第4話⁂最終話⁂

 




…夜……誰も知らないカレンの、遠征先のホテルのドアをしきりに叩く音が———


”ドンドンドン” ”ドンドンドン”


「カレンお願いだ❕開けてくれ!」

 誰なのだろうか?………オ-ストラリアの選手で金メダリストのジョン?………それとも春馬?


 ジョンとは以前から交流があり、最近急接近中の間柄で今回の遠征試合にも出場予定だ。

 だが、日本語だから………ひょっとして………は る ま?……嗚呼!でもジョンも簡単な日本語なら話せる

 そう思いドアスコ-プ(ドアの穴)から覗いてみた。

 

「嗚呼ジョンだ!」

  "カチャ" "カチャ"


「ジョンどうしたのよ?明日試合だから今日は、駄目ね!」


【スポーツ選手全体に言える事だが、水泳選手の場合も、セックスした次の日はタイムが悪い。だから試合前の1ヶ月、数週間、または数日はセックスはお預けらしい。クロールや平泳ぎを長時間泳ぐ時、持続力も低下する】。


 オリンピック選手村では、欲望を制限させられるので試合が終われば女子選手の部屋の前に、行列ができるらしい。

 また、女子選手もセックスを我慢をして来た男子選手に寛容で、応えてくれるらしい。

 そんな事情からオリンピックでは、凄い数のコンド-ムを配られるらしい。 


 スポーツ選手も色んな我慢を強いられているので、試合が終われば一気に解放され欲望を発散するらしい。

 

 ジョンとカレンの関係は、やがてあちこちで目撃される事となる。

 ◆▽◆


 晴馬はある日ジョンとカレンの仲睦まじい光景を目の当たりにした。

 でも何故ジョンが日本に?


 実は現在カレンは23歳ジョンは33歳で、ジョンは引退してオーストラリアで水泳コ-チとして活躍しているのだが、休暇を利用してカレンに会いに日本に度々訪れていたのだ。

 晴馬は現在25歳で政治家になる足掛かりとして三旗商事に勤務。

 実は…副総理を歴任した祖父の教えで「政治家は社会経験をしてからなるべきだ」   その教えを守り日本有数の商社である三旗商事に勤務している。

 そして…ゆくゆくは父の地盤を引き継いで政治家になるつもりで居る。

 

 そんな時に、取引先に向かう車内から横断歩道を横切るカレンを発見、すると後ろから長身の外国人男性が追いかけて来て、カレンと一緒にオシャレなカフェに消えていった。


「な~んだ!彼が居たのか?…」

 普通の男であればそこで諦めるのだが、どこにそんな自信が有るのか?とんでもない思い上がりをしている春馬。


「何だ!あんなひょろっとした冴えない外人に、この由緒正しい政治家一家に生まれたジャパニーズ男児が負ける訳が無い!」


 どういう訳かこの春馬、根拠の無い自信だけは突拍子もなく大きく、ライバルが大きければ大きいほど燃え上がる男なのだ。


 あれだけ「もう私の半径10メートル以内に近づかないで。迷惑です」そうハッキリ言われていたにも拘らずネットで『女性に気に入られる方法や、ヨリを戻す方法』など、ありとあらゆる方法を調べ上げて研究している。


 まずは、ねぎらいの言葉が大事と書いてあったのでメールで———

「お疲れ様です。水泳毎日ご苦労様!」


「食事ちゃんと取ってる?」


「この健康ドリンクは体のバランスが良くなるから飲んで下さい」

 健康ドリンクやバランス栄養食などを度々送っている。


「ぐっすり眠って!おやすみなさい」


 だが、どれだけメ-ルを送ってもなしのつぶて。


(やっぱり金メダルを取ったジョンの方が良いのだろうか?)

