第2話 独り暮らし

 俺は窓側の自席に座ると、前の席に座っているガッシリした短髪の男子が笑いながらコチラを振り向いた。


「おい、あまり陽毬ちゃんイジメんなよ。」


 コイツは石川達也いしかわたつや

 同じ中学から一緒に入試を受けたが、知り合い程度の関係だった。 

 数日前、同じクラスになってから友人となった野球部員だ。


「何言ってるんだよ、俺が陽毬ちゃんにツッコミ入れなきゃ入学して数日しか経ってないのに葉月と2人してイキナリ冤罪で遅刻扱いじゃねーか。」 


「まぁまぁ。陽毬ちゃんは人気があるから、あまり敵を作らない方がいいぞ。

 ところで部活はどうするんだ?

 まだ入って無いみたいだが。」


「イヤ、俺は何処にも入らないよ。」


「何故だ、勿体無い。

 お前は確か、中学の時に全国大会で…」


「ちょっと家庭の事情でな、まぁ気にするな。」


 俺は会話を被せる様にして話を打ち切った。

 実は俺の両親は今年の春から九州にいる。

 単身赴任の決まった父親が家事が全く出来ないため、心配した母親が付いて行ってしまったからだ。

 そのため俺は母親に、独りで生活するには困らない程度に家事を仕込まれた。 

 部活なんぞやってたら、掃除、洗濯、料理も出来なくなって、生きていけなくなる。

 だから俺は今年から家の留守番も兼ねて、帰宅部で独り暮らしだ。

 今日の朝遅刻しそうになったのも、まだ慣れない独り暮らしのせいで、起きてからの時間配分がうまくいかなかったためだ。

 葉月も俺を待ってないで、間に合いそうになければ先に行けばいいのに…

 そんな事を考えていたら1限目の授業が始まった。




 放課後、校舎から校門までの敷地内では部活の勧誘合戦が繰り広げられていたが、俺は完全スルーして帰路につく。

 葉月は中学に引き続き陸上部に入るらしい、うちの陸上部は強豪で、今後は朝練もあるので一緒に登下校は出来ないと言っていた。

 明日からは遅刻しない様に気を付けないとな。



 俺は学校の最寄り駅である聖蹟桜ヶ丘駅から3駅離れた住宅街にある一軒家に住んでいる。

 学校帰りにスーパーで買い物をしていかないと食べる物が無い。

 今日はどうしようかな、洗濯は毎日しないといけないけど、料理はそんなにレパートリー無いし作るの面倒くさいしな…弁当にしちゃおうか…。

 料理はスマホで調べてレシピ通りに作ろうと思えばレパートリーは増やせるのだが、宿題等もあるので今日は弁当を買う事にした。

 


 家に着いて風呂を洗ってお湯をため、廊下やリビングのフローリング等をクイックル○イパーで掃除する。

 風呂に入り、残り湯で洗濯をし、宿題をして弁当を食べ、ベランダで洗濯物を外に干す。

 イヤー、ホント独り暮らしの人は尊敬するよ、これを続けていかなきゃいけないと思うと…。

 バイトはどうしようかな、自分の欲しい物くらい自分で稼いだ方が親孝行にもなるけど、暫く独り暮らしを続けてみて余裕があったらやってみようかな。

 そんな事を考えながらスマホをいじくっていたら寝落ちした。

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