第11話 アルバイト

 俺は学校からの帰り道、府中駅から家へは戻らず違う道を歩いて、とある場所に向かっていた。



 家、もしくは府中駅から歩いて10分くらいの所に大きな寺があり、その敷地内には60平方メートル程の美しい竹林がある。

 その竹林の横には、歩いていたらいつの間にか不思議な世界に迷い込んでしまったという様な雰囲気のある、ひっそりとした佇まいの喫茶店がある。


 カランカラン、とドアの上部に付いたベルを鳴らしながら喫茶店『ニルヴァーナ』の中に入る。

 室内にはカウンターとテーブル席がいくつかあり、壁面は白を基調としているが、とある1面は総ガラス張りとなっており隣の寺の竹林を借景としていて、そこだけ静謐な時間が流れているかの様な雰囲気や景色は見事であるとしか言いようが無い。

 俺はこの店の中から見える竹林が大好きで、小さい頃父親にこの店に連れて来られて以来、親が用事で出掛けてしまう等食べるのに困った時には、独りでこの店によく訪れていた。

 ちなみに、この店のミートソースやナポリタンは絶品だ。


「楓君、いらっしゃい。」


 カウンターから、60代くらいの中肉中背で白髪オールバックにメガネを掛けた、白色カッターシャツ、黒色ベスト、黒色ミドルエプロン、黒色ズボンのユニフォームを着た男性がこちらに歩いて来た。


 この人はマスターの銀二さん、いつも独りで店の切り盛りをしている。

 本業は何をしているか知らないが、道楽で喫茶店をやっているらしいので、店は昼から夕方までしか開いていない。


「銀二さん、今日はお願いがあって来ました。」


「どうしたの、改まって。」


「実はアルバイト先を探してまして…

 俺をこちらのお店で雇ってもらえませんか?」


「うーん……そうだなぁ…

 私はコーヒーが好きでねぇ… 

 喫茶店を道楽でずっと独りでやって来たんだけど、最近は土日のお客さんが多くて疲れちゃってねぇ…

 それもいいかもねぇ…。」


「本当ですか?」


「楓君の事は小さい頃から知っているしねぇ、私もお金に困っている訳でも無いし…

 うん、土日だけならいいよ。」


「やった、ありがとうございます!」


「あー、制服とか買って来ないと無いから、直ぐには無理だよ、服のサイズを教えてくれるかな。」 


 こうして俺は特に職種に悩む事無く、好きな店でアルバイトが出来る様になった。






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 この作品を読んでいただいている皆様、いつもありがとうございます。

 作者は転勤や体調不良のため手術をあと2回しなければならず、思う様に作品が書けません。

 本当にすみませんが、気長にお待ちいただけると幸いです。

 今後もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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