第3話 痴漢…!天然?な女の子

 翌朝、起きた。

 ………アホか、アラームセットすんの忘れてた!

 時間は!?

 多分今から準備しても、昨日と同じくらいの出発時間になりそうだ、急がないと!

 顔を洗って着替えて火の元を確認して戸締まりして早足で府中駅まで向かった。

 


 この時間、通勤通学ラッシュでモチロン混んでいる。

 昨日もスゴかったな…モミクチャにされたもんな、髪型とか。

 誰か知らんけど、頭を狙ってクシャクシャにして来るんだもんな…

 あっ、元々髪はセットとかしないし、どちらにせよボサボサのままで変わり無いか(笑)。

 

 俺は各駅停車の電車に乗る列に並び、ホームに進入して来た電車の中が人でギュウギュウなのを見て尻込みしながらも、停車して扉が開いた車内に突撃した。



 むぅ…やはりギュウギュウだった。

 何とか扉は閉まって発車したが、車内は手が少し動かせる程度で、身体はほぼ動かない。 

 ふと左横を見ると、俺と違う学校のブレザーの制服を着て、俺より頭1つ分背の低い女の子がいつの間にか同じ方向を向いて並んでいた。

 ………ビックリした、暫く魅入ってしまった…。

 セミロングのストレートな黒い髪は艶めき、肌は色白で形のいい細い眉はハの字を描き、潤んだ瞳は睫毛が長くぱっちりニ重ながらも苦痛を感じているのか時々歪んでいる。

 鼻筋はスッと通り両頬を赤く染め、そして少し薄く小さめの形のいい唇の隙間からは、喘ぎ声の様なものが時々聞こえていた。

 メッチャ美人だ!どストライクだ!とか思っていたが、よく考えると表情からして何か様子がおかしい。


「あっ…や、やめ…イヤッ…」


 俺はその声と様子から、急ぎスマホを取り出して警視庁防犯アプリ、デジポリスの機能を使って、


『ちかんされていませんか?』


と書かれた画面を女の子に見せる。

 するとそれを見た女の子は俺の方を向いてビックリしながらも、ウンウンと頷く。

 俺は身体をムリヤリ女の子の方へ捻ってお尻の方をよく見たところ、男の手がモゾモゾと蠢いていたため、勢い良く俺の左手を隙間に突っ込み、犯人の右手首をガッチリと掴んだ。

 犯人は手を引き抜こうと藻掻いたが、俺は絶対に離さず、更に周りに大きな声で、


「痴漢を捕まえました、次の駅で降ります!

 キミも悪いけど協力して。

 こういう奴は捕まえておかないと、また繰り返すから。」

 

 そう申し向けると女の子はまた、ウンウンと頷いてくれた。


 捕まえた20代くらいのサラリーマン風の犯人は、


「オレはやっていない、冤罪だ!」


と言っていたが、俺は続けて


「誰かビニール袋を持ってませんか?

 何でも構いません、持っていたらください!」


と呼び掛けると、近くにいた中年男性が、


「コンビニの袋でもいいか?」


と電車の扉が開いたと同時に手渡してくれたので、お礼を言って一旦ビニール袋を制服のポケットに入れた。



 俺は犯人の右手首を左手で掴んだまま電車からホームに引きずり出したところ、犯人は暴れて左手で殴り掛かって来たので俺はそれを払い退け、右手で犯人の胸倉を掴むとそのまま背負い投げを喰らわしてやった。

 その後ホームの路面にうつ伏せに組み伏せ、右手の関節を極めて手を動かせない様にしてから、ポケットに入れていたビニール袋を取り出して犯人の右手に被せ、袋の取っ手を手首の部分で結ぶ。

 犯人は、


「誤認逮捕だ、これは問題にするぞ!

 解ってるのか、このクソガキがっ!」


のたまっているが、俺は聞く耳を持たない。


「あっ…あの…何でビニール袋を被せるんですか?」


「あぁ、キミのお尻を触った犯人の手にはキミの服の繊維が付いてるんだよ、だから言い逃れの出来ない証拠になるんだ。」


「よくそんな事知ってますね…

 あぁ、質問の前にお礼が先でした。

 助けてくれて、本当にありがとうございました。

 あの…お名前は…?」


「…うん、ゴメンネ、犯人の前で名前を名乗るのは身バレしちゃうからマズいのもあるんだけど、チョットその前に警察呼んでもらってもいい?」


「あっ、そうでした、そうでした。」


と女の子はスマホで110番をし始めていた。

 犯人は俺の話を聞いていたからなのか、それともガッチリと確保されて動かないからなのかは判らないが、諦めた様子で大人しくなった。


 電話をしている女の子を見ながら、やっぱり美人さんだな…と改めて思ったが、この子はチョット天然かも…とも思った。

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