第22話 突撃
「突撃せよ。だが急ぎすぎるな。聖女様を先頭に粛々と進むのだ」
開戦前の最後の打ち合わせでジオジオーノが聞いてきた。
「聖女様には武器は短剣しかないようですが、大丈夫ですか?」
出発の際、ゲルゲオから手渡された、グランジウム王家所蔵の逸品だ。それを腰に下げてはいるが、使い方も知らないし、この短剣ですらユリシスには重く感じられる。
「武器は必要ないよ。ボクがいるからね」
ユリシスに代わって答えてくれたのはハッシキだった。ハッシキには一度助けられている。あの時にどのような力を使ったのか記憶が曖昧で良く覚えていない。だいいち気を失いかけていたユリシスだ。でも何らかの力が発揮されたのだけは分かる。それにユリシスにはロボもいるのだ。
ユリシスが城門を見つめると、静かに内側から開き始めていた。どうやら内密に話しはついていたらしい、それが機能している。
「行くわよ、ランサ、ロボ、ハッシキ」
後ろに続くのはザビーネ王国の精鋭二千。完全武装の彼らのいでたちに比べると、黒い法衣をまとっただけのユリシスとランサはいかにも場違い感がある。
ユリシスに敵の攻撃が集中してくる可能性があるが、ランサは心配ないと胸を張る。
「防御結界ヴァリゲ・ショールを張っています。姫様には毛ほどの傷すらお付け致しません」
城門を潜り、街区へと入っていく。敵兵の姿は見えず、住民たちの歓呼の声が響く。
「どうもあっさりとしすぎているし、敵が静かだ。罠かもしれません。少し様子を見るべきかと」
ジオジオーノの言葉にユリシスは首を振って応える。
「一気に王城を目指しましょう。この通りに罠はありません」
ユリシスには確信があった。何故と問われると答えようがないが、はっきりと分かるのだ。
この通り沿いには教会もあるが、破損が激しく敵兵の警護もないという。王城に籠もる敵兵は約千人、それほど大軍というわけではなさそうだ。王国全体を平定するために兵を割いているという情報があったが、この王都に兵力を戻す時間がなかったと見ていい。そう急いだようには思えなかったが、こちらの行軍はかなり素早かったのだ。兵を率いてグランジウムに来ていたジオジオーノの殊勲と言ってもいいだろう。
王城に近づくと敵の放った弓矢が降ってきた。流石に無抵抗で城を明け渡す気はないようだ。
矢はユリシスの元にも届くが、身体には触れずに、目の前で落ちていく。全員が乗馬しているが、ロボは目立つ。攻撃が集中してくるが、厚い毛皮をまとったロボには全く通用しない。
「ロボ、大丈夫?」
ロボは首をもたげると城全体に響き渡るような咆哮を上げる。それが合図だったわけではないのだろうが、城門を衝車がより激しく攻撃する。風が巻き上がる。門扉が軋み亀裂が入る。
「陛下、裏手の部隊から伝令。内部への侵入に成功したとの報告です」
戦場裡にあっては何が起こるか分からない。いくら綿密に作戦を練ったとしても、ピースが一つ吹き飛べば作戦全体が崩れもする。命令系統は混乱し、個人の武勇が生死を分かつ場合も珍しくない。戦況が有利であっても情報網は機能を低下させ、士気は徐々に落ちていくものだ。
しかし、この戦場ではそれは無用の心配だった。ユリシスの存在が兵士全員を鼓舞している。聖女の力だ。
門に入った亀裂は更に大きくなり、人が通れるところまできた。
ユリシスはロボから降りると、真っ先に城内に駆け込む。その後ろにランサとロボが続く。この行動にジオジオーノは瞠目したといっていい。
深窓の令嬢として育った聖女。世間知らずで非力。性格は引っ込み思案でただ可憐なだけの少女。それが今までの印象だったのだ。それがこの行動力だ。
ユリシスは王城の中央部、王宮謁見の間を目指した。そこが敵の中枢だという目星がある。
敵の一塊がユリシスの前に立ちふさがる。
練習なしのいきなりの実戦だ。足がすくみ、腕が震える。
「ユリシス、ダンスはできるかい?」
緊張感のない声が響く。ハッシキだ。
「舞踏会に出たのは一回だけ、でもステップはちゃんと練習したからダンスぐらいは平気よ」
たった一度だけの舞踏会、しかも心臓の弱かったユリシスが踊ったのはたったの一曲だけ。その一曲のためだけに何ヶ月も練習を重ねたのが昨日のように思い出された。
「それは結構。じゃあダンスの時間だ。残念ながらボクはエスコートできないけどね」
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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