第15話 彼女の手料理④

「やっぱり美味い!本当に料理作るの上手なんだね。

 凄いよ、簡単だし。

 もっと教えて欲しい。」


 俺達は漸く状態異常から復活し、普通に喋れる様になっていた。

 

「そうだね、じゃあ時々2人で料理教室を開きますか。」


「本当?助かる!ありがとう。

 俺、これから針生に教わった料理は毎回メモして取っておくよ。」


「そうだね、作らないと忘れちゃうだろうし。

 私この後カレーを作るけど、カレーは教えなくて大丈夫だよね?」


「大丈夫だけど、手伝わせてくれ。

 俺も手慣れている訳じゃないし、カレーって家庭によって作り方が違うって聞いた事があるから。」


「そう、じゃ食べ終わったら一緒に作ろ。」


 俺達は食べ終わると食器等の洗い物を終わらせ一息ついた後で、カレーを作った。

 針生家のカレーは市販のカレールーを2種類混ぜ合わせて作るという以外は特に変わったところは無かったが、2人で楽しく作る事が出来た。

 でも、独りで食べる分には多過ぎる…と考えていたら、針生が


「片倉君、1人で食べ切れないよね?

 そしたらタッパーとかで冷凍しておけばいいよ。

 それで食べたい時にまた温めて食べれるから。」


と提案して来たので、2人してキッチンにあると思われるタッパーを探した。

 俺が上段の開き戸を開けて見えない部分をまさぐっていたところ、箱等が雪崩落ちて来たので、咄嗟に横に居た針生の頭を俺の胸に抱えて守った。


 ドサドサと幾つもの箱が落ちて来て床に散乱したが、刃物や重い物は無かった様だ。


 良かった…そう思った瞬間、コレ…ヤベー奴じゃん…どうするよ、俺…とも思った。

 取り敢えず慌てて針生を離す。


「ごっ、ゴメン、ワザとじゃ無いんだ…イヤ、ワザとなんだけど、咄嗟に針生を守ろうと思って…刃物とか鍋とかだったら危ないと思ったんだ…。」


 針生は顔を紅色に染めながら、両手で口元を隠してソワソワとしていた。


「うっ、うん、解ってる、一緒に落ちて来るの見てたから…。

 あっ、ありがとう、守ってくれて…。」


「イヤ、本当に済まない。

 この間の痴漢のせいで男が苦手になってしまったのに、俺がこれじゃ…。」


 俺が落ち込んでいると、針生は俺の右手を両手で握って俺を見つめる。


「片倉君…本当に大丈夫だから。

 前にも言ったけど、片倉君は大丈夫だから…。

 ねっ?

 気を取り直して、タッパー探そ?」


「…そうだな、タッパーを探してたんだっけ、忘れてたよ。」


「もう、イヤだなぁー片倉君は。

 ボケるのにはまだ早過ぎるよ。」


 そして2人は笑いながらタッパーを探し、無事に見付ける事が出来た。


 その後、針生を家まで送る事になったので、バイト先が針生の家の方角にある事から、バイト先の場所を案内したりしながら針生の後を自転車で付いて行った。



 針生の家は、俺の家から自転車で20分くらいの位置にあるアパートだった。

 

「じゃ、また月曜日ね。」


と針生が手を振りながらアパートに入って行ったのを、手を振り返しながら見届けると、俺はウキウキしながら真っ直ぐ自宅に帰った。

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