第3話⁂カレンの躍進!⁂
母親は「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」との診断を聞かされ、多動性障害特有の有り余るエネルギーのはけ口として水泳を始めさせた。
それが、どういう訳か、あれよあれよと上達して、地区大会、県大会と優勝して行った。
何と、とんでもない才能が隠れていた。
小学校入学時に余りにも同年代の子供達に遅れを取っているので、キチンと病院で診察を受けた。
すると、やはり「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」だった。
こうして、もう直ぐ7歳の誕生日を迎える頃に、地元のスイミングスク-ルに通い始めた。
やがてカレンはスイミングスク-ルで目覚ましい活躍を発揮する。
(中学1年次)に全国中学校水泳競技大会女子100m・200mバタフライで2冠を達成し一気に頭角を現す。
オリンピック出場選手選考会が2004年4月にあり、日本選手権2位に入り弱冠14歳で、五輪出場権を獲得した。
こうして日本女子史上最強のスイマーとなったカレン。
でもこれは物語の中だけの話ではない、実際に史上最強のスポ-ツ選手の中にも、この様なハンディを抱えながら偉業を、達成している選手も少なからずいるのだ。
何ともあんな問題児で、授業中にうろ付いて生徒の邪魔ものでしかなかったカレンが、こんな躍進劇を果たすとは、世の中まんざら捨てたものではない。
一大会で複数の種目を制する様になったカレンは、100m、200mバタフライ、400m個人メドレーの日本記録保持者であり、自由形でも日本トップレベルの実力を誇る程になった。
その結果オリンピック出場が決まり、なんとオリンピックに出場して100m、200mバタフライで金メダルを獲得した。
200mバタフライでは、女子競泳史上最年少13歳9ヶ月で日本記録を更新してから 10年間、一度も保持者の座を明け渡さずに2度世界記録を更新した。
一人の選手が長い年月同じ種目の記録を更新し続けるということは、競泳史上では稀である
いつも、じっとしていられなくて授業中であろうが、何であろうが、うろつくカレンでは有ったが、家族だけはカレンを信じ見放さなかった。
カレンの可能性を信じ続けた家族も立派だったが、カレンも障害を乗り越え努力に努力を重ねて、このような輝かしい記録を打ち立てることが出来たのだ。
「カレンはいつも、『何故?何故?』と疑問に思ったことに対しての答えを求めていた。じっとしていられない多動ではあったが、疑問に思ったことに対しての集中力は凄まじかった。食事時間に、自分が泳いでる姿を何度も繰返しビデオで見て、泳ぎを真剣に研究していた。好きな事や興味のある事には、とても真剣に取り組みエネルギッシュな少女でした。」
母親はインタビューで娘カレンの人となりを、このように話していた。
カレンは大人になるにつれ多動も収まり、スイマ―としての華々しい経歴に加え高身長の何とも美しい女性に成長した。
オリンピック金メダリストのジョンや、日本の若手有望水泳選手からのアプロ-チとモテまくりだ。
かと言って男にうつつを抜かしている暇はない。
次の競技に向けての特訓でそれ所では無い。
そんな時に大物政治家結城賢伍の長男で水泳選手の結城春馬と、日本選手権水泳競技大会で出会った。
その時に当然カレンはバタフライや自由形で優勝を果たしているが、晴馬は予選敗退、2人の間には選手としての経歴には、歴然とした差が有る。
それなのに……その格の違いにも臆せず話し掛けて来て付き纏う晴馬に、迷惑とは思いつつも、何か他の有望選手とは違いほんわかした穏やかな春馬といると、厳しい選手生活の辛さから解放させられる思いがして、徐々に会う頻度も増して行き付き合い出した。
お坊ちゃまの晴馬はカレンを、それこそ一流のお店によく連れ出してくれ、プレゼントも目が飛び出るような高級品の数々を、惜しげもなくプレゼントしてくれた。
最初の内は穏やかな何とものんびりとした春馬に、毎日の殺伐とした厳しい中に身を投じているカレンとしては、救われた気がしていたが、よくよく付き合って見ると違った感情が湧いてきた。
(そうじゃないんだ?甘やかされて育った、私たちの様な厳しい環境に置かれた事の無い甘ったれお坊っちゃんなのだ・・・)
自分の事は棚に上げて自慢話ばかり、流石にうんざり気味のカレン。
口を開ければ祖父や父親の自慢ばかり。
「俺の祖父は副総裁を何回も務めていたんだ。まぁ~大した事はないが、ワッハッハー父親は外務大臣で、親戚筋も政治家ばかりなんだ。又偏差値の高い大卒ばかりでさ~ワッハッハー」
それでは春馬も、何故この様な自慢話ばかりするのか?こんな話をすれば嫌われる事は分かりそうなものだが?
実は…カレンと水泳選手としては余りにも差が有るので、しきりに背伸びをしているのだ。
だが、カレンにしたらこんな自慢話にうんざりどころか、辟易している。
日本の水泳選手期待の星で、こんなくだらない自慢話に付き合っていられるほど暇ではない。
最初はこの何とものんびりとした佇まいに、他の選手には無い安心感を感じたのだが、付き合い出して春馬を知っていく内に大嫌いになった。
こうして春馬からの携帯に一切出なくなった。
◆▽◆
連絡が取れなくなった晴馬は、まるでスト-カ-の様に、カレンの行く先々に現れカレンは益々春馬が嫌いになり、うんざりを通り越してあきれ返っている。
ある日余りにもしつこいので「もう私の半径10メートル以内に近づかないで。迷惑です」そうハッキリ言ってやった。
「僕の何が悪かったんだい?悪い所が有れば直すからさ?」
「もう人が見ているからやめて下さい。何を週刊誌に書き立てられるか分かったものじゃないから?……アッそれから……別に春馬とは付き合っていた訳じゃ無いから?」
「エエエ————ッ!それは………?それは………?でも?何回か会って食事しているじゃないか?何故急に携帯に出なくなったんだい?それが分かるまで引き下がらないから!」
「もう!じゃ~丁度昼食時間だから、個室の食事処で話しましょう」
こうして話し合いが持たれた。
◆▽◆
「俺の何がいけないんだ?」
「自慢話ばかりの春馬なんかウンザリなのよ。別に選手として実力がある訳でも無いのに他力本願も甚だしい。春馬に何があるって言うのよ?祖父や父親、親戚筋が立派なだけでしょう。それを自慢ばかりして……」
「……何も……何も……そんな言い方する事無いだろう?俺だってカレンちゃんにコンプレックスが有って………あんな事でも言わないと……同等の立場に立てないと思ったんだよ……」
「ともかく………もう会いたくないの。さようなら」
こうして完全に春馬と連絡を断ったカレン。
すると……ある夜……誰も知らないカレンの、遠征先のホテルのドアをしきりに叩く音が————
”ドンドンドン” ”ドンドンドン”
「カレンお願いだ❕開けてくれ!」
誰なのだろうか?………春馬?
つづく
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