 半分カレンの事を諦めかけている。


 辛い思いで、しょげてはいたが、丁度春馬も仕事が忙しくなり、それどころではなくなって来た。


 だが、カレンにすると、あれだけ頻繫にメールをくれていたのにピタリとメールが届かなくなり、やっと鬱陶しいスト-カ-もどきから解放される。そんな思いと何か……?一気に寂しさが押し寄せて来るのだった。


 カレンも自分は気付いていないが、実は…心の奥底にはいつも晴馬が良くも悪くも存在している。

 

 ◆▽◆

 …カレンも現在25歳で、あれだけ活躍したにも拘らず競泳選手として陰りが見え始めている。

 そんな事も有り、ある日、選手仲間と憂さ晴らしに、以前から気になって居た何ともお洒落でハイセンスな居酒屋に行った。


 選手仲間と日頃の憂さ晴らしで盛り上がり、ストレスも解消されて余裕が出来たのか、ふっと周りを見渡すと、なんと斜め後ろの奥の方で、春馬が海外のお客様と英語で話しているのが、微かに聞こえて来た。


 春馬の席からはカレンの席は見えにくいが、距離的に近いので話している内容を理解できた、

 春馬の事を、何の取り柄も無いと見くびっていたが、英語もペラペラで専門用語を使って話している様子に、驚きを通り越して尊敬へと変わって行った。


 かなり酔いが回り席を立ったカレンは、トイレに行こうと席を立ってトイレに向かった。

 すると晴馬が向こうから歩いてきた。


「ああカレンちゃん久しぶり!」

 笑顔を向けてくれた 春馬だったが———


「本当ね。久しぶり!」

 その一言であっさりと去って行ってしまった。

 

 いつもだったらしつこく付き纏い、「会って!会って!」とうるさいのだが、今日はあっさりと誘いの一言も無しに、去って行ってしまった。


 こんな風にされると………何か……寂しい………(もう私の事などどうでも良いのかしら?)

 人間とは勝手なもので付き纏われると逃げ出したくなるが、ク-ルな態度で突き放されると不安になって来るのだった。

  

 そう言えば、よくよく見ると知的で中々イイ男。

 更には大学も私立の雄K大学を卒業したと聞いている

 

 今までは冴えない男としか思っていなかったが、ス-ッ姿も様になって、何か……少し胸が”キュン”とときめいた気がしたカレン。


 それと同時に何故もっとちゃんと相手を見なかったのか、後悔の念が沸々と湧き上がって来るのだった。

 『逃がした魚は大きい』とはこの事だ



 ◆▽◆

 2時間ぐらい飲んで友達とカレンは店を出た。

 すると春馬が慌てて店の外に出て来て「ちょっと待っててくれないかな?」


 いつものカレンだったら相手にしないで、そそくさと帰っていたのだが、何かこの日は待ちたい気分になった。


 

 実は…ジョンと付き合っていたが、ジョンは水泳バカで、水泳の事しか出来ないばかりか、自分への投資が異常で、賞金で高級車を買ったりギャンブルにハマったりで、今までプレゼントらしいプレゼントは何一つ貰っていない。


 更には賞金で家族には立派な豪邸をプレゼントしているにもかかわらず、カレンには何一つ貰っていないどころの騒ぎではない。

 反対にカレンの方が食事代金や遊興費を払っている始末。


 こんなのでは、お金をこっちが貢がなくてはならない羽目になりそうで、早々にジョンとは別れていた。

 

 こうして色んな男達を見てきた結果、競泳では目が出なかったが、カレンを思う気持ちは誰にも負けない優しい春馬を選んだカレン。


 そして…翌年のカレン26歳、春馬28歳で紆余曲折色々あったが、目出度く結婚した。

 招待客も政財界や芸能界、著名人、スポーツ選手等々、それはそれは盛大な結婚式だった。

 

