第8話 ショッピングモールにて①

 次の日の通学電車は針生と申し合わせをして、いつもより2車両程移動して乗ったので、どうやらストーカー共をく事が出来た様だ。

 針生とは一駅しか一緒には乗れないが、顔を合わせて一言二言話すだけでも楽しい。

 今日も頭をワシャワシャされた。

 針生に頭を撫でられるのはイヤでは無いが、撫でられた後のクチャクチャした感触は好きでは無い。   

 それに俺の頭はデートするのには余りにもみっともないと自分でも思う…。

 今日バッサリ髪の毛切ってみようかな…。




 そして土曜日を迎えた。

 待ち合わせ場所であるショッピングモールと駅の間に架かる橋の上に着いたのだが、男が怖いって、今更だけどここまでの移動は大丈夫なのだろうか?

 でも四六時中一緒に居てあげられるワケでも無いし… 

 等と考えていたら、針生が現れた。


 黒のベレー帽、白のレーストップスに、トレンチ風のベージュのハイウエストスカート、黒のウイングチップシューズを履き、黒のショルダーバッグを肩に掛けている。

 シックな統一感のあるコーデで、何処のモデルさん?という感じだ…可愛い…。

 

 俺は針生を直ぐに見付ける事が出来たが、向こうは俺をキョロキョロと探している様だ。


 多分そんな事じゃないかと思った。

 俺は今日はメガネでは無く、コンタクトをしている。

 そして俺の頭は、昨日の放課後に近所の美容室に飛び込んでオススメを頼んだところ、ナチュラルショートマッシュとやらにされていた。

 服は適当に家にある物で、水色のオックスフォードシャツにジーンズ、スニーカーだ。


 漸くコチラを見付ける事が出来たのか、針生はゆっくりと様子を伺う様に近付いて来る。


「あのーっ…片倉君でしょうか?」 


「あぁ、俺だよ。

 ボサボサ頭を変えてみたんだけど、どうかな?」


「カッコいいです…

 でも気軽に頭をワシャワシャ出来なくなってしまいました…。

 それに、どうかな?って聞くのは普通女の子の方ではないかと…。」


「針生はスゴく可愛いよ、何処のモデルさんかと思った…。」


 針生は顔を赤くしながらモジモジしていた。

 多分俺も顔は赤くなっていると思う。


「かっ、片倉君は、そういう事サラッと言えちゃう人なんですね…。」


「あっ…そんな、サラッと言ったつもりは無いけど…

 俺は根が正直だから、結構思った事を言っちゃうかも…。」


「しょっ、正直…。

 あの、今日はメガネは?」


「あぁ、髪型を変えてみたから、針生をビックリさせようと思ってコンタクトにして来た。」


「…うん、ビックリしました。

 私も何処のモデルさんかと思って、なかなか近付けませんでした…。」

 

「またまたぁ、お世辞でも嬉しいよ、ありがとう。」


「…片倉君は学校ではモテるんでしょう?」


「俺?俺は全くだよ、よくボサボサメガネとか鳥の巣頭とかメガネとか、バカにされる事はあっても、モテた事は一度も無いな。

 それより、針生の方が美人さんなんだからモテるだろうよ。

 俺にボディーガード頼むより、本当は他に頼れる男が居るんじゃないのか?」


「びっ、美人さん…。

 いえいえ、本当に。片倉君以外に頼れる人は居ません。

 …だから、これからも時々お願いしてもいいですか…?」


 針生が上目遣いで俺をジッと見ている。


「あっ、あぁ、俺でいいならモチロンいいよ。

 さっき思ったんだけど、ココに来るまでは大丈夫だったの?

 電車内とか。」


「ふえっ!?…えぇ、大丈夫でした、はい。」


「…イヤじゃ無ければ、帰りは家まで送ろうか?」


「あっ、そうですね、本当に駄目だと思ったらまたお願いするかもです。」


 そして俺達は会話をしながらショッピングモールへと向かっていたのだが、針生が途中で俺の後ろを歩き始めたのでチラ見すると、ソーッと俺の頭に手が伸びていた。


「…そんなにワシャワシャしたいなら、セットして無いから別に構わないよ…どうぞ。」


 実は美容室に、面倒くさいのでセットしなくてもいい髪型でお願いします、と頼んであったのだ。

 俺は立ち止まって頭を低くする。


「えっ?…じゃあ、お言葉に甘えて…。」


 針生はいつもならワシャワシャと勢い良く撫でるのだが、今日は普通にナデナデしていた。


「俺の頭がそんなに気に入ったのなら、今度からいつでも好きな時に撫でていいよ。

 その代わり、針生が撫でた後は俺の頭が見苦しくない様に手直しをしてくれないか?」


「…ふわっ!?…は、はい…。」


 俺が少し屈むと針生は俺の正面に回って、ジッと俺の頭を見ながら両手で髪を整え始める。

 …近い近い、キスをする一歩手前の様な距離感だ…!

 なんか甘い香りがするし…自分で頼んでおいて何だが、コレはヤバい…!

 俺は赤面すると、それに気付いたのか、針生も赤くなってきた。


「…はい、終わりです!」


と言いながら、照れ隠しなのか、針生は俺の胸を手の平で軽くポン、と押して少しだけ距離を取った。


 俺が考え無しに放った一言で、俺の頭は今後撫でられる事は無いかな…と密かに思った。

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