第17話 告白
昨日のイケメン暴行事件の後、俺はSNSで針生と連絡を取り合い、他に何か迷惑を受けたり、困っている事は無いのか聞いたりした。
針生曰く、あのイケメン以外に困っている事は特に無いそうだ、時々告白はされるそうだが。
繰り返す、時々告白はされるそうだが。
くそう、彼女と学校が違うから、どの様な学校生活を送っているのか余計に気になって仕方がない。
…イヤ、もう俺も当たって砕けるしかないだろうよ、コレ。
俺は今日、針生に告白する事を決めた、善は急げだ。
俺の学校の近くに大きい公園があり、その公園の中に夕陽や夜景が綺麗に見える、ゆうひの丘という場所がある。
そこに今日の放課後、彼女を連れて行って告白する予定である。
既にSNSで、来てくれるという約束を針生には取り付けてあるが、帰りが遅くなる分、家まで送るとも約束しているので、フラレたら気まずいの一言に尽きる。
でも、告白しない事には何も始まらない。
片倉楓、覚悟を決めろ!
放課後、俺の学校の最寄り駅に針生を迎えに行く。
駅の改札で暫く待っていると、彼女は現れた。
「片倉君、今日はどうしたの?
何か相談事?」
「あぁ、ちょっと聞いて欲しい事があってさ…。
後、夕陽が綺麗に見える丘があるんだ、針生にも見せたくて。
ちょっと歩くんだけど、いいかな。」
「うん、じゃあ行こう。
この駅周辺に買い物で来た事はあるんだけど、普段行かない街中を歩くのって何だかワクワクするよね。」
「
確か家のご飯作らないといけないんだっけ、出来るだけ早めに済ますから。」
「あー、今日はお母さん仕事で遅いみたいだから、急がなくても大丈夫だよ。
帰り送ってくれる時にスーパーで買い物したいんだけど、いいかな?」
「勿論、荷物持ちさせてもらうよ。」
「えーっ、大丈夫だよ、そんな事しなくても。」
「女の子が目の前で重たい物を持ってるのに何もしないなんて、俺が気分悪いよ。
そのくらいさせてくれ。」
「じゃあ、後でお願いしようかな。」
…この後の告白の返事次第じゃ、家に送るのも断られるかもしれないけどな…。
2人して他愛の無い話をしながら坂道や階段を登り、丘の上まで歩いた。
駅から結構歩く為、丘の上に着く頃には丁度夕陽が綺麗に見える時間帯になっていた。
学生鞄は重いので、近くのベンチに2人して置いてある。
「ここまで来るのに疲れたけど、本当にいい眺めだねー、連れて来てもらって良かったかも。」
「………。」
俺は初めての告白に緊張して黙り込んでしまった。
針生も俺が硬直しているのを見て、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「…片倉君、どうしたの?
大丈夫?」
「…っ、
俺は遅刻して、いつも乗る時間帯より遅い電車に乗っていた。
そして俺は君に出逢った瞬間、君に見惚れてしまったんだ…。」
針生は俺がこれから言う事を察したのか、ソワソワしながらも俺にしっかり向き直り、俺の目を見て黙って次に言う言葉を待ってくれている。
「でも次の日も同じ時間帯の電車に乗って、君に下心があって近付いたと思われたくは無かった。
だから、もし今後君に逢う事が無ければそれまでの事だと思っていつも通り早い時間に目覚し時計をセットしたのに、次の日の朝は目覚し時計が電池切れで、結局はまた君と同じ電車に乗る事になった。
なので俺は勝手だけど、この出逢いは偶然では無く、必然だと思う事にした。
俺はそれから君の事を知る度に、好きになっていった。
おっとりと天然なところ、字が綺麗なところ、明るいところ、人と距離を詰めるのが上手いところ、照れて笑うと可愛いところ、思いやりのあるところ、料理上手なところ、人の為に怒る事が出来るところ、嫌なものはハッキリと嫌だと言えるところ。
これからも一緒にいれば、好きなところはもっと増えて行くだろう。
でも、俺が君の事を好きでいられるのは、君に彼氏が出来るまでだ。
昨日君が電車の中で絡まれていた理由を知った時、そして君がよく告白されると知った時、俺は焦った。
君に彼氏が出来たら、もう一緒には居られない。
だから、俺は今日、君に告白する。
俺は針生が好きだ。
君の側から離れたくない。
これからは君の彼氏として、側に居させてもらえないだろうか。」
俺は心臓をバクバクとさせながら、返事が返って来るのを随分と待った気がした。
針生は両手を後ろ手に組んでニコニコと笑っていたが、一瞬唇を
彼女は背中越しに涙を拭う仕草をした様に思えたが、またこちらに振り返った時には笑顔だった。
「
「……えっ?」
「私の名前は咲良だよ。
今から私の事は、咲良って呼んで欲しいな。
それから片倉君の事は、楓君って呼ばせてもらうね。
ずっと楓君の事、名前で呼びたかったんだ。
良かったぁ、漸くここまで来れて…
私も楓君の事、大好きだよ。
これからもよろしくね。」
「あっ…そう…なんだ…
あー、良かった…
俺もうこの後フラレて、針生と一緒に帰れないかと思ってた…。」
「咲良!咲良だよ、咲良。」
「あっ、うん…咲良…。
あの、咲良はいつから俺の事を…?」
「えーっ?…ナイショw」
「えーっ、俺一生懸命言ったのに…。」
「うん、嬉しかったよ、楓君の気持ちは凄く伝わった。
でも私は恥ずかしいから、まだ言えないかな。
…いつかちゃんと話すね。」
咲良は嬉しそうに俺の左手に自分の右手を繋ぎながら、
「綺麗な夕陽だけど、日が落ちるまで見てると遅くなるから帰ろうか。
ここは夜景も綺麗に見えそうだね。
いつかまた夜景も見に来ようよ、2人で。」
と俺の手を引っ張った。
「あぁ、約束だ。」
俺達は鞄を回収して、ゆっくりと丘を下っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます