第7話 宿痾
宿痾、そうそれは人類が背負った原罪に起因する。
「人類の最初の男女は楽園で平和に暮らしていた。ずっと永遠にその幸せが続くと二人は思っていた」
ユリシスは手を広げる。
しかし、人類は罪を犯した。悪魔にそそのかされて、食べてはならないと言われている木の実を食べてしまったのだ。
「それはリンゴだともザクロだとも言われていますね。季節になれば簡単に手に入る木の実でみんな大好きですよ。なんだか不思議ですね。あら、失礼しました。話しの途中でしたね」
ランサが両手で口をふさぐ。
「それが人類が犯した最初の罪である原罪。当然報いは受けなければならない。それが宿痾」
以来、人類は身体に不自由や不都合を抱えて生まれてくるようになった。代償はあった。神から与えられた聖なる力である聖霊力だ。
「身体に障害を持って生まれてくる子供は九割五分以上。乳幼児の死亡率もかなり高い。いくら祈っても神はお許しにはならないの」
ユリスはランサを見つめる。ランサは頷くと立ち上がって瞳を閉じる。すると、ランサの両腕の肩から先が消えてなくなった。
「私は両腕を胎内に置き忘れて生まれてきました。その代わりに高い聖霊力を得たのです」
ランサの上着の袖が膨らみ始める。両腕を再生しているのだ。
「正確には再生ではなく構築です。エーテル体を結晶化させて腕を作っているのです。不自由がないといえば嘘になるのでしょうが。まあ、なんとかやっていけています」
使う聖霊力はごくわずか。大規模結界を張ったところで腕は消えないとランサは言う。
「人類が文明に目覚めた時にはすでに高い完成度を持った宗教が生まれていた。それが聖ユイエスト教なの」
政治、宗教、文化、風俗、様々なものが絡み合い、紆余曲折を経ながらユイエスト教は大きく二つに分かれた。
「それが救済派と贖罪派なのよ」
この二派は原罪に対する解釈に大きな違いがある。
犯した罪を許されれば、人類は宿痾から解放される、そのために信仰を深めていくべいであるという教義を持つのが救済派。ユリスはその救済派の聖女だ。
そしてもう一つが贖罪派。原罪は許されない大罪。その罪を受け入れ、罰として宿痾を受け入れて生きていく、そのための支えとなるのが神へ祈りだというのが教義の中心になっている。
「もちろん最初はひとつだった」
教義が成立して約千五百年、その当初から原罪への考え方の違いはあったが、それが鮮明になったのはやはり人類の国家意識の芽生えがかなり影響している。国家には必ず祭祀が必要だと考えられている。それは国という概念が生まれたときからだ。辺境では、ごくごく素朴な自然崇拝を祭祀としている国もあるし、先祖を崇拝の対象としている部族も多い。その中で最大の信仰者をもつのが聖ユイエスト教だ。
「教義の根本原理は慈悲と博愛。それが今では二つの派に分かれて殺し合っている。それが今の世界の情勢なのよ」
大陸の西側には救済派を国教としている国が多く、東側には贖罪派が多い。今回襲撃を掛けてきたのは贖罪派でも最大の勢力を誇るナザレット教皇国だ。
「宗教と政治を切り離している国がほとんどだけれども、ナザレットは違う。最も古くから国家として成立したのがナザレット教皇国。祭政一致で教皇が国を取りまとめているの」
ここまで話しを進めてユリシスは一息入れる。
「一つ教えて欲しいと言うか、分からないんだけれども。救済派の人々にとって、原罪はどうやれば償えると思っているんだろう? そもそも原罪はどこにあるの?」
ハッシキの言葉は、もっとも初歩的な質問だ。
「それは最初の楽園に秘密があると言われているわ」
人類は平和に暮らしていた楽園で罪を犯した悪魔にそそのかされて。そこにたどり着ければ原罪が晴れる手立てがあるのではないかと言われ続けているのだ。
「で、その楽園はどこにある」
答えは分からない、が正解だ。教義が生まれてから今まで、幾多の冒険者や宗教家たちが楽園を探し求めてきた。もちろん一番熱心だったのは救済派で、それは今でも変わりがない。
しかし、最初の楽園を見つけた者はいない。
「教典には罪を犯した、とだけ書かれていて、楽園の場所までは特定できていないのよ。もちろん聖地と呼ばれている場所はいくつかあるの」
それがユリスの生まれたリリーシュタット王国の王都ベニスラだ。教会があるいや、正確にはあった場所が教義が聖地の一つになっているのだ。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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