第15話 会議

 会議にはユリシスの予想を超える各国が参集していた。その数は十数か国といったところだろうか。中心となっているのはリリーシュタット家の姻戚にあたる各国だ。長姉ネスターが嫁ぐランド王国からは執政のキッスラット、次姉トリサマサ夫であるゲルゲオ・グランジウム王太子、そして三姉のブレドリアの婚家ザビーネ王国からは夫であり国王でもあるジオジオーノが参加している。

 幸いにもユリシスにも席が与えられた。会議前にはネスターとブレドリアそれぞれから手紙を預かっていると、キッスラットとジオジオーノが挨拶に訪れてくれていた。

 どちらもユリシスの傷心を癒やし、心を温めてくれる文面だった。ユリシスはその手紙をランサに手渡した。


 王族にあっては兄妹仲はそれほど親密ではない。権力に直結するし、取り巻きなどもいる。同じ王宮にいて顔を合わせても言葉を交わす機会すらない。今回の襲撃で殺害されたユリシスの兄二人の関係はそうであったのかもしれないが、四人の姉妹は至って仲がよかった。上の三人は結婚相手が決まっていたし、歳の離れた末妹のユリシスには聖女の種がその身に刻まれていたからだ。互いの部屋を行き来しては他愛のない話しなどをして時間を過ごした。

 心臓も弱く、それほど活動的でもないユリシスの元には、よく姉が訪れてくれていたものだ。

 ユリシスが思い出に浸っていると、会議の開催を告げる声が響いた。主催はこの国の王太子であるゲルゲオだ。


「諸国の代表の方にはお集まりいただいて大変にありがたい。ここは忌憚ない意見を交わしていきたいと思う。時間はこちらにとって有利ではないのだ」


 まずは情報の交換からだ。各国には当然諜報機関がある。それぞれが集めた情報の中から、公開しても構わないと思われる情報が開示されていく。


「良い情報もあれば、悪い兆候もあるがここは出し惜しみせずにお伝えするとしよう」


 そう発言したのはザビーネ国王ジオジオーノだった。歳はまだ二十五歳ほどだが、すでに国王として在位七年ほどになると聞いている。重責を担ってきたその経験もあってか非常に落ち着いて見える。

 ジオジオーノの言葉から今回の襲撃の全容がユリシスには見えてきた。


「襲撃は王宮と教会を針の穴を突くように狙ったもので、大規模転移聖霊術が使われた模様だ。それを考えると大軍が来襲したとは考えにくい。なにせ手間のかかるものだからな」


 事実、王都自体は平静を保っており、王宮と教会には合わせても千人程度の兵士が詰めているだけのようだ。

 痛ましいが王宮にいた王族は根絶やしにされたようだ。直系で未婚なのはここにいるユリシスただ一人である。仮に王家を復興するとなるとどうするのか、それはその時に考える必要があるだろう。


「悪い情報ばかりではない。こちらにとって有利なものもある」


 王都を襲撃した兵は、鎮圧を確認すると、地方の征服へと向かっていったが、陥落した街はいまのところ確認されていないという。王都陥落と王家没落への義憤もあって兵と住民が一体となり頑強に抵抗しているという。


「それはこちらでも把握している」


 発言したのはランド王国執政のキッスラットだ。やや小太りで韜晦したような印象のつかみどころのない人物だ。


「そもそも派遣されている兵の数もそれほど多くはないようだ。いずれ狙いを絞って来る、いや、実のところ狙いはすでに決まっていて、全てが陽動という可能性すらある」


 教会はかなり損壊が激しい様子だった。とすれば王宮の占拠さえ解ければ王都は解放される。ユリシスは小さな手を膝の上で握りしめる。


「他の街が持ちこたえている今こそ好機なのではないかな? 王都、いや聖地さえ取り戻せれば、状況はかなり好転する」


 腕を組みながらそれぞれの発言を聞いていたゲオルグが声を発する。


「それならば先陣は我が国に任せてもらいたい」


 そう言って立ち上がったのはジオジオーノ・ザビーネ国王だ。


「すでに兵は率いてきている」


 その言葉に会議は騒めき立った。

 ザビーネ王国の兵は精強を持って知られているが国力自体はそれほど大きくはない。二等国と蔑まれるほどではないが、一等国として発言力がある訳ではない。

 ジオジオーノは野心家ではないが、国を担う国王というものは多かれ少ななかれ策謀家の一面を持っている。理想だけで国を保てるはずなどないからだ。

 ザビーネ王国とリリーシュタット王国は国境を接してはいない。領土を割譲されたからといって政治的にさしたる益にはならない。

 聖地奪還の尖兵として兵を真っ先に挙げ、リリーシュタット王国の解放軍となる。これ以上の名誉はないだであろう。もちろん国威の発揚だけでなく、国際的な地位も上がる。場合によっては教会への影響力も持てるかもしれない。これを打算と言ってはならないだろう。即位して七年。ジオジオーノはこのような機会をじっと待っていたのだ。

 彼の発言で会議場は静まり返った。それも当然である。展開次第によっては、善後策を話し合うための会議が軍議へと変わってしまうのだから。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

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