第10話 ショッピングモールにて③

 俺達が雑貨屋に入った時に、まだ時期は早いと思うが扇子が置かれていた。

 俺はこういう昔ながらの小物は好きだ。

 紙製ではなく布製で、紙の様に破けたり剥がれたりしないから長持ちすると店員さんから聞き、扇子を入れる布袋も付いていて値段も安いので買いたい衝動に駆られた。

 すると針生が、


「これ、同じ柄で紺色と赤色の2種類あるね。

 お揃いで買う?」


と言い出した。


「えっ、針生はこういうのに興味あるの?

 何か女子って、電動の携帯扇風機とか好きそうなイメージがある。」


「私、あれは見た目的に好きじゃ無いかな。

 私はこの扇子、好きだよ。」


「うん、俺も買いたいと思ってたところ。

 じゃあ、これは俺が買うよ。」


 俺が紺と赤の2本を持つと、針生が慌てた。


「そんな、今日誘ったのは私だし、いいよ、自分で買うから。」


「こんな事言うと引かれるかもしれないけど…

 俺、女の子と初デートだったんだ。

 だから、記念に貰ってくれないか?」


「わ、私も男の子を誘ってお出掛けしたのなんて、初めてだからっ…。

 じゃあ、うん。」


 2人して顔を赤くしながらも、俺は扇子を2本持って会計を済ませ、1本を針生に渡した。


「ありがとう。大切に使わせてもらうね。」 


 針生がニコッと笑った。

 とても素敵な笑顔だった。

 多分、俺の中で一生記憶に残るだろう。


 その後、駅前の高校生の懐に優しいイタリアンレストランにて2人で遅い昼食を済ませ、帰りは一緒に電車に乗る。

 だって自宅からの最寄り駅は隣同士だしね。

 帰りの電車内で、左隣に座っていた針生は


「…片倉君、学校ではコンタクトにしない方がいいよ。」


と俺を見上げながら言って来た。


「えっ…?まぁもう部活やってないし、体育程度でいちいちコンタクトにするの面倒くさいからしないケド…何で?」

 

「何でも!…でも学校以外で私と会う時はコンタクトにしてね。」


「えーっ?何で?」


「何でも!」


 針生はそう言って、ふにゃっとした笑顔を見せた。可愛い。


 針生が電車から降りる際、俺は男嫌いになってしまった針生を家まで送ると言ったんだが、針生は大丈夫だと言うので電車内で別れた。



 帰り道で、俺は土日にアルバイトをする事に決めた。

 もし万が一、また針生とデートする事になれば金が必要になるからだ。

 針生が母子家庭なら、金銭的にも俺がデート代を出した方が助かるだろう。

 気が早いかもしれないが、使いたい時に金が手元に無いと困るのだ。

 問題は何のバイトをするかだが、何がいいのかなぁ…。



 

 次の月曜日、俺は針生と2人で決めた時刻の電車に乗ると、車内で針生が手を振って迎えてくれた。


「片倉君、おはよう。

 一昨日は扇子、ありがとう。

 これからはいつも持ち歩く事にしたから。」


と俺に向かって学生鞄を軽く叩いて見せた。

 

「まだ使う時期では無いけど、そのうち使ってくれると嬉しい。

 …むっ…ちょっと待て…。」


 俺は視線を感じて付近を見回すと…同じ車両内にストーカー共が居た!

 目が合うと同時に逸らされる。


「クッ…針生、例のストーカー共に囲まれている…。」


「えっ、見付かるの早かったね。

 どうして私達のいる車両が判ったんだろう…。」


「…きっと人海戦術じゃないだろうか…

 …まさかコイツ等通信手段があるのか…?」


「じゃ、片倉君、またね。」


「あぁ、また連絡する。」


 針生が電車を降りてドアが閉まるとビニオが寄って来た。


「あぁそうだ、我々を甘く見るなよ。

 我々はな、SNSのグループトークで繋がっているのだ。

 君達が車両を移動しても、時間帯をズラそうとも、我々は君達を必ず見付けてみせる。」


「…まさか全員知り合いなワケ無いよな?

 何時連絡先の交換をした?」


「君達が我々の前から姿を消した日にグループトークを作って人海戦術により時間と場所を特定した。」


「…グループトークの名前は?」


「片倉君を生温かく見守る会。」


「…お巡りさーん、ココにガチなストーカー共が居まーす!!」


 俺は本気で叫びながら車両内を走って逃げた。


 針生と連絡を取り合って、明日からは毎日場所を移動しよう。

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