第24話 戦士

「火炎聖霊術がくる!」


 謁見の間の扉を開いた瞬間に爆ぜた。ユリシス、ランサそしてロボは吹き飛ばされる。ロボが回り込んで、二人を包む込むようにして身を伏せる。


「防御結界がなければ死んでいた」


 後続の兵士たちは倒れ伏している。身体は原形をとどめていない。扉に仕掛け、ここで間違いはないようだ。煙と臭いが充満する。扉を一歩入る。左右から兵の斬撃。ユリシスは腕で受ける。防御結界との相乗効果で傷一つつかない。


「結界がなくてもボクだけで防げるよ、ユリシス。安心していい。君は戦いが始まる前とはもう違う」


 自らの意志で腕が剣へと形状を変えていく。研ぎ澄まされた灰色の刃、切っ先が床に触れて澄んだ音を立てる。

 自分でもこれほど動けるのかと思うほど身体が軽い。戦いは人を変える。ユリシスは成長している。相手の動きが手に取るように分かる自分がここにはいる。

 頭上からの波状攻撃にユリシスは腕を振って対応する。二人の兵士の真っ二つに切り裂かれる。


「黒の法衣で正解だったかもしれない。返り血が目立たないもの……」


 玉座の前には一人の男が立っていた。他の兵士とは明らかに格が違うとユリシスは感じた。


「手練だ」


 ロボがユリシスに声を掛ける。その言葉にユリシスがうなずく。


「貴方が兵たちのリーダーか? ここは貴方がいていい場所ではない。大勢は決したようです。無慈悲な殺戮は好みません。降伏しなさい。命の保障はするでしょう」


 男は剣を引き抜くと構えをとる。隙きはない。どうやらこれが答えのようだ。


「名前は? せめて名前を伺っておきましょう」


 男は口角を上げる。


「私に名乗る名などありません。しがない上級下士官にしかすぎませんから」


 それでこの威圧感。ナザレットの聖騎士はいったいどれほど精強だというのか。


「どうやら聖地は守りきれなかったようですね。でも、それも作戦通り。なんの問題もありません。おっと話し過ぎたようです。せめて一矢ぐらいは報いましょう」


 獣のように獰猛に男の剣戟がユリシスお襲う。ユリシスは咄嗟に一歩下がる。空を裂く音が耳をつんざく。結界が敗れたのだ。残響が響き空気が震える。それほど男の一撃は重い。

 男は剣を横薙ぎに迫る。避けきれない。ユリシスは腕を立て受ける。微動だにしない。男の目が見開かれ、瞳孔が小さくなる。


「細い身体のどこにそんな力が……」


 これにはユリシス自身も驚いた。自分が非力であるという自覚があるからだ。どうやら腕が力を吸収してくれているようだ。ユリシスの身体に反動はまったくない。

 男が後方へと飛び下がる。手を振っている。どうやら痺れたようだ。


「再び聞こう。降伏しなさい」


 男は剣を再び握る。


「私はここで死ぬように命じられております。降伏はゆるされてはいないのです」


 どうやら逃げる気はもないようだ。


「分かりました。では貴方の死に神のご加護を」


 男はやや右側に身体を反らし、剣先をユリシスの心臓に合わせている。ぶれはない。美しい構えだとユリシスは思った。裂帛の気合で剣を突き出すが、ユリシスの動きの方が一瞬だけ早かった。剣先を受けると、相手の剣が砕け弾け飛ぶ。

 男の身体が後方へと飛ばされる。ユリシスは気合を腕に込める。

 剣が凄まじい速さで伸び、男の厚い胸板を鎧ごと貫いた。


「あ、悪魔か……」


 男は断末魔にそう言ったようにユリシスには聞こえた。男に近づく。その死は明らかだ。


「私は聖女。聖女ユリシス・リリーシュタット……」


 ユリシスは男の両腕を取り胸の上で組み合わせる。潔いおとこであった。


「ロボ! 敵のリーダーは死にました。触れて回るのです。そしてジオジオーノ陛下に報告を。ランサと私なら大丈夫です」


 ユリシスはロボにそう命じると、謁見の間に視線を回した。そこにには幾つかの棺が安置してあった。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews

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