 めでたしめでたし


 終わり


 ◆追伸◆


 幼少期にはカレンが、この様な華々しい人生を送るなど、誰が想像できただろう。


 例え生まれてきた子供が少々難が有っても、それを導く母親によってカレンのような華麗なる人生を送る人達もいる。



 偉人たちの中には幼少期から青年期に掛けて普通では考えられない、有り得ない問題の数々を仕出かしていた問題児が多くいた。

 だが、家族が根気よく教え導いた事によって、天才へと様変わりして才能が花開いたのだ。


 例えば、幼少期のエジソンは学校の先生に、疑問に思う事があると何で?何で?の質問攻撃をしていたという。

 先生はエジソンの才能を見抜くどころか、授業に支障が出ると言って小学校に入学して僅か3ヶ月で退学にした

 

 だが、母親だけは理解を示し、才能に気付き必死に教え導き、探求することを全面的に応援してくれた。

 その結果、自分の興味のある研究に没頭し、発明家になることが出来たのだ。


 このように、好奇心旺盛なところと豊かな創造性に加えて、ADHDの特性があったからこそ、生涯で1300を超える発明を成し遂げる事が出来たのではないだろうか?


 ……幼少期が全てではない。また小中高でその子供の全てが決まった訳ではない。

 勉強が出来ない。やる事が遅れているからと諦めるのではなく、どの子供にも長所はある。その長所を見出してやる事こそが親の役目である。

 

 ひょっとしたらとんでもない、掘り出し物が眠っているかも知れない。

 子供の特性を見出し導いてやる事こそが、この世の宝を生み出す事になる。

 

 

 ◆▽◆

 生物には魂がある。そして…その人間が発明した機器は便利で精密だが、壊れたらそれで廃棄処分になる。

 精密な機器を生み出すのは人間だが、その無限の可能性を秘めた人間を生かすも殺すも周りの環境、親の育て方ひとつで変わってくる。


 生まれた時は、どんな天才も大殺人鬼も真っ新な魂だったのに………


 世界最凶殺人鬼の家庭環境は、まさに目を覆いたくなる劣悪な環境だったと聞いている。

 普通の五体満足な子供でさえ、劣悪な環境で育てば犯罪者に変わり果てる事も有るのに、普通の子供と違ってチョット変わっていたり、劣って居れば尚更の事だ。


 例え普通でなくても繊細な感情はある。

 そんな子供だからこそ尚更、親の助けが必要なのに、そんな繊細な魂を持つ幼児を、一番身近な親が愛情を注ぎ、かばい、導かなくてはいけないのに、普通の子供と違うからと言って「こんな子供なんか生まれなかったらよかった。全く困った。恥ずかしい子供だ」と隠し、さげすみ、放任し、冷たい言葉を浴びせかけ、愛情の欠片もない環境で虐待され続けたらどうなってしまう事か?


 世界最凶の殺人鬼がまさにそうだ。酷い虐待を受けていた子供が非常に多い。

 全部が全部ではないが、幼い頃から成績優秀な殺人鬼も少なからずいたと聞く。

 

 勿論、遺伝的要素も有るかもしれない。だが、そればかりではない。

 やはり家庭環境が大きく影響している。

 

 そのような環境下異常行動が見られたらしいが、それでも…それだけ狂暴なとんでもない殺人鬼だが、鋭い狂った集中力があるという事は、誠に失礼な例えではあるが、その興奮を別の事に集中させる事で、とんでもない天才になりうる事だってあったかもしれない。


 人間は機械ではない。

 魂のある生き物なのだ。

 例え何が有ろうと、その魂を狂わせ壊してはならない。

 無限の可能性を秘めた生き物を、世界が認める天才に導くのも大殺人鬼に狂わせるのも親次第。

 

 1つの事に凝り固まり過ぎるがゆえに、常人から見れば奇妙な行動を取り、変人に映るかもしれないが、そんなこと全てを親が盾となり、子供の見苦しい恥ずかしい行いも全て受け入れ、見放さないで抱きしめてやり守ってやる事こそが、何よりもの支えなのかもしれない。


 天才は親のぬくもりを感じ、愛された分だけ知らず知らずの内に、世の中に返そうと思っているのかも知れない。


 愛情とは、何ものにも代えがたい掛け替えのない唯一の真実なのだ。















 








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せ行進曲 あのね! @tsukc55384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