地上 2日目
写真鳥は地上に上がる。上空は嘘のように晴れ、青い快晴の空が広がっている。地下では見れない自然の光、一度も見たことない太陽の眩しさに思わず目がくらむ。気温を温度計で見ると12℃あり、耐寒スーツは厚いので脱ぐ。シャッターを切りながら受けた依頼を確認するためメモ帳を取り出す。同時に写真館の艦長の言葉を思い出す。
『地上観測予報士から明日の午後は晴れるらしいんだ。ぜひ撮影してきてほしい。これは前金の1000連邦ドルだから、頼みましたぞ』
と言われている。メモ帳には簡素に、
・午後の晴れた空の写真
・溶けた地表の確認
・地表土のサンプル採取(本部研究班受け渡し任意50連邦ドル)
以上の3つがメモされていた。3つ目の項目は出発直前に本部からの電話で頼まれたものだ。写真鳥にもグレードがあり、ルーキー→ブロワー→シルバーノ→エクスプロスと4段階グレードがある。オクタ―ヤはシルバーノでそこそこ本部からの依頼をこなしているため、このサンプル回収もやる予定だ。まずは上空をカメラドローンで見渡す。これは録画して写真館ではなく別の映像屋にもっていく。次に空を撮影する。薄く雲が出ていたため、雲の出た山岳方面も撮影した。かつてこの街だった場所は猛吹雪と荒れ狂う嵐と風化によって大きな建物以外は更地になっている。山が見えるのもそのためだった、望遠レンズで6倍ズームで撮影する。写真鳥に支給されるカメラの解像度は折り紙付きで、普通のカメラだとガビガビになる描画距離でもクッキリと映る。6倍してなおこの解像度だ。エクスプロスになると最大24倍レンズとその性能に見合ったカメラを支給されるらしく彼女自身少しワクワクしていた。ハッと我に返り溶け出た地表から土を採取する。土はまるでシャーベットのようにシャクっと音がした。蓋を時計回りにキュッと閉めて腰のバックに入れる。依頼は終えたが、この雪が解けた風景はきっといい写真が撮れるだろう。ビックベン跡地を訪れシャッターを切る。ところどころ雪が残っているものの、ほぼ溶けているのでイイ感じの写真が撮れた。
「こんなもんか」
取れた写真に満足し、地下に戻り11階層ガロッソ地区のオクトパス写真館に向かう。昨日と同じ受付に声をかけ、昨日と同じ会議室へ通される。
「やぁやぁ、どうだったかね地上の晴れた空、綺麗だったかい?」
「あぁ、これが今日の写真だ。もう現像も終わってる」
現像はバックの中に入ってる携帯現像機で行った。11階層まで下りるには3時間かかるため現像は余裕で終わっていた。
「おぉ~これはこれは……よし3000でどうだ?」
オクタ―ヤは写真館の館長に不満を言う。
「地上は寒かったんだよなぁ~土がシャーベットだったんだぜ? ……もう一声ないか?」
館長は悩んだ末首を縦に振る。
「わかったわかった。いつも世話になってるしな、今現金払いで3450にしよう」
こうして取引は終了した。館を後にして、ルノワール地区の本部に向かい、自動入り口に会員証をかざす。
「オクタ―ヤ様。おかえりなさいませ」
自動音声が再生され、ゲートが開く。まっすぐ本部研究棟に入室し、受付に話しかける。
「オクタ―ヤだ。依頼されたサンプルだ」
サンプルを差し出すと受付は無言で75連邦ドルを差し出した。彼とは仲が良いが無口で気のいい人だ。いつも若干上乗せしてくれる。携帯端末で彼宛にお礼のメールをして家への帰路についた。自動出口は相変わらず、
「オクタ―ヤ様。行ってらっしゃいませ」
と、機械的な音声を流していた。
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