロボが巨大な咆哮を上げる。空気が微細に空気が震え、波となって襲いかかる。普通の人間相手であれば骨すら残らない死の咆哮を受けてなお、骸骨はその形態を保っている。だが表面は削られ、更に勢いよく瘴気を拭き上げる。
「でもこれでは……」
十も数えない間に傷口は塞がり、元の形へと戻っていく。
骸骨がゆっくりと立ち上がる。
「バラバラに砕いたところで元の形にもどってしまうでしょう、姫様。きっと何か手があるはずです」
このままではどの術式もダメージは与えられるものの、致命傷にはいたらない。この骸骨は機能し続ける。ユリシスは高速移動しながら様子を窺う。意外なほど隙きは少ない。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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